海の仲間はやさしいね

 

99’8.21

 5時半よりも少し前に目を覚ましました。ベッドから起きあがってベランダから外を見た時、パソコンラックがガタガタッガタガタと小刻みに揺れました。パソコンの上の棚のMDケースが音をたてたのです。すぐにテレビで地震情報が流れました。5時31分近畿地方で強い地震が観測されました。これから行く予定の和歌山中南部は震度4〜5でした。少し心配。余震が気になりましたが、急いで出掛ける用意をしなければなりませんでした。朝7時にshopに集合です。荷物の最終点検をして、いざ、出掛けようとすると、雨が降り出しました。でも、shopまでは15分程度ですから、あまり濡れないだろうと思い、カッパの上着だけを着て出掛けました。ところが、雨粒は次第に大きくなり、バイクで走り出して2つ目の信号で停車したときにはどしゃぶりになってしまいました。shopにたどり着いた頃には半ズボンが足の付け根あたりまでびしょ濡れでした。

 今回のツアーは和歌山の南部で1泊2日4本のダイビングです。私はバイクを裏の駐車場に回して裏口から入ると、既に男女含めて3〜4人の人が集まっていました。私はカッパを脱ぐと、一人の若い女性に見張り番をしてもらいながら、リュックの中から着替えの半ズボンを出して机の下に隠れて濡れた半ズボンを履き替えました。その後も彼女はこのツアーの間私を何かとサポートしてくれました。

 車を南へと走らせて2時間半、海が見えてきました。南部の付近は前夜に雨が降ったとのことで、川の濁り水が海に流れ出していて、海岸から数十メートルの所にうす茶色の川の水と青い海の水とを分ける線ができていました。私は車の窓の向こうの海を見て波やうねりの様子を見ました。荒れている様子はないけれど、透明度は今ひとつ良くなさそうです。もう一つ心配になってきたのは、約1年ぶりのダイビングだったので、緊張してきて、水着を忘れていたらどうしようかと思っていました。

 私たちは海のそばに車を止めると荷物を降ろして、すぐそばのダイビングショップ兼民宿で荷物をあけて水着に着替えました。それから、車を止めた場所で器材の装着をします。器材の装着に自信のない私は、その事を言葉に表しながら隣の人の酸素タンクの向きや器材の付け方を真似しようと必死なのですが、どうもうまくいかないようで、じれったく思ってくれたインストラクターさんが手伝って下さいました。

 ウエットスーツを腰まで着て、器材やフィン等の小物を船に乗せたらボートはすぐにロープをはずして動き始めました。海に出るのは本当に久しぶり、ドキドキワクワクです。また、今回はディープとマルチコースの人と一緒なので深いところまで行くと聞いていました。最初のポイントはミサチでした。ポイントに着くと急いで器材を身体に装着します。いつでも私はここでモタモタしてしまいます。みんなが次々とザブザブと海に入っていくのに、私は初心者丸出しという感じです。タンクを後ろから持ってもらいながらどうにかこうにか肩に背負いました。そして、船の前までフィンキックをしてアンカーロープにたどり着いたら、ロープを握りながら少しずつ海底へ沈んでいきます。

                      

 深度32メートル 潜水時間40分 透明度7m 水温27度。海の底で後悔したことは、久々の海の中でウェイトをいくらにするか迷ったのだけれど、結局重く付けすぎてしまっていて、動きにくくバタバタしなくてはいけませんでした。私はどちらかというとというよりも、一緒に潜るツアーの中ではいつも酸素がなくなるのが早いほうです。でも、やはりだいたいツアーに私と同じくらい酸素がなくなるのが早い人がいて、一緒に上がることになります。私はコンピューターを持っていないのでその人のコンピューターを頼りに安全停止をしてから浮上しました。ボートの梯子の一段目に足をかけたらフィンを脱がないといけないのですが、それにもまごまごしてしまう私はボートの上の人に言われるまま足を上にあげてフィンをはずしてもらいました。そして、やっとの思いでタンクを背中から降ろしました。ボートは波のリズムに合わせてゆらゆら揺れます。それに合わせて私も揺れます。次第に吐き気が催してきました。ウェットスーツの背中のジッパーをさげて胸元を楽にしました。みんながボートに上がってくる頃にはすっかり全身船酔い状態でした。

 みんながおいしそうにカレーを食べているのに、私はご飯を前にため息をついていました。そんな時にも、何も食べずに船酔いになるよりは何かお腹に入れておいて吐いた方が身体が楽だから、少しでも食べた方がいいと同じツアーのみんながアドバイスしてくれます。また、船酔いなんて気にしなくてもいいのだとも言ってくれます。それでも、私はご飯とサラダすら喉を通りにくく、自分でお皿に入れた物をきれいに食べることが出来ませんでした。酔い止めの薬はあらかじめ病院でもらって、今朝飲んでいたのに全く効かなかったようでした。そのくせ、副作用の眠気はちゃっかりときいてきて、ログを記入している間眠くてしようがありませんでした。

