[ 伝言の椅子 ]の背景


 もうかなり以前のことですが、知り合いの子供が小学生になるということで学習机の注文をいただきました。その際に、若く優しそうなお母さんとオシャマな女の子を見ていて、この「伝言の椅子」が生まれました。

 ちょうどその頃、「椅子の顔はどこにあるか?」などということを真剣に考えていて、絶対にバックだ、というか、バックにしなければいけない、という確信だけが先行していました。だって、単純に、机やテーブルに向えば椅子はバックしか見えないですから・・・。それに、今だったらあまりこだわりませんが、その時は、とにかくバックが顔であるためのシンボルが必要だと思い込んでいました。そして、そのシンボルの理由付けをお母さんと女の子に求めて、二人をつなげる何か・・・がバックの薄〜い抽斗になったわけです。
 便箋一枚が入るほどの薄い抽斗。お母さんと女の子がお手紙のやり取りを出来るようなポストみたいな抽斗。学校から帰ると真っ先に抽斗を開ける女の子。お母さんからのお手紙が入っていたときの喜び。それにお返事を書く女の子。・・・そんな情景を追いかけながらこの椅子ができた次第です。

 ところで、このときから、私の中で母と娘のテーマが生まれました。男の私には掴み所のない永遠のテーマです。また、この頃から女性仕様の工房家具を強く意識しはじめています。いろんな家具をつくっていると、その途中に節目になる家具を感じるときがあります。この伝言の椅子もその一つで、自分の中では常に大きな存在です。

 最近、お客様の提案で「伝言ベイビー」が誕生しました。まだ、生まれたてですからお母さんにまとわりついています。「伝言の椅子」のお母さんはそれを優しく受け止めています。それと比べると「伝言キッズ」は随分とお姉さんになったような気がします。さて、これから先、伝言ファミリーはどんな情景を見せてくれるか・・・我ながら楽しみです。


みずき工房/西 文和