可燃物な日々

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11月15日(火)

 明け方、地震で目が覚めた。
 「あ、やべ」と思った。
 なぜなら、今日はサーヤの結婚式であり、サーヤがなんかニュースになることをやると、大きな災害が起こるというのは、統計的に検証されてるのかは知らないが、感覚的には、そうなんである。

 地震は大したことなかったようだ。でも、今日一日油断できん。

 イライザもいなくなったので、いつもより早く出社して、給湯室のセットなど朝の雑務をこなす。
 私の我がままでこういうことになったので、他人に迷惑をかけたくない。と言っても、毎日は無理なので、できるときだけね。(このあたりのテキトーさが、人生において重要なのである)

 ハイジは風邪気味だったが、昼過ぎからだんだん悪くなっていった。
 こりゃ、明日はダメかも。

 仕事は忙しいが、イライザがいなくて忙しいわけでもなく、この時期はこうなんである。
 ただ、電話番とか来客対応の人材が不足しているので、どうしても自分の仕事だけに集中できないんだけど、気をつかっているよりは、ややマシか。

 どうしても、15950円という金額が合わない残高があり、7月分から遡って検証していたが、とうとう合わないまま、6時を過ぎた。
 社長が「寒いから、なんか、暖かいものが食いたいなあ〜」と言い出したので、「じゃ、鍋にしましょっか」と、合わない残高は放置して、鍋食いに行ってしまった。また、明日、気持を新たにすれば、きっと合うよ。今日は、きっと、サーヤのせいでダメだったんだ。
 私が15950円でこんだけ悩んだので、きっと大震災も津波もテロも防げたに違いない。

 帰りのタクシーで、運転手さんの隣の部屋の住人が「猫を20匹飼っている」(そのアパートは、やや広めの1DKらしい)という話で盛り上がった。

 みんな大変だが、大変なのはたいてい自分の責任である。
 猫なんて、鍋にして食ってしまえ。
 私だって、たったの15950円。そんなの誤魔化すのチョロいよ。

 でも、たぶん、猫を20匹飼っている独身男性は、明日も座る場所がなく、立ってご飯を食べるのだろうし、私も明日また15950円の誤差のために、6時間くらい究明作業するのだろう。

 金額的には、大したことないんだが、なにせ、それを検証するのに、エクセルで500行くらいを比較検討しなくてはならないので、心理的ではなく、物理的に涙目になってしまう。

 でも、明日できなければ、明後日でもいいんだ。
 誰も15950円では、死なないから。
 つーか、自分の財布から、その金額出せば済むんだったら、そっちのほうがコスト的に安い。
 (自分の時給がいくらなのか、あんまり把握してないんじゃが。でも、たぶん、2500円くらい。6時時間分か)

 でも、もしその誤差が180円だったとしても、そのために数時間格闘しなきゃいけないわけだ。
 金額の問題ではなく、プライドの問題。

 でも、実は、こうやって、誤差が出てくるのは、けっこう好き。

 だって、原因究明はけっこう楽しいんだもん。

 まあ、もうちょっと時間に余裕があればいいんだけど、余裕なんて、自分で作るものだ。

 せっぱつまってても、ニコニコ笑顔だったら、「余裕」ってことなんだよな。
 時間じゃなくて、気持の問題。
 つーわけで、明日も笑顔で、ヘラヘラと原因究明しましょう。と、自分に言い聞かせるのであった。
11月14日(月)

 結局、イライザは今日で退職した。

 まあ、いろいろ問題もあったけど、終ってみると、ちょっと気の毒なやり方をしてしまったかな、と反省することしきり。

 派遣会社とも「今後のこと」を話し合ったが、部長も同席しているので、どうもやりにくい。
 たしかに、派遣会社の怠慢もあるのだが、でも、あんなもんだし、でも、あんなもんでもけっこう金とってるのは事実だけど、うちの会社だって、こんなもんだし、最初から、一発目でうまくいくとも思ってなかったし、まあ、我慢して数打てば、「こんな会社でも、ま、いっか。自分だって、たいしたことないし」って割り切ってくれる人が来てくれるかもしれない。

 かと言って、派遣会社に「あんましヤル気のない人がいい」なんて、本当のことを言うわけにもいかず、さらに「あんましヤル気はなくても、そこそこ頭のいい人」(←私のことだ)なんて言ってもしょうがないし。

 もう少し現実的に考えれば、なんとかやっていける人は「なんか変だけど、ま、いっか」と思える人である。
 さらに要求するなら「変だな」ってところを自分で変えていける人だったらいいんだけど、そう高望みもできないから「ま、いっか」でいいし、今までも長続きしていた人は、そういう中でも、自分でできる範囲で、テキトーに改善してやってくれた人である。

 というわけで、しばらくは欠員1名で、けっこう負担が大きいが、それも自分で選んだこと。ハイジもそれでいいと言っていたが、なんの関係もないM嬢にはほんとに迷惑かけることになるので、「こっちの我がままで、負担かけてごめん」と心の底から謝っておいた。

 つーわけで、しばらく残業モードになりそう。休みだけは、なんとか意地でもキープしたい。
11月13日(日)

 昨日は恒例のBBQ大会。
 外はけっこう寒かったが、夜になったら風も穏やかになったので、盛況でした。
 いつもだと、私は準備だけして、あまり後片付けをしないのだが、昨日は、女子社員の出席が少なかったので、酔っ払いつつも、洗い物をしたりゴミを集めたりしていた。

 なかなか閉会にならなかったが、私はチャングムが観たかったので、先に帰った。

 いろいろあった一週間だったので、今日は二日酔いも兼ねてぐったりと寝ていた。

 さすがに今日はアルコール抜き。肝臓も休ませないとな。

 来週も仕事が忙しいし、派遣社員の問題もあるので、気が重いが、なんとか体調を整えてがんばろ。

 風邪流行ってるから要注意である。まあ、こういう気の張ってるときには、わりかし大丈夫なんだろうけど。
11月11日(金)

 なんかもうぐったりざんす。

 昨日は、部長も社長も夜はどこかにさっさと消え、朝9時半から、大きな会合のため椅子や机の並べ替えをしていた総務部も夕方6時にはぐったりしていた。
 ハイジも、6時半過ぎには「今日は、もう帰ろうかな」と言っていたので、私は昨日のことを愚痴りたくなり「よかったら、ご飯食べて帰らない?」
 そんなこと私が言うのは珍しいというか、初めてかもしれないので、ハイジは「なんか、あるんすか?」と変な顔するので、「いや、Sさんのことでちょっと相談というか愚痴」

 M嬢にも声をかけてみたが、明日、研修で終日外出の彼女は「でも、この仕事が終らないから」と言うので、店が決まったら電話するので、終ったら来てね、ということにした。

 ハイジと差しでビールを飲み始めたら、もう二人とも、性悪OLのごとく、湯水のように愚痴がとまらない。
 あたしは、いつもこんなもんだが、ハイジもほんとに溜まってるんだな。男性と、こんなに愚痴愚痴で盛り上がったことなんて、生涯でも初めてかもしれない。長生きしていると、いろんなことがあるものである。あの、ハイジとあたしが、「で、彼女のよくないところはさ〜」なんて、ほろ酔い気分だけど超真剣に話しているのである。

 もう、ほんとに、我ながらしょーもない光景であった。
 元の上司であるOさんがこの光景を見たら、びっくりしたであろう。

 人と人とを堅く結びつけるのは「愛」ではなくて「共通の敵」であることを改めて深く確信した。
 もっとも、ハイジの言い分を全部真に受けているわけでもないので、話半分だし、だいたい、私が見たイライザだって、「私の視点」であり、話半分である。

 二人の「悪口大会」が盛り上がり、ジョッキの2杯目も空になったころ、M嬢登場。
 こうなったら、一人でも味方をつけておきたいので、M嬢にだいたいの経緯を説明した。
 M嬢は気炎を上げる私らに「ここは話しを合わせておかないと、私がいじめられる」と思っただろうけど、でも、彼女も「誰からも好かれる人気物」であるが、言いたいことははっきりと言うタイプ。
 M嬢の立場は「Sさんのことが嫌いではないが、なんか変な人だと思う」という程度だったが、なにしろ社内一の聞き上手さんだから、暴走機関車ハイジと自称・眠れるパトリオットミサイルなミヤノさんの勢いは増すばかり。

 結局、12時まで飲んでしまった。
 他の二人は家が近いが、私は結局タクシー帰宅。
 でも、こういうときに遣う金は無駄遣いではない。

 私が二人と話して確認したかったのは「私はもう我慢できないから、彼女がなるべく早く辞めてくれるように行動する」ということであった。後任が決まってから引継ぎなんてしないから、みんなに迷惑かけることになるので、「私の我がままで迷惑かけるが、すまん」と言っておきたかったのである。

 そんで、それをやるには、まず部長の了承がないと、ややこしいことになるので、そこらへん、及び越しで情けないのだが、しかし、他の二人も部長が面倒な人であるのは百も承知なので、最後の1時間くらいは、部長の悪口大会になってしまった。

 つーわけで、今日は二日酔いでダルダルだったのだが、ちゃんと早くに出社して、給湯室のセットをしていたら、イライザも出勤してきた。

 隣の部署の派遣社員も来たが、私より早く出勤していた隣の部署の男性社員がいるだけで、フロアは閑散としていた。

 しかし、イライザがさっそく、隣の部署の派遣社員を給湯室に引きずり込んで、お喋りしはじめたのである。
 前はよく、下のフロアの派遣社員が、このフロアのトイレ(下のフロアは男子トイレ)に来たときに、引きずり込んで、ずっと喋っているので、それも私はちょっと気にしており、「あの部署の部長に、ちょっと謝っておかないといけないなあ。じゃないと、あの子がサボってるって思われる」と心配していたのであった。

 もちろん、立ち話がいけないわけではない。
 でも、15分も出てこないというのは、ちょっと・・・・

 雑談するなら、自分の席でやればいいのに・・・・
 でも、たぶん、イライザは「席で無駄話しはいかん」と思っているようだ。

 それに、イライザが席に戻ってこなくても、私がいるからいいんだけど、隣の部署は、朝からカリカリと仕事している、私もちょっと苦手の男性社員がいるだけなのだ。もし、電話が鳴っても、彼女が戻らなかったら、彼は機嫌が悪くなるだろう。
 思い切って、給湯室に顔を出して、「ごめん、ちょっと他のフロアに行くから、席に戻ってくれる?」と言ったら「はーい」

 ま、そんなことは別に目くじらたてるようなもんでもない。
 でも、ちょっとムっとしたので(二日酔いで機嫌悪かったし)、私はなんせ「私もなぜかSさんに尊敬されてるのがキモくてしょうがない。ハイジを見習って嫌われたい」と昨日、酔っ払って愚痴りまくったのである。今こそ、「やつあたり」のチャンスじゃないか!