 南部の2本目のポイントはショウガセでした。深度は28m 潜水時間 40分。今度はさっきよりもウエイトを減らして海に入りました。みんな本当に親切でさっきの船酔いで少し気落ちしている私を励ましてくれて、ポイントに着くと早く海に入らなければまた海に入る前に私が船酔いするだろうからと器材の装着も手伝ってくれました。それなのに私はエントリーする時にカメラを船の中に落としてしまっていました。船から海に飛び込んで沈もうとしているときにインストラクターさんが私の腕にカメラがなく、オレンジ色のストラップだけがあるのを教えてくれました。私が驚いていると、多分海の上に浮いているだろうと白いボードに書いてくれました。魚の写真を撮ることができないのは残念だけれど、安心してみんなの後をついていきました。でもやっぱり、うねりがあると吐き気をもよおしてしまうのです。海の上に上がって、ボートが少しでもゆらゆら揺れているとダメでした。また、酸素がみんなより早くなくなるとそれだけ早くあがらないといけないのですが、それはボートの上で揺られながらみんなを待つことになります。みんなが海から上がってくる度にボートは大きく揺れます。みんなが上がってき始める頃には、私は空を背中にしてボートから頭を出していなければなりませんでした。

 やっとの思いで陸にたどり着くと、カラになったタンクを運んだり器材を片付けなければなりません。私がヨタヨタとタンクを運ぼうとしていると、手伝ってくれる人がいます。自分も初心者の頃に船酔いで何度も悩まされたと体験談を語ってくれる人がいます。本当にみんな親切です。

 

 ログブックを書いた後はみんなでバーベキューをしました。烏賊やホタテなどの海の物も美味しかったのですが、お昼に食べ損なったカレーがとても美味しかった。それと、お昼はあまり喉を通らなかったけど、夜はもう眠るだけということと、一日お腹にあまり食べ物が残らなかったこともあって、空腹だった私はご飯が美味しくてついついおかわりをしていました。お腹いっぱい食べたらすぐに眠くなって、まだ食べたり飲んでいる人もいるというのにウトウトとうたた寝をしていました。

 

99’8.22

 何時間眠ったでしょうか。よく眠りました。南部3本目のポイントはアディフです。カメラを折角持ってきていたのに、私はまだ一枚もシャッターを押すことが出来ずにいました。今回はインストラクターさんは魚のいるところに案内してくれると、シャッターチャンスも指導してくれました。私がおそるおそる魚に近づいてシャッターを押すと、もっと近づくようにジェスチャーをするのです。その後もかわいい魚を見つけてはシャッターを押しました。そして、大きな岩の根の周りを回って岩陰から私の顔ぐらいの大きさの大きな魚の群に出会ったところで大きなうねりがありました。またもや、水中でギブアップでした。レギュレーターを外さなければいけないほどでした。もう一度レギュレーターをくわえて呼吸が落ち着いてから浮上しました。もうそこは水面が近かったのですぐにアンカーロープを見つけることが出来ました。

 よろめきながら船に上がると、船乗りのおじさんがタンクを降ろすのを手伝ってくれました。私はタンクを背中から降ろすやいなや船縁へ駆け寄って船から頭を出しました。その様子を見て船乗りのおじさんが心配して、早く吐き出してしまった方がいいからと背中を撫でてくれたり、冷たいお茶をプラスチックのコップに入れてくれました。そのおじさんは他の人が船に上がるサポートをする合間を見ては、私の背中を撫でたり、お茶を勧めてくれたりしました。船が動き始めて停泊するまで私はぐったりと横になったり、頭をだしているかのどちらかでした。

 当初の予定では4本ダイビングをする予定でしたが、私はここでギブアップしてしまいました。みんな親切に励ましてくれましたが、「無理しなくてもいいよ」の言葉が優しく感じられました。4本目はみんなで船の上で記念写真を撮った後、私は陸にあがって、手を振って「いってらっしゃい」と見送りました。

 全てのダイビングが終わって車に荷物を積み終わると、背中にはオレンジ色の夕陽がたそがれていました。今回は本当にみんなに親切にしてもらいました。感謝の気持ちがいっぱいです。行きの車の中では、自己紹介もあまりしていなくて会話があまりなかったけど、潜る度毎に励ましてもらったり親切にしてもらったように思います。