木を隠すなら森へ


2000年9月6日
 斜向かいの幼なじみSちゃんの家にはよく入り浸っていました。私は長子だったのですが、Sちゃんには7歳上と3歳上の兄がいたので、いろいろめずらしいものがありました。
 二人の兄、かっ君とあきちゃんは、それぞれ個室を与えられていて、壁にはブルースリーのポスターに並んで、水着姿のアイドルのポスターなどもあり、小学生の私にとっては新鮮な世界でありました。(ちなみに、かっ君の好きだったタレントは、あべ静江だったような記憶が・・・)

 当時の小学生は暇を持て余していました。
 学校から帰ると、夕飯までの長い時間がありました。テレビアニメの再放送を友達と観たり(そういうわけで、今どきの30代の人々はビデオがなくても「巨人の星」を何回も観ることができたのです)外でかくれんぼしたり、家の中でかくれんぼしたり、リカちゃん人形で遊んだり、人生ゲームを繰返しやったり・・・
 毎日のことですし、しかも土曜日となれば午後は長く、親がどこにも連れていってくれない日曜日などは一日中「さあて何して遊ぼうか」と考えていました。

 Sちゃんちで遊んでいて退屈するとよく、兄たちの部屋に忍び込んでいました。とくに長兄かっ君の部屋にはレコードプレーヤーがあり、ピンクレディのドーナツ盤シングルも数枚あったのでそれを聴きながら踊りの練習をしたものです。
 ある日、踊りにも飽きて、かっ君のベッドで寝そべって少年漫画を読んでいたら、Sちゃんが、
 
 「ねえ、ねえ、エッチな本みたい?」
 
 と言うので、すかさず「見たい!」と答えると、Sちゃんはベッドと壁の隙間に手を差し込み、するりと本を取り出しました。

 「いっつもここにあるんだ」
 
 子供心にも「すいぶんと芸のないところに隠すもんだな」と思いましたが、ありがたく拝見させていただきました。
 

 それから月日は流れ、私も立派な大学生になり、ということは弟は立派な高校生になっており、ある日いつものように弟の部屋で少年ジャンプを読んでいるときにふと魔が差して、

 「弟もそろそろ、そういう本をどこかに隠すような年頃になったのでは?」

 と、いかにもありそうなところを探してみたら。やっぱりありました。ありがたく拝見させていただきました。まだ投稿写真誌がほのぼのしていたころでした。

 
 やはり小学生のときのことですが、同じクラスの友達の家に女の子数人で遊びにいきました。たしか4年生のときだったと思います。
 
 その家のお母さんは出かけていて、その家には私たちだけしかいませんでした。大人でもそうですが、子供も他人の家に行ったときにはあちこち見て回りたくなります。
 その子に案内されて、私たちはまるで住宅展示場を案内されるかのように家中を一回りしました。その家にはなんと「書斎」があって、それほど広くはないのですが、机を囲むように本棚が置いてありました。
 本棚にはぎっしり本が詰まっています。
 「わあ、○子ちゃんのお父さんて読書家なんだね」
 などと、子供たちが感嘆の声を挙げていたのに、当の○子ちゃんは、「そう?」とそっけない反応をしただけでした。

 そして、おもむろに本棚のガラス戸を開けると、そこに並んでいた「海外文学全集」かなんかを取り出し、その裏から数冊の本を抜き出しました。

 「こういうのもあるけど、見る?」

 みんなでありがたく拝見させていただきました。
 さすがに、読書家のお父様だけあって、写真集のようなものではなく官能小説でありました。

 ちなみに私の父は、あまりそういうものを好まないのか、隠すのがとても上手なのかわかりませんが、父の本棚(書斎なんてなかったので、家中あちこちに散らばっていて、私の部屋にも一つあった)でその類を発見することはなかったのですが、「ラテン語入門」の裏にこっそりと「完全なる結婚」がありまして、いろいろとお勉強させていただきました。
 


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