 そのチャンスを逃さんと、意を決して「Sさんは、ハイジに我慢していると言いました。私は、それでも仕事を続けるか辞めるかは、あたな次第だと言いました。で?決断できた?」と、突然絡んだ。

 当然のことながら、イライザはきょとんとしていた。
 「え?決断って?」
 「だから、辞めるの?辞めないの?どっち?」

 イライザもやっと私の言わんとしていることがわかったのか「私もいろいろ考えたんですけど・・・」とのらりくらりといつもの調子で言い始めたので、さらにカチンと来たというか、「もう、その態度には騙されないぞ」と己を鼓舞して「私も考えたんだけど、あなたにあんなこと言ったけど、でも、私だって我慢してて、もう限界だということに気がついたので、悪いけど、私が先に決断します。契約を延長はしません」

 私の弱点なのだが、怒ると涙も出てくるので、なんだか泣きそうな声を出していた。
 だから、あんまし怒りたくないのに〜〜〜

 しかし、Sさんは「私って、ミヤノさんにご迷惑をかけてたんですか?」と切り替えしてきたので、私がいったい何に腹をたてているのか、自分でもわかんなくなってきたが、こうなったら引き下がれないので、「はっきり言って、明日から来ないでいいくらいだ」とまで言った。

 「でもでも、契約が・・・・」とか言うので、そりゃごもっともだが、双方合意があればいいのである。
 ただ、向こうが派遣会社にケツまくりたくない気持もわかるので、それは尊重してあげたいが、12月末っていうのはゴメンだ。

 私の押しに負けたのか、向こうもそう思っていたのか、さっぱりわからないが、「できたら11月末で」と言わせたので、よーし。

 なんか、その後も、ごちゃごちゃ会話がかみ合わなかったが、とにかく「そっちさえよければ、今日でおしまいでも構わん」と言い切った。
 だが、そこまで言ってから「いけね、部長に話しつけないと」と思い出して、「とりあえず、期日はどうするか考えといて。私は部長の承認を貰うから」

 イライザはそこまで言われても「そうですよね、ミヤノさん、部長に気をつかってますもんね。でも、部長もミヤノさんのことを信頼してるみたいだから」とか言いやがるので、心の中で「これは信頼関係じゃなくて、処世術なの!」と自分に向かって叫んだ。

 さーて、そうなると、午前中は外出してて、午後戻りになっていた部長のご機嫌が気になる。
 午後2時、部長登場。
 わー、機嫌わる〜〜〜どーしよ。

 しかし、天は我に味方した。
 部長当てに親会社の社長から「いちゃもん電話」が入ったのである。
 部長は苦笑しながら「もー、かんべんしてよ」
 隣で、「わー大変だ」と過剰反応する私。「もう、参ったよ〜」と言いながら、事後処理電話に奔走しつつ、喫煙所でタバコ吸ってる部長に、「こんなときに、すいませんが、私もちょっとお話しが〜〜」と言うと「この件、まだ何件か連絡がいるから、そっちが先でいいよ」

 よーっしゃー
 なんか、こういのに妙に熟練してきた自分が嫌だし、調子に乗ると足をすくわれるのもよーくわかっているので、毎回が賭けなのだ。今日はバクチに勝ったらしい。今のとこ。まだ、第二コーナー回ったとこで、いい位置についているだけ。

 「すいません、私もオトナゲなくて、とうとうブチ切れてしまいまして・・・・」

 と、ついカっとなって、「明日から来ないでいい!」と啖呵切ってしまったということを説明した。
 部長はそれでも「ハイジのことで、まだ揉めてるのか?」と「ハイジの責任」という思い込みを崩さないので、「いえ、あまり悪口はいいたくないのですが、それとは関係なく、私が我慢の限界でした」と正直に述べたのだが、・・・・そこで部長のケータイが鳴って「ああ、会議中だった、ごめんごめん。ちょっとこちらに来れるかな?あ、でも、今、他の問題も抱えていて・・・・いやあ、今日はいろいろあるなあ(笑)・・・・で、こっちを先に片付けるから、30分後くらいでいい?」なんで、君はそんなにノリノリなんだ?

 揉め事の相談を受けて、最終的に自分が丸く治めるというのが大好きな人なのである。
 なので、私も部長になんとかしてほしいわけではなく、私に今度のことを一任してほしいだけなのだが、そーはいかない。

 部長に決裁貰うのは「365歩のマーチ」なのである。じわじわとやらないといけないのだが、私は気が短いのでそれが苦手。
 でも、彼は「即決」というのを嫌うので、結論に至るまでの経過が大事なのである。
 なので、30分くらい話し合って、「とにかく、相手は派遣なわけだから、派遣会社を通すのが筋だろう」という結論になった。

 でも、普通の派遣とは違うので、私としては派遣社員と直接意思確認したかったし、それに、啖呵切ってしまった手前、派遣会社の営業と部長が話しをして「もう少し様子を見てみましょう」なんてことになったら最悪。
 なので、何度も「とにかく、私はもう彼女とこれ以上、一緒に仕事する気はありません」という意思のアピールだけはなんとかしたつもりである。

 そんなこんなで、精神的にぐったりで、今日中にやらないといけない仕事が捗らない。
 イライザは飄々としていて不気味だったが、彼女も今日やるべき仕事が全然できてないことに5時頃気がついた。
 てゆーことは、今まで黙々と何やってたんだ?
 たぶん、仲良しの他部署の派遣社員にメールでも必死に打っていたのだろう。

 5時半ごろ「あれ?毎日5時に私が確認する仕事は?」って言ったら、「あ・・・・・」と全然やってなかった。それもすぐ終ったのだが、「あーあ、これだからな」と思っていたところで、「ちょっとお話しが」と言うので、席を移して話したら「やっぱり、よく考えたんですが、今日で終わりにしたいです」と言うので、「ごめん、私も部長に相談したら、この件は、派遣会社を挟んでやるべきで、これ以上、私とSさんで勝手に進めるなって言われたので、その通りだと思うし、実は今日、この後、担当者も来るの。だから、この後は、部長と派遣会社の担当者で話すから、私からはなんとも言えない。けっこうシビアな話しになってしまうかもしれないから、Sさんの都合を優先することはできなくなるかもしれないから、ごめんなさい」と言ったら、イライザも「私こそ、ミヤノさんに迷惑いっぱいかけてほんとにすいません」「いや、私こそ」


 そんで、6時半ころ担当者が来たのだが、どうやら私は早まったらしく、昨日の夜、やっとイライザが派遣会社の担当者に愚痴ったようなのである。だから、部長が穏便に言葉を選んで「彼女が思っていた仕事と、こちらの仕事が違うようだったので」と言ったのに、向こうの担当者は「実は、ちょっとSの話しと食い違っておりまして」

 しかし、その担当者もなかなかの営業マンなので、言葉を選んで言ったはずなのだが、彼に語った愚痴というのが「男性社員のとブツかったときに『オレは社員だが、君は派遣だろ?その態度はいかんだろ?』と言われたそうで、もちろん、それだけのことではなく、それ以前にいろいろあったのだと思いますが、でも、そういうことを言われると・・・」ということをもっと上手な言葉で言っていたのだが(派遣会社だって、うちを非難するつもりもないが、スタッフが侮辱されたという事実はきちんと押さえておきたいから、それをやんわりと指摘した)私は、それを聞いて爆笑しそうになってしまった。

 後で聞いても、全然感情移入できなかった「そもそもの発端」であるハイジのセリフであるが、私もM嬢もその場にいなかったので、それのどこがムカつくのかとうとうわからなかった。
 つーか、それが事実だとしても、事実だけ言っても他人には伝わらないのである。

 担当者はそれでポイントを稼いだつもりだったが、私は事前に部長に意見しており、そんときは部長は私の意見に前面賛同ではなかったが、そういうときに急にアレンジして「たしかに、それを言った社員もよくないとは思います。ただ、彼女の不満がたまたまその一言に凝縮しただけで、そもそも仕事への不満が積み重なっていたと私は解釈してます」と言い出したので、「お、部長、私の言うことちゃんと聞いている」と感心したが、でも、だったら、さっきもっと賛同してくれりゃいいのによ。兵器として使われるとちょっとな。

 ま、そんなかんじで、タヌキさんな男二人の会話をずっと横で聞いてるだけで、なんか虚しい。

 でも、男同士のそういう「双方のプライドを傷つけない着地点を探す。でも、客のほうが一段上っていうのは常識」という話し合いは、どうしても私に馴染まないことではあるが、でも、これを乗り越えないと、っていうか、男がOLの会話が理解できないのと同じように、これはこういうもんなんだと、割り切るしかない。

 最後のほうでやっと、向こうが「で、ミヤノさんのほうからはなにかあります?」と言ってきた。
 彼も、現場を仕切っているのは私のはずなのに、この「バリバリ営業マンで真意がさっぱりわからん難物」な部長に影で私が妻のように、一歩引いている姿は心の中でメモしているのであろう。
 あんまし、余計なことを言う雰囲気ではなかったので、手短にポソリといった。
 「いろいろ、トラブルがあるのはしょうがないのですが、彼女は思いつめると、仕事がそっちのけになってしまうようで・・・・」

 「あ、それはいけませんね、それは」

 向こうも、この一言で、私の言いたいことを理解してくれたようである。表面的には。

 で、結局、どうするか、こちらの希望するのは具体的には「何日まで」なのか、派遣会社もそっちの方向に話しを持っていったのだが、部長がなんじゃかんじゃ言って、「お互い、このままじゃ納得いかないから、双方納得できる形で」ということで、それもなんだかわからんが、とにかく派遣会社とSさんが調整してもらって、ということになった。

 部長は、その派遣会社のやり方を試しているのである。

 だが、派遣会社が帰ったあとで、二人で話したのだが、「月曜日に結論つけて、それで彼女にもきちんと納得して、挨拶してもらってから」というのが、大人だろう、ということになった。

 まあ、それはそうかも。

 私としては、派遣会社に非があるとは思ってないが、でも、派遣会社はそれで沢山手数料をとってるので、尻拭いも仕事のうちだろう。
 なんか釈然としないが、こういうもんなんだろう。

 もう、過程はどうでもいいや。
 なんか、なにもかもどうでもいい。とにかく、もうこれ以上、関わりたくない。っていうか、結果が出ればそれでよい。

 疲れた。
 長い一日だった。
 でも、その後もずっと残業しつつ、部長がまたあれこれ話し掛けてくるので、こっちも「手間かけちゃって悪いな」と思っていたので、ちゃんと相手した。

 なんか、来年、新たな仕事が増えるみたい。
 しばらく、左うちわだったけど、やはりそううまくはいかんな。

 一歩一歩やってくしかないし、目の前に障害物があったら、どんな手をつかっても排除する。そんだけのことだ。

 でも、ちょっと今回のことでは「いい子ちゃん」な自分を反省した。
 でも、やっぱり、それしかできないし、それで苦労してたとしても、こういうやり方しかできんしな。

 それに、きちんと意思表示すれば、たいていの人は私に味方してくれるようだし。
 まあ、今回の件で、ハイジも「ミヤノさんを味方につけると強いけど、敵に廻すと怖い」って思っただろうしな。
 でも、実は私が部長を操作したように、彼もそうしているような気になっているのかもしれない。

 なんだか、ちょびっとだけ人間不信になったが、でも、ほんのちょびっとだ。てゆーか、たぶん、これも持って生まれた性質で、そう簡単には変われないわけですよ。
 ただ自分は「きちんと話せば、なんとかなる」とも思ってないし、ダメなもんはダメって割り切ってるから、「ダメなもんでも、きちんと話せば、穏便に着地」っていうことは、今後もきちんとやっていくべきだろう。

 このワタクシが、珍しくブチ切れたら、それでお終いというわけにもいかんのである。

 いろいろ勉強になったが、さて、来週はどうなることやら。
 決算の仕事が後回しになってるんですけどっ  
11月9日(水)

 なーんか、毎日イライザのことを書いていますが、これって恋?(爆)

 さて、金曜日私がけっこうキツいこと言ったから、イライザが月曜日に具合悪くなっちゃったのかも。ま、それなら、それでいいんですけど、と思っていたが、昨日も今日もちゃんと来ていた。
 今日はハイジは終日外出だし、M嬢も休みだし、部長も社長も出張なので、総務はふたりっきり。

 私は休み明けで、しかも月曜にイライザが休んでくれたもんだから、今日までにやらなければいけない仕事が捗らず、今日の午前中にダッシュでやっていたので、なるべく話し掛けられないように隙を見せなかった。
 イライザもハイジがいない気楽さから、ブツブツ独り言をいいながら(癖みたい。それもハイジの気に触るようだが、奴も疲れてくると独り言が多くなっているので、それには気がついているのだろうか?)

 しかし、彼女がマイペースに仕事している様子を見ると「これって、我慢する決意を固めてしまったのだろうか?」と思えてきて、そうなると、今度は私が気が重いのであるが、一昨日友達に愚痴ったら「まあ、ミヤノの会社がレベル低いのはわかってるけど、その人も相当のもんだから、もう切るしかないんじゃない?」と言われ、でも、私は「いい人」というか「いい人もどき」だから、そういう決断はしにくい。

 しかし、このまま「ちょっとなあ」な人と一緒に仕事するしかないのなら、せめて私の反感を買わないように、しつけというか調教くらいは早めにしておきたい。

 夕方になって、目が疲れてきたので、パンチ穴を補強するためのパッチシールを地味に当てていた。
 私の大好きな息抜きの単純作業である。

 そしたらイライザがこっちにやってくる気配がしたが、私の隣にある席に書類を置くとか、そこに置いてある共有ファイルにファイルするとかいうことも多いので、そのまま顔も上げずにシール貼りしていたのだが、ふとまだ気配がするので、というか、たぶん向こうがアピールするために、私に確認してほしい書類を少し振ったのである。彼女の悪い癖だ。なんか言えってゆーの。

 私が根負けして顔を合わせると「これがわからないんですが」と書類を見せるので、説明して、「わかりました、ありがとうございました」と彼女が立ち去ろうとしたとき、「あのさ、こっちも大した作業してるわけないんだから、声かけてよ」と言うと、コクンと頷いたが、ほんとは「それってキモいからさ〜」と言いたかったけど、やっぱり言えず。

 それが失敗だったな。

 その後、イライザはタイムカードを持ってきて(うちの会社は派遣にもタイムカードを押させる)、「1日に早退してしまったとき、帰りに押すのを忘れまして・・・・」
 実は、派遣社員のタイムカードは「ただ押させてるだけ」であって、なんの効力もないんだが、一応「派遣会社に提出する勤務時間に嘘書いちゃだめよ」という意味もあるようなので、そういう場合には手書きしてもらって、社員がハンコを押す。

 そしたら、「あのとき、そのまま帰ってしまったんで、お茶碗洗っていただいてありがとうございました」という意味不明のことを言うので「えっと、そんな一週間以上前のことを言われても・・・・・ってゆーか、あたし、あの日、休みだったんですけど?」と言ったら、「そっか、そうでしたよね?じゃあ、誰が?」「さあ、Mさんでしょ?でも、誰もそんなこと気にしてないって」

 なんか、やっぱし「いろいろ考えてるんだけど、方向が間違っている」人らしい。

 そういう人はけっこう多いけど、このタイプが一番やっかいなんだよな。

 その後、今週土曜日の「社長宅でのBBQ会」の手伝いのことで、またネチネチ言ってくるので、「行きたくないなら、なんか理由つけて欠席してもいいよ?」とはっきり言ってやった。
 そしたら、休日にそんな用事で借り出されるのはいいとしても、「ハイジさんと休みの日まで顔を合わせるっていうのも・・・」と言うので、そんな気持じゃ、毎日顔合わせて仕事なんてできる状態じゃないだろ?

 しかも、前から散々「ちょっと大規模なホームパーティーの手伝い」と言っていたのに、何を勘違いしたのか「早朝集合だったりするのでしょうか?」と言うので、「だから〜、友達がホームパーティー開くときに、ちょっと早めに言ってジュースの買出しとか手伝うようなもんだって、前も言ったでしょ?」とついつい大声で言ってしまい、隣の部署の人が思わず振り向いてしまった。はずかひい。

 もー、しょーがないなーと思って、「Sさんて、思い込みが激しいって言われない?」と言ったら、イライザは「そう言われたことはないけど、考えすぎだってよく言われます」

 そういうのって、「無駄に長い会議」と同じで、たくさん考えたからって結論出るわけじゃないんだよね。
 しかも、結論出ればOKってもんでもなく、決まったことを実行するのが大変なんだけど、たいていの「考えすぎ」の人って、一生懸命考えてるだけで、何も決まらないんだよなあ。

 よし、ここは腹をくくって、きちんと「あなたは辞めたほうがいい」って言っておこう。

 しかし、世の中そんなに甘くない。
 その後の会話はけっこう「ミヤノさん、解脱寸前」であった。

 つーか、「あんたもう、明日から来なくていい」の一言が言えなかった私も悪いです。

S 「それで、先週、ミヤノさんにきっぱり言われたことは、ほんとに正しいなあ、と。たしかに、ハイジさんは変わりませんよね?」
私 「まあ、私も言いたいこと言っちゃうけど、Sさんも、けっこう変わってると思うよ」
S 「結局、私が我慢するしかないんですよね?」

 あんたはハイジのことが気に食わないらしいが、私も私なりに「あんたもダメだよ」って態度を表明しているつもりなのだが、彼女の世界には「自己批判」という単語はないらしく、問題は「超イヤなやつのハイジ」という絶対的なものに集約している。

S 「私も今まで働いてきて、あんな人には会ったことないです」
私 「まあ、この間もそう言ったけど、それは恵まれてたんだろうね。私が思うに、いままでけっこう仲良しモードでやってきた感じがするし」
S 「そうでもないですよ? 前の職場でも怒鳴られたことはあったけし・・・・」
私 「そういうときは、どうしたの?」
S 「そういう人は首になりました」

 ・・・・・え?
 それは、よっぽど、よっぽどの人だったんだろうなあ?
 つーか、その言い方、怖いんですけど・・・・・

私 「はあ・・・・・」(なんて返事していいのか困っている)
S 「この会社って、そういう人でも構わないんですね。そういう会社なんですね」
私 「はあ・・・・・」

 全然よくわかんないのだが、「私に敵対するような人は、社会人として最低な人であり、そういう人を雇う会社は変である」って意味にしかとれないのだが、私の読解力がなんか変?

S 「でも、やっぱり私、恵まれてたと思うんですよね、友達もいい人ばかりだし、職場の人もいい人ばかりだったし・・・・」

 あ、こいつ嫌い。
 「いい人」を連発する人はミヤノさん的には「即刻銃殺刑に処す」なのである。
 要するに「今までは、自分の都合よくいってた」だけじゃん。

 だいたい、職歴がブツ切りの人に「いい人ばかりでした」って言われても、そりゃ、入社して1ヶ月くらいの子には、そう本性はわからないだけだ。

 しかし、私も、自分の意地悪は自覚しているが、3%くらい「貧しきものに慈悲を」というマザーテレサなマインドも中途半端に所有しているので、ついついそこでまた説教モードに入ってしまった。つーか、目の前の小娘が「いままで上手くやっていたのに、どうしてハイジさんとは上手くいかなんでしょう?」とシラっと言うのに、我慢ならなかったのである。(そういうのは、マザーテレサではありません)

 しかし、敵も一筋縄ではいかない子であるから、「自分の話はあまり生き生きと語れない」というハンデがあり、たぶん、彼女はそれで生き延びているのだと思うが、自分の悩みを言っているのに「そういうとき、ミヤノさんだったらどうします?」とやたらと人に話しをさせようと引っ張るのである。ずるい。

S 「ミヤノさんは、こういう経験ないですか?」
私 「まあ、はっきり言って、世の中の3分の1とは合わないね。(おおげさ)」
S 「でも、我慢してるんですよね」
私 「・・・・・・・・・(ああ、今、我慢してる最中だよ。つーか、どうすれば我慢しないで済むか、必死で考えてるんですよ)」
S 「それって、やっぱし、経験なんですかね?」

 ぶちぶちぶちぶち

私 「経験は関係ないと思うよ。私は今までの職場でも馴染んできたし、それって性格だと思う。私が思うに、ハイジも直らんが、Sさんのその性格も直らないんだよね」

 我ながら、行間に悪意が滲み出たセリフである。
 しかし、この人に行間は通用しなかった。

S 「ミヤノさんは、この会社が合ってるってことなんですか?」

 おねげーですから「自分探し」はインドとかでやってください。私は修行しているわけではないんです。

 とりあえず、何言っても通じないから、相手にパンチを食らわせようと、

私 「私の豊富な経験から言うとね(笑)、Sさんとハイジみたいに、派手にケンカする人たちって、けっこう後になって出来ちゃったりするんだよね。」

 さすがのイライザもこれにはびっくりしていた。手をぶるんぶるんふって「とんでもない!それだけはありません!」

 お、やっと形勢逆転。
私 「みんなそう言うんだけどね、でも、結婚しちゃったりするのは、そういう人たちなんだよね。だって、ほんとに興味なければ、そんなにムキになって否定しないもん」(真理だ。深いなあ)
 
 イライザはマジで嫌がってました。

 で、彼女に「会社なんて、一見、みんな仲良さそうにやってるように見えるけど、実はそうじゃないこと多いと思うんだが、そういうのにも気がつかないの?」と言ってみた。私が部長のことを大嫌いなことに少しは気がついているのかなあ?と探りを入れてみたいのだ。

S 「わたし、そういうのってよくわからないんですよね。たしかに表面的なことしかわからないのかも。あ、でも、○○部のBさんは、影で何言ってるかわからないタイプかもってのは感づいてます」

私 「わはははは〜、やっぱり、あなたとハイジは似たもの同士だ!」
S 「え?なんでですか?」
私 「ハイジも過剰にBさんが嫌いでねえ」

 あの温和なクララにも「ハイジさんて、ほんとにBさんが気に入らないんですね」とおっとり言われてたもん。
 で、ハイジは「だって、あいつ、ウザいし、臭いんだもん」と、わけわからんこと言ってた。

 たしかに、B君はバカな中学生みたいな男性なのだが、あの人を公然と「嫌い」というのは、「おこちゃま度合いのリトマス紙」なんである。ガキはガキにムキになるのだ。大人は「あのガキパワーをなんとかいい方向に持っていこう」と冷静に作戦を練っているのである。

 なので、自信を持った私は「まあ、私から見れば、ハイジもイライザも同じように幼くて、性格も似てるし、どっちもどっちだと思ってます」と言ってあげたが、彼女は納得がいかないようだった。

私 「で、大事なことは、このまま我慢してここでやってくかってことでしょ?」

 しかし、ここまで話しても、「ただ、いろいろ考えてるだけ」の彼女の決意は固まらない。
 「そこまでして、頑張る会社でもないでしょ?」と背中を叩いてあげてるのに「でも契約期間が」と言うので、「双方合意の上なら派遣の契約期間なんてどうでもいいんだよ」と言っても、なんか不安そう。

 なので、さらに背中を押して「私だって、我慢してる人と一緒に仕事するのは、はっきり言って面倒。(つーか、今現在進行形で超うざい)だから、あなたを引き止めたいという気持はない。だったら、早く決断してもらえば、次を探せるから」

 ここまで言わせておいて、なぜ「うーん」と悩む?
 そんなたいそうな仕事でもないし、職場でもないだろう。

私 「たしかに、派遣会社には迷惑かけると思うけど、別に派遣会社に恩義もないだろうし、さっさと他に登録すりゃいいだけの話じゃん」

S 「そうですよね、そうなんですよね」

 変なところで気が小さくて困る。私はその後、ご親切にも「今まで辞めた人は、『親が入院して』とか、それぞれカドの立たない理由をつけてバックレてました」とコツを教えてあげた。
 そこまで必死に背中を押したというのに・・・・・

S 「私、ミヤノさんのことは本当に好きなんですよ」

 えーと、私は「あなたが明日からこなくても全然こまんないし、どっちかというとそっちのほうが私は幸せかも」っていうのを必死に行間に詰め込んだはずなのに・・・・・

S 「ミヤノさんだったら、こういう場合どうします?」
私 「・・・・・なんで私が決めるの?自分のことでしょ?」
S 「あ、そうですよね、そうでした・・・・」

 はっきり言っておこうと思って、「私があなたなら我慢しないね。Sさん自宅でしょ?生活かかってないでしょ?優先順位を整理することだ。なにが一番重要?もし、人生楽しくってのが重要だったら、我慢しないでしょ。借金かかえてなんとか我慢とか妻子抱えてるとかなら別だけど」

S 「そうですよね、みんなそうやって我慢してるんですよね」

 ああ、余計なことを言ってしまった。あんたの我慢は私の迷惑なんですけどっ。

 いや、もしかしたら、これも演技なのかな。私、これだけ意地悪を頑張って言ったつもりなのに、どうして、いい方に解釈されるんだろう。しまいにゃ「まあ、Sさんもここが合わなければ、合う職場を探せばいいだけだし、こっちもいくらでも他がいるだろうし」って言ったのだが、そこまでストレートに言っても、私の悪意が通じないのはなぜ?

 ひょっとして、やっぱしあたし、「新宿の母」とかを目指したほうが稼げるのかな?

 しかし、イライザとそんなこんなで30分も話していたら、もうぐったり。
 だめだ、体力が持たん。

 しかも、私がとうとう彼女の「やっぱり辞めようと思います」という決断を引き出せなかった無力感に浸っていたのに、彼女は帰り際また「ありがとうございました」とお菓子を差し出した。

 「あたし、こういうのいやなの。嫌いなの。Sさんのそういうとこがお子チャマでダメだと思うの」

 と、かなり切迫して「むかつく」を表明したのに、「じゃあ、お礼というわけではなく、残業の差し入れってことで」

 ダメだこの人、なんにもわかってない。
 イライザに「この人ムカツク」と思わせたハイジが偉大な人物だったのではないかとマジに思った。
 私はハイジに「人から嫌われる方法」を教わりたい。

 つーか、「ガツンと言ってやろう」がこうも好意的に解釈されてしまうのって、ある種の人徳なのかもしれないが、そんな人徳いらないから、早く目の前から消えてほしい。

 わかった。
 次回はちゃんとこう言おう。「イライザさんがハイジさんのことを気に食わないのと同じくらい、あたしもイライザさんのことが嫌です」

 そんなこと言いたくないから、なんとか行間を読んでほしいのだが・・・・
 やっぱ、文部省はもうちょっとちゃんとリテラシー教育してくれないとあかんかも。

 つーか、今日の会話でも確信したが、あの子かなり変!
 たぶん、他人の言うこと半分も理解してないんだろう。
 私の長い経験からいうと、今はまだ若いから大丈夫だけど、あのタイプは30歳過ぎたら精神的に破綻するぞ?

 で、私はああいうタイプに変に尊敬される人なんである。(本当に尊敬されてるかどうかは知らん)
 「ミヤノさんは意見をはっきり持ってていいですね」なんて言う人が、最も危険なタイプなのである。

 普通の人は、「そこまで言うか?」って聞き流すのである。

 うーむ、久々にまたヤバい物件をつかんでしまったかも。なんとかしなくては。きっと、ハイジはカナリヤみたいに敏感だったのだろう。あのM嬢ですら、ちょっと気がついている。ああ、まったくもー、めんどくさいなあ。

 えっと、とりあえず、まず部長に根回ししておかなくちゃ。(妙に現実的)

 やっと心を鬼にして、イライザを切る決心としたのだ、と日記には書いておこう。
 さて、どうなりますことやら。

 「おらおら、自分のやりたいようにやるんじゃ〜〜」ってけっこう体力つかうので、あんましやりたくないんですけど、ほら、平家も頼朝や義経に温情をかけて、あとで後悔したでしょ?
 私もここでふんばって「壇ノ浦回避」をしないとねえ。(←小心者なので、必死に背水の陣を捏造中)
11月8日(火)

 昨日は酔っ払って帰ってきたのだが、誰かと喋りたい気分になり、Mちゃんに電話してみたら、仕事も入ってないようで暇だというので「じゃあ、悪いけど、愚痴を聞いてくれ〜〜〜」と夜中の12時半からクドクド語りはじめた。

 イライザが昨日、病欠したのである。
 「体調が悪いので、今日は休んでもいいでしょうか?」と電話してきたので、心の中では「できれば来てほしいなあ」と思ったけど、私も気が弱いので、「あ、うん、まあしょうがないよね」と言ってしまったのであった。
 しかし、今日は私以外の総務部社員は他部署の応援に行ってしまったし、誰もいないならいないでなんとかなるが、部長や社長はいるので、来客や電話もいつもどおりになるので、なかなか自分の仕事が捗らない。

 そしたら、隣の部署の人が「どうやら、他部署応援は夕方には終りそうだ」というので「だったら、一人こっちに帰ってきて〜〜〜」とハイジに電話した。

 部長が昼には会議から戻ってきて「あれ?一人?Sは?」というので「体調悪くてお休みです」と苦笑しつつ言うと、部長も苦笑しながら「まあ、本当に具合悪いんだろうけど、この忙しいときに・・・・なんかタイミングが悪いよな」と言っていた。

 昼過ぎにハイジが戻ってきて、「Sさん、なんでお休みなんですか?」というので、「調子悪いって」というと、彼は「しょーがねーな」という顔をしたが、それだけだった。
 ふと、私が気がついて「そーだ、彼女の机の上に、たしか先週、今日処理の振込みがあったような」と言うと、ハイジがイライザの席をあちこち探して「ああ、これだ。じゃあ、処理しておきます」

 うーむ、このあたりもちょっと社会人としてなあ。
 休むのはしょうがないけど、今日やる仕事くらい覚えていてほしいなあ。うろ覚えでもいいから「たしか、今日処理の振込みがあったはず」くらい指示してくれてもなあ。
 たまたま、「変なところで妙に記憶力が優れている」私が、ってゆーか、実はイライザの仕事ぶりを全然信用してなかったので、先週彼女が急に休んだときにも、念のため彼女の机の上においてあった書類を確認しておいたのである。そのときに「ああ、これは来週でいいのか」と放っておいたので、思い出したのだ。

 まあ、しかし、週明けの仕事なんて、ちゃんと覚えている人がどれだけいるのかもわからないので、まあ、いいのだが(最悪、明日でも大丈夫な件だったし)、でも、そうなると、彼女は今日、他の社員がみんな不在で、私が一人で留守番している事態になるのもわかってなかったのかも。

 私も先週のうちに「月曜日は二人だけで留守番だからよろしくね」と声をかけておくべきだったが、金曜日にあまり和やかに会話できなかったので、つい言いそびれてしまったのだ。
 というか「嫌なら辞めても構わないよ」ときっぱり言ったひとに「じゃ、月曜はよろしく」って言いにくかったのだ。

 うーむ、もしかしたらハイジが他部署応援なことも知らなかったのかもしれない。「うちの会社は平日休む人も多いから、他人の予定もマメにチェックしておいたほうがいいよ」とは教えたけど、そうやって先を読む能力もそれをある程度ざっくりと憶えておく記憶力もあまりないようだし。

 だとしたら、朝の電話で「悪いけど、今日は人手が足らないから、具合がよくなったら昼になってもいいから出勤してほしい」くらい言えばよかったなあ。
 私の責任ではないにせよ、結果として「Sさん、やっぱりダメかも」というムードを強めてしまった。部長も苦笑していたし、ハイジはきっと「だからダメなんだよ」と確信してしまっただろうし、M嬢には「明日は来るのかなあ?」と言われても「さあ?わかんない」としか言いようがない。

 そんなわけで、微妙にストレスが溜まったので、友人Mちゃんに、イライザのトイレ篭城事件から始まって、その経過を愚痴ったのである。

 結局また長電話になり、空が白みかけて、コードレス電話の電池切れで終了。

 前日、かみちゃんに「明日休みだから、よかったら横浜トリエンナーレに行かない?」と声をかけていたので、電話中にも何度かメールが入っていたのだが、そちらもなんだかはっきりせず「車が手配できない(アッシーJ君がつからまらないらしい)から、ちょっと」とか「他にいかない?」とか「ご飯だけでも食べようか」などと言う内容で、総合的に判断すると「いまいち、気が乗らないようだ」と判断して、寝てしまったのだが、昼頃電話があり、「やっぱ昨日ほとんど寝てないから」と言うので、それは私も同じだったから「今日はやめとく」ということにした。

 そんで「じゃあ、夕飯でもどう?」と言ってみたのだが、「またいつでも誘ってよ」と言われたので、よくわからんが、今日はパスってことだと解釈して、また寝た。
 そんで、1時間くらいして、やっと目が覚めたので、「ああ、いい天気だ」と洗濯をして、少しだけ掃除もしていたら、また電話があったので「気が変わったのかな?」と思ったら、Mちゃんだった。

 「昨日は遅くまで、どーもどーも」というエールの交換のあと、「言い忘れたんだけど、また実家から果物が送られてきたので、貰ってよ」というので「じゃあ、よかったら夕飯でも」と言ったら「いいよ〜」と即答。

 どこで食事するか、しばし相談したが、私がふと「今流行りの・・・・って言っても、もうピークは過ぎてるけど、ジンギスカンでも行ってみない?」と言ったら、「そういや、昔何度か食べたけど、最近は食べてないなあ」というので、そうすることにした。

 実家のそばにも出来ていて、モンゴル帰りの母が「あ、モンゴルですって?モンゴル料理なのかしら?」と興味を示したので「ジンギスカンはモンゴル料理ではありません。あれは北海道料理です」と教育的指導をした紛らわしい店名の「ヤマダ モンゴル」に入った。

 肉を二人で4皿に、野菜追加したら(+生ビール2杯づつ)、おなかいっぱいになった。会計は6000円。店頭においてあった割引券500円で、5500円。味はまあまあ。

 その後、コーヒー飲んで10時には帰宅。
 Mちゃんに「今度はカラオケ行こう。ストレスが溜まったら、カラオケだよ」と言われた。
 たしかにそうだ。よろしくおねがいいたします。

 さて、今日はイライザは出勤していたのだろうか?ちょっと心配である。
 しかも、今日は部長も社長も出張だし、昨日とは逆に、ハイジとM嬢しかいないのである。ハイジは不機嫌に接するにちがいないし(トイレ篭城事件以降の初顔合わせなのである。ハイジもかなり気まずいに違いない)、またブツからないといいのだが。

 そういや、昨日、社長と飲んでいたら(私は行くつもりなかったんだけど、部長が仕事が終らないので、「ミヤノ、行ける?」としつこいので、「わかりました、じゃあ、部長の替わりに飲んできます」(部長はゲコゲコさんなので、嫌味とも冗談ともつかぬ軽口)と渋々参加)途中でもう一人いた人の携帯が鳴って中座してしまったので、私が話題に困っていたら、社長のほうから「Aはどうだ?」

 決算期なので、今期の実績予想や来期の予想、来期の目標などの作成を任されたハイジは、かなり張り切っているのである。なので社長は「けっこう、あいつ、ピリピリしているんじゃないか?」と言うので「たしかに大変そうですが、私が思うに、かなり嬉しそうですよ。」

 元々、ハイジがやりたいと思っていた「経理上級」の仕事である。
 去年から部長からは、あれこれ指示されてて、「どーすりゃいいのよ」とかなりテンパっていたが、あれこれやっているうちにコツがつかめてきたみたいで、それに、きちんとしたものを出してきたので、社長も最近はハイジに直接「ああだこうだ」言うようになり、それでハイジはさらに張り切っているのである。

 私もその仕事ぶりは認めているので(私はあの仕事が嫌いだったので、けっこうノラリクラリとやっていたのだった)、素直な感想を社長に述べた。「彼は集中力があるから、あれだけややこしいのに、けっこうなスピードでやりますからねえ。それに、あれこれ意見言われたほうが、燃えるタイプなので、けっこう勢いに乗ってます」

 社長も笑いながら「そうだろ、そうだろ。今日も、ここをなんとかせい、そこはお前が決めていい、って言ったら、嬉しそうだったな。ありゃ、もっとつつけば、もっとやるタイプだな」と言うので、私も調子に乗って「言い方悪いですけど、ニンジンぶら下げて、ちょっとずつ前に進めると、かなり走ると思いますね」

 こうして書いていると、あまり誉めているように思えないが(自分で)、私なりにきちんと持ち上げておいたつもりである。ハイジが昇給したら、少し分けてほしいものだ(笑)。

 まあ、そうやって私が飲み会で社長が言ったセリフを収拾してきて、「社長が、よくやってるって言ってたよ」なんて言うと、ハイジも喜ぶし、それでご機嫌が少しでもよくなってくれればいいのである。
 今までも、飲み会の席で「そうだ、Aに、集計するのはいいけど、そこに自分の意見や分析もいれろ」というので、「わかりました言っておきます」と言ったら「あいつだって、数字だけ並べてたって、つまらんだろ?」と言うので、「そのとーりです。それが経理のジレンマなんですけどね。集計だけ提出しても、わりと外からの反応が鈍いのは、彼も気にしてます。だから、本人にあれこれ言ってあげると喜ぶと思います」と言っておいた。

 翌日、さっそくハイジに「社長からの伝言です」と伝えると「えー、それってどうすればいいんだろう?」と言うので、「まあ、最初から完璧にできるわけないから、まず好きなようにやってみて、それで意見をいただいて、調整してくしかないんじゃない?それに、社長も『集計だけじゃツマラんだろう』って、ちゃんとわかってて言ってるんだから、遊び心で思いっきりやってみれば?」と言ってやった。

 私の気配りがきいたのか、最近は社長も直接ハイジに意見してるし、ハイジも部長に遠慮せずに社長に直接確認できるようになったみたい。まあ、今後は、ここがサル山であることもたまには思い出して、部長への配慮も忘れずにって言っておかないとな。今んとこ大丈夫そうだけど。

 ほんとに私ったら、いい上司よね。
 上司のつもりでやってないけど。

 さて、以上、「わたしって、なんて仕事ができるのかしら」というセルフ毛繕いは終了。

 明日から、毛並みの整った姿でがんばりましょう。

 そういや、ここんとこ心の手入れに忙しくて、爪の手入れなんて全然してねーよ。せめて爪くらいちゃんと切ろう。 
11月6日(日)

 なんか、ここ数日の日記は、ほんとに身辺雑記というか、半径10メートル以内のことについて、ネチネチと愚痴や憶測を書いて憂さを晴らしているだけで、我ながら「人間がちいせえ」とは思うが、しかしですね、「会社の隣の席の人とうまくいかない」というのは、「なんで、日本の隣人は、北朝鮮だったり中国だったりするんだ?」という問題と同じなのである。

 私はそういう教育を受けてきた、兄弟げんかをするたびに、母に「ケンカは戦争の始まり」と叱られていたのである。でも、そう言っておきながら、父と夫婦喧嘩をする母から、「ダブル・スタンダード」という概念まで勝手に学んだ。

 つーか、みんな他人には偉そうに説教するけど、自分がその説を実行しているわけではないのである。
 でも「言っていることと、やっていることが違う」としても、その人の「言っていること」が、全て間違っているわけでもない。
 だからって、「私の言っていることは正しい」と言うつもりもないけど。

 さて、もっと世間話的なことでも書こう。
 今日は5時起きだったので、昨日は早寝しようと思ったのだが、たっぷり昼寝していたので、なかなか寝付けず、「ああ、チャングムを観るつもりじゃなかったのに」と思いながらしっかり観てしまった。

 最近の土曜日のテレビの道順は「アド街」→「エンタの神様」→「チャングム」→「オンエアバトル」→「ER」なのである。

 当初の予定では「エンタの神様」を子守唄にテレビのスリープ機能にセットしていつのまにか寝る、というものであったが、やっぱダメでした。
 そんで、やはり話題のチャングムは普通に面白いので、ついつい寝られない。

 しかし、面白いのであるが、前にも書いたけど、時代劇だから登場人物の髪型と服装がほとんどお揃いなので、なかなか顔が覚えられない。
 それでも、女官たちの顔はなんとか覚えてきたのだが、まだ名前がわからない。

 おさらいのために、NHKのHPで確認したら、なんで混乱していたのかがやっとわかった。
 スラッカンというのは王の食事を用意する部署なのだが、チャングムが目標としているのが「スラッカンのチェゴサングン」という役職。チェゴサングンというのが、スラッカンのボスなのである。

 ところが、たいへん紛らわしいことに、5代に渡って、スラッカンのチェゴサングンを仕切っているのが「チェ一族」

 なので、現。チェゴサングン様は、正式には「チェ・チェゴサングン」なのである。
 そんで、その後継者として有力なのが、「チェ・チェゴサングン」の姪である「チェ・サングン」
 その同期のライバルで、実は昔、チャングムの亡き母の親友だったのが「ハン・サングン」である。

 なので、「チェゴサングン様があ」という会話があると、ボスのほうなのか、姪のほうなのかよくわかんなくなるし、「サングン」という耳慣れない単語に翻弄されるので、名前がなんだかわかんなくなってしまうのだ。

 日本語で言えば、チェ理事とハン理事がいて、チェ理事長っていうのがボスで・・・・あ、そうじゃなくて、長・理事というのと、反・理事っていうのがいて、長・理事長っていうのがいるのか・・・・


 うむ、しかし、自分が何に混乱しているのか原因がわかれば、早く習得できるであろう。てゆーか、最初からちゃんと全部観てるんだから、いいかげん慣れろって話ではある。(耳が悪いので・・・・難聴ではなく、精神的に・・・・字で観て学習しないと絶対にダメなのである)

 「オンエアバトル」で、少し眠くなってきたのだが、「尾崎豊のモノマネで叫ぶ芸人」が出てきて、なんか前も観たことあったような気がするが、今回のネタは最高で、半分寝ていたのに、しっかり目が覚めてしまった。
 尾崎ネタは、けっこういろいろアレンジできそうだ。

 知らない人のために、どういうネタか説明しても、さっぱりわからんとは思うが、あの独特の尾崎喋りで、「体脂肪計がついた体重計がこう叫んだ・・・・・もう、これ以上、自分のせいで誰かを傷つけたくないんだ!」とか絶叫するのである。大爆笑である。
 よく、「名優伝説」で、「電話帳を上から読み上げただけで、観客を全員泣かせた名優」なんて話があるけど、あれは本当にできるのかもしれないと思った。

 さて、そんなわけで「私、明日は4時半に目覚ましセットしているんすけど」と自分に突っ込みをいれつつ、「ER」が始まってしまった。しゃーねー観るか。これ観ちゃうと、2時間半しか眠れないんですけど。

 先週は、わりとマッタリしていたような気がするけど、今週はまたヒートアップ。
 つーか、「あんたのその態度サイテー」と罵り合っているのに感情移入してしまうのは、私の「現状」とシンクロしているから余計に盛り上がるのであろう。

 こんど、イライザに愚痴られたら「ERを観て、よく勉強するように」って指導しよう。

 そういや、前に勤めていた会社でも、よく衝突していた20代後半の男女がいた。
 男子のほうも、普段はおっとりとしたいい子だったし(おねーさんからしてみれば)、女子のほうも、さっぱりした少年っぽい女の子だったのだが、なぜか仕事でよく衝突していて、女子は泣き出すし、男子は「あいつにいろいろ言われると、ついムっとする」と嘆いていた。

 その頃から、私はその様子を観察しつつ「ふーん、愛ね」と思っていたのだが、やっぱり私が会社を辞めてからの風の便りで「あの二人、付き合ってるんだって」と聞いて、「わーい、齢30歳にして、やっと見抜けたオフィス・ラブの兆候」と、とても喜んだのであった。

 私もその会社で、よくブツかる男の先輩がいたけど、どっちかというと、それに感情剥き出しにして怒っていたのは、私の同僚(でも半年くらい先輩)だったのだが、私はそいつをグーで殴る夢を観てから「これって、なんか恋愛感情に近い」と思って、「怒り」を自制したのだ。
 だって、ムカついて、昼も夜もそいつのことが頭から離れないのって、「恋」と同じじゃん(笑)
 そりゃ、「みてろ、今にギャフンと言わせたる」と思ってるのと「恋」は違うものだけど、脳内分泌物はそういうのの区別してないようで、冷静になってみると、ほとんど同じ感情だったのだ。

 風呂に手を入れて「熱い」と「冷たい」の区別が一瞬つかないのと似ているかもしれない。
 両極端なものは、メビウスの輪で繋がっているのである。

 で、よくネットで吊るし上げられていたりするものも、「愛ね〜」というのが多い。
 自分でもそうだけど、「ああ、この人の書いたこの文章はなんて素晴らしいんだろう」と誉めようとすると、わりと言葉が湧き出してこないのだが、「なんじゃこりゃ、ムカつく〜」と思うと、悪口なら際限なく出てきたりするのである。
 石原シンタローなんかは、好きな人は「さすが、シンタロー氏」で終るけど、「むかつく〜」という人が大騒ぎするので、そういう愛の二面性を操るのが天才的に上手い人だと思う。

 とくダネの小倉氏もよくわかってらっしゃる人だ。あれが「本当にいい」と思っている人は「小倉さんて、ほんとに守備範囲が広くて、博識ねえ」だけだと思うが、ムカつく人にとっては、ほんとに我慢できないのだが、その感情にとらわれるのがなんか快感なんで、ついつい観てしまいます。

 なので、「嫌われる」ことって重要なんですよ。
 私がわざわざそんな説教しなくても、有名人の皆さんはよくわかっていると思いますけど、「好感度」っていうのは、あまり金にならんのである。
 それは恋愛でもいっしょ。「いい人だ」とは思っても、「いい人」にアタックする気はあまり起きない。
 宗教だってそうだよね。全部が全部とは言わないが、「憎しみがないところに、本当の愛は育たない」という真理を皆さん、律儀に実践しちょるようです。

 よーし、今度、ハイジとイライザが揉めたら、この説教してやろう。
 二人とも嫌がるだろうなあ(笑)
 楽しみ〜〜〜〜

 と、要らぬ準備をしておくと、それが不要になることも多いという(降水率30%くらいでも、傘を持って出ると降らない)、けっこうマジで「マーフィーの法則」の有効利用をまた画策しておりますが、なかなかマーヒーさんは私の思い通りにはなってくれないけど、まあいいや、ゴチャゴチャと作戦練ってると、私が楽しいから。(他にやることねーのかよ)

 さて、そんなこんなで、「ER」を観終わったら1時45分で、それからやっと寝付いたようですが、なんか目覚ましが鳴っても、わけわかんなくて、オロオロしているうちに「あ、そうだ、早起きなんだ」とちゃんと目が覚めたら、睡眠の波がよかったのか、きっぱり目が覚めた。

 日曜早朝出勤の楽しみで(ポリアンナの「いいこと探し」と同じマインド)、NHKの落語を聞きながら支度。でも、「福寿禄」という人情噺だったんで、「どうしよう、オチまで見ると、電車ギリギリ」と思ったが、気になるのも嫌だったので「後に、この人は立派な人になりました」というオチを確認してから、けっきょく、駅まで半分くらい走るはめになってしまった。ぜーぜー

 今回も、一番客の少ないラクな会場に割り振られたので、けっこうのんびりできた。でも、けっこう寒かったのでそれなりに辛かったけど。
 イベント会場のセクション責任者になったのも数回目なので、だんだん指示を出す手順にも慣れてきた。でも、私がチーフでも、スタッフがみんな親会社や叔父会社の人たちなので、気をつかうし、向こうはガンガン文句言ってくるので、そらが後でクレームにあがらないように、ニッコリきちんと対処しないといけないので、精神的にくたばれる。

 も〜、私なんて、深窓の経理のおねーさんなんだからさあ・・・・と言い訳をしたいけど、そんな言い訳通用しないのわかっているから、客の誘導の際に大声で案内するのなんて超苦手なのであるが、「とにかく声出して頑張ってれば、悪いようには言われない」という理論にのっとり頑張りました。

 それに、苦手ではあるが、ああいう順路の案内だと、ボヤっと立って、客が聞いてくるのを待つよりも、先に「まっすぐ進んで右側でございます〜」なんて怒鳴っていたほうが、「あっちか?こっちか?」と迷う客も少なくなるので、個別対応する回数が減るし、それにワーワーなんか言っていたほうが、客もなんか質問しやすいらしく、パっと目が合うと「なんでしょう?」とニコヤカにやっていれば、客も「きちんと案内してるな」と満足するじゃん?

 なんかミスがあっても、こっちが余裕をもってきちんと対処すれば、そんなに大きなクレームにはならないはずだ。
 と、私なりに頑張ってはいるのだが、やはりあまり向いてない仕事なので、大変なんですが、また来月も他の場所に行かないといけなくて、最近、初めていく場所ばかりだから、よけいに大変なのである。

 さて、睡眠不足だし、今日は早寝するかね?
 って、まだ夕方5時か・・・・
11月5日(土)

 昨日は甕出しショウコウ酒をたらふく飲んで帰ってきたので、相当よっぱらっていたのだが、「でも、今日の出来事は熱いうちに書いておかないと」と思って、酔った勢いで書いてみたのだが、毎回不思議だけど、翌日読み返してみても、そんなに文章が酔っ払っていない。

 そう思っているのは自分だけで、他人には一目瞭然なのかもしれないけど、でも、自分では「酔った勢いで書いた日記」と「シラフのときの日記」の区別があまりつかないので、後世のために「昨日は相当よぱらってました」とここにきちんと記しておく。

 だから、どうなんだって話であるが(笑)

 会社の部下2名のバトルが面白いので、またあだ名でもつけてみようかと思った。

 前は、おっとりした「クララ」と、ヤンチャな「ハイジ」と、ハイジに振り回されて卒倒寸前の自分を「ロッテンマイヤー先生」と名づけて、「私って天才」と自己満足に浸っていたけど、その後、クララは歩けるようになって遠くに行ってしまったし、ハイジも成長して、今では経理課の「若奥様」になり、元・家庭教師のロッテンマイヤー先生は、「ハイジ様、今日の晩餐会の支度はこれでよろしいでしょうか?」なんて、逆に指示を仰いでいるし、それでもやはり年の功で、「ロッテンマイヤー先生、弔電ってどうすればいいんですか?」なんて聞かれるので、「それは、テキトーに例文を使うのです。誰も会社の義理の電報に心のこもった文章なんて期待してませんから」と丁寧に教えてあげている。

 うーむ、やっぱし「キャンディとイライザ」がいいかなあ(笑)
 Sさんは、ちょっとイライザっぽいかも。なんか精神的に過重がかかると、イライザっぽく口が歪むので。

 まあ、ハイジはハイジのままでいいや。じゃあ、Sさんをとりあえずイライザにしておこう。

 ハイジとイライザはけっこう似たもの同士である。
 どちらもプライドが高い上昇志向の持ち主である。

 だから、「ハイジさん、学校に通って勉強してて凄い!」と持ち上げていたし、「応援してます」なんて言っていたのだ。
 なので、イライザは、そういう部分でハイジと話を合わせようと、「私も将来はコンサルタントになりたいんです」なんて話したので、ハイジもそれを真に受けているのだ。

 ハイジだって、本当は総務の雑用なんてやりたくない。
 でも、それも仕事のうちだと諦めて、きちんとこなしているのである。
 あと、代表電話にかかってくる「営業電話」の応対や、来客応対なんかも、ハイジが嫌いな仕事であるが、「誰だってやりたくてやっているわけじゃない」と割り切っているし、それに、来客へのお茶だしはやらない分、電話や電球替えなんかはちゃんと積極的にやってくれる。

 もちろん、ややこしい仕事に集中したいときに、そういう雑務で中断されるのは嫌だけど、先輩である私やM嬢だって、もっと雑用をやっているので、彼も我慢しているのだ。
 私はどっちかというと、雑用があったほうが気晴らしになるので「別に嫌々やってるわけじゃないよ?それにお茶出ししてると、客の動向もわかるし、仕事に関係ない雑用じゃないと思ってるもん」とハイジに言うと、ハイジも「ふーん」とわかってんだか、わかってないんだか。

 で、ハイジとしては「やりたくないけど、しょうがない雑用」を我慢してやっているのに、後から来たイライザがそれを愚痴るのが面白くないのだ。

 イライザは私にもちょっとだけ愚痴ったけど、私は「郵便物や宅配便の受付をやっていると、どこの部署がどんな動きしているのかわかるので、それは電話受付もそうなんだけど、その気になって興味を持てば、会社の動きが全部把握できるよ?」などと言ってしまうので、イライザにすれば、それはきれいごとにしか思えないというか、とりあえず「この人に愚痴を言っても暖簾に腕押し・・・・」と思ったようで、あまり言わなくなってしまった。

 なので、イライザ的には「ミヤノさんは、ちょっと別次元の人」ということになったのか、「次元が同じ」そうに見えたハイジには、けっこう本音を漏らしていたようだ。

 ただ、イライザは「男子」というのをよくわかってなかったので、女子同士だと「愚痴を言い合ってグルーミング行為」というのが成り立つが、ハイジにはそういう愚痴の言い合いの構造がさっぱりわかってないので、それを「意見」というか「文句」として真に受けてしまったのである。

 だから、イライザは「女子同士の会話」のつもりで「ハイジさんって、午前中と午後で雰囲気が違いますよね?」と言っただけで、ハイジが女の子だったら「えー、私ってそうなの?ごめん、自分では気がつかなくて。でも、私になんか悪いことがあったら遠慮せずに言ってね?そうやって、ほんとのこと言ってくれるイライザさんて、真のお友達だと思う」(げろげろ)くらいの「心からそう思ってるわけでもないが、こう言うのが礼儀だろう」なって対応ができたかもしれないが、ハイジはそんな本当のことを言われて素直に受け止めるようなキャラではない。

 というか、かなりまともに聞いてしまい、「ああ、そう。あんた、オレのこと、扱いにくい奴だと思ってるんだな」と、かなりムっとしていた様子である。

 しかし、ハイジはマジメな奴なので、「自分への非難は真摯に受け止める」ということをきちんと考えていたらしく、私がびっくりするくらい、イライザに対して、勤めてニコやかに接するようにはしていた。
 ただ、そのために「素のハイジ」と「がんばって、いい奴になろうとしているハイジ」の間に大きな落差ができてしまったのである。

 ハイジの作戦ミスである。
 ある人が、ずっと無愛想で不機嫌そうだったら、周りもそれに慣れるし、「ああ見えても、ちゃんと話してみると嫌な人じゃないし、なんか質問してもすごく丁寧に教えてくれるし」なんて、逆に「実はいい人」という過剰な評価をされてしまうものである。

 ハイジに関しても、ご機嫌がいいときには、ほんとに妙にノリノリなので、周囲の人は「なんか、いいことでもあったのだろうか?」と逆に警戒してしまうくらいだが、翌日になって「いつもの憮然としたハイジ」に戻っていると、ほっとするくらいである。

 だが、そういうのは、女子高生マインドのイライザには通用しなかったようだ。
 彼女は気が小さいというか、他人の感情の波を過剰解釈しちゃう人のようだったので、ハイジの機嫌に合わせるのに神経を尖らせ、っていうか、上手くその波をとらえられないので、イライラしていたのだ。

 私にたいしても、イライザは過剰に気を使っている。
 でも、それが、私に不愉快な思いをさせているのには気がつかない。

 「3ヶ月たっても、ここままだったら、ちゃんと言おう」と思っていたのだが、彼女は私に呼びかけるタイミングをとるのに、異常に気をつかうのだ。

 それはたぶん、彼女が「仕事に集中しているときに、中断されたくない」と思っているので、「他人にもそうしては迷惑だろう」と勝手に考えているからであろう。

 「タイミングを計る」のは、ある程度必要なことだけど、でも、他人には「今、話かけていいときか」っていうのは、完璧にはわからないのである。
 たとえば、経理だと電卓を叩いているときに話し掛けるとダメだけど、でも、電話の取次ぎだったら仕方ない。

 それに、たとえ、なにか作業している最中でも「ちょっと待って」とか言う権利があるのは、作業している本人であるので、他人が勝手に「今は手が空いてない」と判断できるものでもない。
 ほんとに中断されたくなかったら、「ちょっと待って」とこっちから言うし。

 そのあたりが、普通にできる人だと、例えば、「この書類に捺印しておいてください。今日中でOK」と、書類をバサっと置いていく。
 「優先順位は相手に任せる」という態度をとれる人は、実はけっこう少ない。

 そういう人は、ちゃんと急ぎのときは「悪いけど、今もらえます?取引先がこの書類を持って帰るので」と言うので、ストレスがたまらない。こっちだって、それを上回る優先順位を持つ仕事と言ったら「ごめん、でも、その前にトイレ行ってからでいい?」くらいしかないだろう。

 「急ぐ理由」なんて、つべこべ説明してくれなくても、そういう人が「急ぎ」だというんなら急ぎなんだろうと思うし、そういうのが「信頼関係」と言うのだと思う。

 話が彷徨っているけど、イライザのダメなとこは、「ここがわからないので、ミヤノさんに確認しないとな〜」ってときに、前に隣の席だったときには、私のほうをじっと見つめるんである。
 なにやら書類に一生懸命記入している私の邪魔をしてはいけないと思っているらしく、私が区切りがついて、顔を上げるまでじっと待ってるらしいのである。

 でも、私も視界の守備範囲というか「空気読み」の能力がそこそこあるので、イライザがなにやら硬直している様子を感じとり、目線をちょっと移動させると、目の端に私をじっと見詰めているイライザをとらえ「いいから、声かけてくれよ」と思うのだが、私がやっと顔をあげて、見つめているイライザに気がつくまで我慢しているのだ。

 きもいんですけど。

 席が離れてからは、私の席のそばまで歩いてきて、そこでじっと立っている。
 「これは、なんとか訓練しないと」
 と思ったので、向こうが声かけるまではじっと我慢して無視していたが、ふと書類に集中していた、やっと顔を上げたら、そこで、うるうるした目でじっと私を見つめているイライザに初めて気がついて、「だから、キモいって」と逆上しそうになったこともあった。

 そんな人は他にはいない。
 他の部署の人は、1m先から「ミヤノさーん」と声をかけてきて、私が顔を上げるか、「あ、ちょっと待って」というか、私に判断させているけど、それでいいのである。

 他人の家を訪問するときには、まず「ピンポーン」って鳴らすじゃない?
 それで、すぐ出てくるのか、なかなか出てこないかは、向こうの勝手だ。
 「もしかしたら、今、この家の人はトイレに入っているかもしれないし、揚げ物をしているかもしれない」って覗き込むほうが間違っている。

 でも、たぶんイライザは「自分は他人にきちんと気を配っている」と思っているのであろう。
 そんで、自分は気配りしているのに、ハイジが「おめーの態度は、社会人としてどうよ?」なんて言うから、「ハイジさんだって、いつも不機嫌なくせに〜」と逆キレしたんだろう。

 たしかに、ハイジの「あの態度は社会人としてどうかと思って」というのも、いつもトンチンカンなのである。それはただ、「自分が面白くない」ということだけの話であり、なぜそれを「社会人として」に変換するのか、私にはさっぱりわからない。

 だいたいハイジにしたって「気分屋で扱いにくい」とか「礼儀がなってない」とか、部長から叱られているのに、普通に考えれば「そういうのがなってない自分には他人を指導する資格がない」と思いそうなもんなのに、なぜか、他人が自分を叱ったこを他人がやるのには敏感なのである。

 落書きして先生に叱られた子が、他の子が落書きしてたら「あー、いっけないんだー、先生に言いつけてやる!」と騒ぐようなもんだ。
 で、「ハイジ君は自分も落書きして叱られていたのに、私が落書きをすると怒りました!」と訴えられても、先生はどうしていいのかわかりましぇん。


11月4日(金)

 いやー、うちの部署の「女子校VS男子校戦争」が、あまりにも面白いので、自分の些細なプライベートの悩み事なんてそっちのけで「で、次はどうなるのかな?」とのめりこんでます。

 今日は、Sさんはちゃんと朝から来た。
 私も「たいへんだったんだって?」くらいお義理で言うべきだとは思ったが、朝から来客が相次ぎ、お茶だしでそれどころじゃなかったし、それに、向こうが話す気がなかったら、その場にいなかったんだし、「知らないふり」をするのが大人かな、とも思って、黙っていた。

 Sさんは「トイレ篭城事件」で迷惑をかけた女子社員たちには「すいませんでした」と謝っていたし、私にも「一昨日、急に休んですみませんでした」と言っていたので、私の印象からすれば「ちょっとブチ切れて、みんなに迷惑かけたけど、心をリセットして頑張ろう」という雰囲気であった。

 ハイジが休みだとわかって、ホっとしたようで、その話を仲良しの他部署の派遣社員にヒソヒソ話している雰囲気もあったけど、まあ、それも見て見ぬふりをしていた。
 「そういう女子校っぽいところが、ちょっとカンに触るんだよなあ」とは思ったけど、別に目くじらをたてるようなことでもない。

 10月決算なので、現金での経費清算がいつもより集中するので、今日も彼女は朝からそれにかかりっきりだった。ほんとは別の仕事も頼みたかったのだが、「ま、いいか、自分でやっちゃったほうがラクだ」と思ってしまうあたりもなんだが、彼女を好きなだけ集中させておいてあげようと、お茶出しも私とMちゃんで仲良くやっていた。

 そんなかんじで、「なんか異様に無難に終ったな」と思った夕方ギリギリに、Sさんが「経費清算の仕事って、午前中にやってもいいんですよね?」と聞いてきた。

 私としては「もちろん、好きなように自分の時間を使えば?」としか言いようがない。
 彼女がぶち切れる前の日に、現金が10円合わなかったので、彼女がそれを気にしていたことはわかっていたので、私は「この時期は量も多いので、余裕を持ってやったほうがいいと思うよ」と言っていたのだ。

 そしたら、Sさんは「でも、ハイジさんは、午前中にやるのが面白くないようで・・・・そう言われてしまったんです」

 昨日、ハイジに聞いた話とは食い違う。
 あんまり、双方の言い分を聞きたくなかったけど、でも、全く知らないふりもできなかったので、「なんか、ハイジは、昨日やってほしかった仕事を優先してほしかったとか言っていたけど・・・」
 Sさん「でも、それはちゃんと、やるって言ったんですよ?」

 うーむ、私にどうしてほしいのか?
 私は「経費清算が大量にあるときには、早めにやったほうがいい」と言ったので、そうしたら、ハイジに「午前中からやるべき仕事ではない」と言われたので「どっちが正しいんですか?」って言ってるだけなの?

 まあ、とりあえず、なにか私に愚痴りたいんだろうと思って、「まあ、なんかあったみたいだけど、要するにハイジの機嫌が悪かったってことでしょ?」と言ったら、「そういうのって、どうすればいいんですか?」

 知らんわい。

 私に想像できることは、機嫌の悪かったハイジが自分が頼んだ仕事をSさんが優先してやらなかったので、「それじゃ困る」とはっきり言い、その言い方にムっとしたSさんが「なんでそんなこと言われるのかわからない」と、はっきり言い、「その言い方は社会人としてどうかと思う」とハイジが説教したってことだけだ。

 で、たぶん、私としては「正解」だっただろう態度は「そっか、ハイジは気分屋で困るよねえ。Sさんも大変ねえ」って言葉だったんだろうけど、別にどっちの味方にもつきたくないし、単純に「仕事」として考えれば、多少、性格が扱いにくいのが同じなら、仕事ができるハイジに私の軍パイが挙がるのも仕方がないだろう。Sさんが、ぷいっと辞めてもあまり困らないが、ハイジの代わりになる人材はなかなかいないのである。

 それもあるけど、私の哲学としては「仲のいい友人同士だって喧嘩になることがあるし、ましてや、最初から気が合うこと前提にして集まっているわけではない会社という集団では、気が合わない人がいるのは当然」というのを明確にしておきたかったので、Sさんにもキッパリこう言ってしまった。

 「まあ、たしかに、ハイジは時々、人をムっとさせる物言いをすることがある。私だって、何度も、コンニャローと思ったことがある。でも、そういうのって直らないんだよ」

 前にも書いたが「会社を変えたいと思ったら、まず自分が変われ」っていうのが、ベストセラー本に書いてありそうな「真理」だとすると、「他人は変わらない」というのも、どっかのハウトゥー本に書いてありそうな話だ。

 「嫌な奴」を矯正するのは不可能なんである。

 そう言うと、Sさんは不思議そうな顔をした。たぶん、自分が思っていたのと違うことを言われたので、どう反応していいのかわからなかったのだろう。

 「だから、ハイジのあの性格は直らない。っていうか、どうやって直すの?私たちは、彼のお母さんでもお姉さんでもないわけだし、あそこまで育った子を今更、育てなおすことはできないじゃん?だから、彼の性格は直らない。じゃあ、どうするかっていうと、こっちが変わらないといけない」

 「変わるっていうか、あれを我慢するか、慣れるかっていう選択肢しかない。ムカっとしたら、壁を殴ってもいいし、Sさんがハイジを殴ってもいいけど、殴っても直らないよ?ただ、自分が納得するだけ。それに、殴ったほうが悪いに決まってるしね、ははは」

 「ミヤノさんって、サバけてますね〜」と言われたが、これは重要なことよ。

 結局、最終的には「自分はどうするか」って問題であり、相手の態度がどうこうという問題じゃないのだ。
 もちろん、愚痴ってもいいけど、「じゃあ、どうすればいいんですか?」じゃなくて、「じゃあ、こういう人に対して自分はどうするか?」ってことだ。

 「で、どうしようもなくなったら、殺す?」と言ったら、Sさんは、ひきつった笑顔で「そんな、過激な・・・」 と言っていた。

 でも、やっぱりわかってないみたいで「じゃあ、私が我慢しろってことなんですか?」
 いや、私は「我慢しろ」なんて言うつもりはない。我慢するかしないかは本人の自由だ。

 そんな話を淡々としていたが、そんなんじゃSさんは納得しないけど、いったい、ハイジのどんな態度でSさんがブチ切れたのか、現場にいなかったので、私にはわからない。M嬢も、「私もその場にいなかったし」と控えめではあるが、「Sさんに全面的に味方しているわけではない」という態度を見せたので、私はちょっと驚いた。

 私もM嬢も「Sさん、かわいそー」という態度に出なかったのにイラだったのか、Sさんは不思議なことを言い始めた。

 「実は、ハイジさんの大学時代の友達が偶然、私の知り合いだったんです」

 そんな話をハイジとSさんがしていたのは知っていた。ハイジも「へー、そうなんだ」と驚いていた。

 「それで、その知人に、今のハイジさんの話をしたら『学生時代と変わらないなあ、あいつも』と言っていました」

 えーと、それって、どう解釈すればいいのだ?
 ハイジは昔からああで、今もああだってことが、なんかの参考になるとでも?

 つーか、私だって、もし学生時代の友人の話になったら「そーなんだよ、あいつ、昔から、いーかげんでさあ、わはは」くらい言うだろう。

 まあ、もう少し行間を読んであげるべきなんだろう。ハイジの昔の友人もハイジのご機嫌には悩まされていた、と話したのであろう。「まあ、友達だったらいいけど、一緒に仕事すると大変だよなあ」とか言ったのかもしれない。

 で、それを私に言うと、なんかいいことがあるのかな?

 という顔を私がしたのかどうだか、自分ではわからないが、さらにヒートアップしたSさんは、「実は、自分の名前を出して構わないと言われたので・・・・クララさんも、ずっとハイジさんには困っていたそうです。2年間、ずっと耐えていたらしいです。いつか、いなくなってくれるかもしれないと、ずっと我慢していたそうです」

 クララが我慢していたのは、ある程度わかっていたけど、彼女が我慢していたのは、ハイジだけじゃないと思う。クララは決して愚痴を言わなかった。全てのことに対して。ある意味、不思議なコだった。
 で、Sさんが「ハイジさんて気分屋ですよね」と愚痴ったので「自分もそれで苦労した」と言ったのだろう。それは、Sさんを「ノット アローン」であると励ましたのであろう。

 でも「クララさんもずっと我慢していたそうです」と言われると、私がショックだ。
 それは、その状態をわかってなかった私に対する非難ではないか?

 少し動揺してしまったが、Sさんが言ってることは「私は困ってます。それは私だけではなく、みんなも困っているのです」という「みんな用法」であることがわかったので、「それは言わない約束でしょ?」と思ったけど、女子校生の彼女にそういう説明する気もないし、そもそも「Sさんという人も、このキャラを変えられない」と思っているので、「ふーん、だから?」という表情で応酬。

 で、再度、「でも、ハイジは変わらないわけだから、どうするかはSさん次第」と言ったら、彼女もこれ以上言っても無駄だと思ったらしく、引き下がった。

 ハイジもSさんも、「おこちゃま」だけど、「オレはもう、彼女をこれ以上、ケアする気はない。ミヤノさん、彼女がこのまま社員になっても、ちゃんと仕事すると思いますか?」というハイジの愚痴のほうが「私はハイジさんと上手くいかないけど、ハイジさんにはみんな迷惑しています」と言うSさんの愚痴より「自分はこうしたい」という意思が明確なような気がする。

 で、Sさんが帰ったあとに、横にいたM嬢に「もう、どっちもどっちなんだけどさ」と愚痴った。
 Sさんがあまりにもハイジを悪く言うので「たしかに機嫌悪いときもあるけど、そんなに極悪なのかね?」と言うと、M嬢も「たしかに、話にくいときもあるけど、でも彼の場合、午前中がダメだだけだから、わかりやすいほうだよね」

 こういうとことで、普段、あまり認めてない人の「実力」を知ることがあるのだが、M嬢はかなり鋭かった。
 私が、Sさんに対して「でも、どこの会社に行っても、合わない奴はいるし、この会社にしたって、私は全員と仲良くやっているわけではない」と言うと、M嬢が横でポツリと「でも、ミヤノさん、わりと他人のご機嫌読むの上手いよね」

 そう。私だって、他人に不機嫌に当たれるのは嫌いなので、できるだけ「今日は不機嫌」の人には触らないようにしている。ってゆーか、M嬢が言っているのは、明らかに「T部長」のことである。
 簡単なことでも、部長がご機嫌ナナメのときに言うと、ネチネチ言われるので、私はたとえその仕事に支障が出ても、部長決裁はご機嫌のいいときまで待つのだ。
 私にしてみれば、「クララと並ぶ癒し系」のM嬢は、部長が多少不機嫌なときでも、大丈夫な人材かと思っていたが、彼女もたぶん、ときどき「あ、天気読み間違えた」と後悔することがあるのだろう。それで、好天だけを狙って、やってるように見える私を「ミヤノさん、空気読むの上手いなあ」と感心してるらしいことが、やっとわかった。

 なんか、泣ける話である。私はM嬢のことを「天然」と思っていたが、彼女は私の「秀才ぶり」に感心していたのである。

 話は前後するが、私はSさに「たしかに、ハイジは難しい人だけど、あの程度の人はまだマシというか、今まで仕事していて、ああいうタイプに全く当たったことがないわけ?そうだとしたら、すごく幸せな環境だったんだろうね」と言ったら、Sさんは無言だった。

 よくわからない。
 「むかつく〜」というのはけっこう日常茶飯事なことなのかと思ってた。
 私はこの会社に入っても、同僚ギャルが私を無視するのに2年間耐えてきたし、やっとクララが来て、なごやかにやっていたら、ハイジがやってきて、「むかつく〜」で、それでもなんとかやってきたが、私が信頼していたO部長が異動して、天敵T部長が総務部長になったときには「会社、やめたい」と思ったけど、でも、しょーがないから、なんとか低気圧を避けつつ、仲良くやっている。

 そういうの、Sさんは全然わかってないだろうな。「ミヤノさんて、部長と仲良しなんですね?」と言われたときには、「え?そう見えるの?」と、頭真っ白になったが、Sさんは「ハイジさんて、優しい人なんですね」とも言ったのだ。

 今になって思うと、あれは彼女なりに「どうなんだろ?」と思ったので、私に探りを入れていたのかもしれない。

 とにかく、ちょっとSさんは苦手なタイプであることはわかっていたが、今日の話で確信した。
 でも、彼女みたいなのが「フツー」なんだろうと達観していたのだが、M嬢と少し話しをしていたら、M嬢が「なんか、なにがどうってわからないんだけど、なんかSさんはちょっと変わっている」と言い出したので、形勢逆転。M嬢を味方につけると強い(笑)

 M嬢に「そうなのかなあ?」と粉をかけたら、「なんか、Sさんって、色々確認してくるけど、じゃあ、どうするのってことになると、なんか・・・・

 なんかの件で相談されたのだが、M嬢もそれに対する明確な解答を出せなかったので「まあ、うちの会社、けっこう曖昧なこともあるから」と言い訳をしたら「だったら、これでいいんですかね」と言われ、まじめなM嬢は「いいとは思わないけど、どうしたらいいんだろう?」と善処を考えたらしいのだが、Sさんは「善処」という観念を持っておらず「Mさんがいいって言うなら、いいんですね。でも、なんか変ですよね」と言うので、M嬢はちょっと考えてしまったらしい。

 M嬢が気弱に言うのは「変だと思ったら、改善するしかないと思うんだけど・・・・」

 M嬢の言いたいことが私にはわかった。
 Sさんは「これは変ですね」とは言うけど、「じゃあ、どうするといいのかな?」ということまでは考えが及ばない。M嬢の分析では「きちっと細部までマニュアル化している会社でしか仕事したことがないから、ああいうふうに言うのかね?」と言うが、まあ、それもあるだろうけど、なんかそういうのとも違うような・・・・

 なんか、変に鵜呑みにするので、たぶん、彼女が「ミヤノさんは午前中からやっていいという仕事をハイジさんは午前中からやるのは変だと言いました。私はどうすればいいのでしょう?」というのは、本心なんだろう。

 それで「そういうのもケースイバイケースだし」という意味がわからないので、不機嫌になると、ハイジは「こんな仕事やってられねーよ」という意味に解釈してまうようだが、彼女はただ単に「ケースバイケースって、いったい、どうすればいいんですか?」って不安に思っているだけだ。

 そして、Sさんは「このまま、あの席なんでしょうか?」と席替えの提案までしてきた。
 実は、私は「あの、ちょっとウザいSさんが隣だと、ハイジの仕事の邪魔になるのでは?」とは思っていたが、席替えするとなると、T部長の「Sさんにボクの秘書役をやってほしい」という案も浮上するので、それは阻止したかったのだが・・・・

 つーか、「こいつ嫌い」と思ったら、席替えって、やっぱし女子高生マインドだよな。

 てゆーか、私は学校の先生じゃないんで・・・・

 つーか、面白いから、このまま対決させておきたいような・・・・

 M嬢にもこう言ってやった「あんなに仲悪いほうが、あとあと、突然なぜか仲良くなったりするかもしれない」
 M嬢は「え?そういうもん?」とビビっていたけど、私はけっこうマジに意地悪なんすよ。
11月3日(木)

 自分は、そこそこ頭はいいが、切れるようにいいわけでもなく、そこそこ仕事はできるけど、チンケな会社でも出世するとか、年収1千万のエリート社員になるとか(これは転職しないと今の会社だとまず不可能)、起業するとかいう才能も意欲もなく、こうして日記はダラダラ書いているけど、あんまし文才もない。

 ま、要するに、「私ってなんて平凡な人なの」というプライドだけは高いのである。えへん。

 時々、妙に誉められて、そのプライドが揺らぐときもあるが、「すごい!」と誉められてるのか「すごく、変わってるね」と嫌味を言われているのか、自分でもあまり区別できないので、どっちかというと誉められるのが苦手である。

 そんな自分でも、ちょっとだけ自信を持っているのが、「つまんないことを面白がる」という能力である。
 イチョウが紅葉してビッグバー度がどうとか、カエルの轢死体を見つけて大騒ぎとか・・・・

 というわけで、なんの変哲もない日常でも、いろいろ思うことはあるわけで、そういうのを書き殴っていると、けっこうダラダラと書けるものである。

 しかし、11月になってからまだ3日目だが、毎日なんか事件があるのも珍しい。
 1日。「あなたが保証人になってる人が、全然借金を返済してませんよ〜ん」な書類が届いて、絶望の淵に叩き落された。
 2日。「Sさんが、ハイジとぶつかってトイレに2時間も篭ってから早退した」と聞かされて、びっくり。


 さて、今日は何があったかというと、「訃報」である。

 こういうときには、どういう弔電打つのかね?
 実は、今日出勤して最初にやった仕事が「得意先の担当者の義父が亡くなったので弔電打っておいてくれ」っていうのだった。「ご尊父の死を悼み・・・」とか、テキトーな例文で手配したっけ。

 ええと、「ご尊ゴキの死を悼み・・・・」かな。

 そうなのです。2年半近く大事に飼っていたペットのアンダーソンちゃんが、とうとうお亡くなりになったのです。

 こんなに長生きするとは全く思っていなかったので、「ああ、やっと死んだか」と、ちょっとホっとしているのですが、さーて、葬儀はどうやろうか?ゴミに出すのもちょっと気が引ける。

 笹舟にでも乗せて、多摩川で水葬するかね?

 うーむ、と悩んでいるが、めんどくさくなってゴミと一緒に捨ててしまいそうな予感がする。

 うーむ、しかし、毎日なんかトピックスがあると、「なんだか、私、忙しいの?」と思ってしまうが、別にそういうわけでもないよな。

 そういえば、今日はやっとハイジに「Sさん、だいじょぶそうなの?」と聞くことができた。
 ハイジもちゃんと説明してくれた。

 ハイジとSさんは、ちょっと性格が似ているので、Sさんの「不満」をハイジは勝手に受け止めてしまうようだ。
 それに、ハイジ曰く「ボクにする話と、ミヤノさんにする話は違うと思う」というのはその通りで、彼女は上司である私に対しては、過剰に気を使っているけど、年も近いハイジには「素」を見せてしまうようで、彼女が「コンサルになりたいんです〜」とか「総務の仕事って雑用が多いんですね」なんてハイジに相談すると、彼は真に受けてしまうみたいで、彼女の焦燥感を増幅して受け止めてしまうようだ。

 そんで、私が休みの日に何があったかというと、ハイジがその前日に「明日中にやってほしい」とお願いした仕事を彼女がなかなかやろうとしないので、ハイジは「また、こんな仕事やりたくない、って思っているのか?」と過敏に反応してしまい、「そういう態度はよくない」と言ったらしい。

 その前の私が休みのときにも、Sさんはちょっと面白くないことがあったので、ブツブツと文句を言っていたとハイジは言っているが、その真相はよくわからない。Sさんは、ただ、テンパると独り言が多くなり、それは別に「嫌だ」という意思表示ではなく、「うまくできない自分」に対してブツブツ言っているのであるが、たしかに彼女が「こんな仕事やだ」と思っているという気持でそれを聞くと、イライラしているように聞えるのかもしれない。


 これは私の勝手な想像だけど、前日に飲み会に行っていたハイジも、あまりご機嫌がよくなかったはずである。ただでさえ、午前中はダメなのである。
 なので、「ああ、今日もハイジさんは機嫌が悪くて怖い雰囲気」とそれに耐えていたSさんは、ハイジに「何を焦っているのか知らないが、仕事はちゃんとやれ」と言われて、プツンと切れたのだろう。

 ハイジにむかって「なんでそんなこと言われるのかわかりません。それって私が派遣だからですか?」と逆襲したらしい。それでハイジが「いや、そうじゃなくて、なんか、そういう素直じゃない態度というか、不機嫌そうなのは社会人としてどうなのか?」と言ったら、「ハイジさんだって、いつもそうじゃないですか!」

 「あんたに言われたかねーよ」っていうのは、みんな、よく心の中で呟くセリフであると思うが、はっきり口に出すことは珍しい。
 それだけ、Sさんの心の中で、溜まっていたものがあったのだろう。

 要するに「単なる痴話喧嘩」なんだが、会社でやらんでほしいのお。

 私が最近発見した法則は、「気分屋の人ほど、他人のご機嫌を気にする」ということである。
 私はハイジの「不機嫌」には慣れてきたが、T部長の不機嫌は仕事に支障が多いし、立場的に被害者も多数出るので「ああ、でも、50歳の人の性格は直らんしなあ」と嘆いている。
 そのT部長は、ハイジのことを「情緒不安定」と断定している。
 で、「情緒不安定」なハイジは、Sさんの「女子高生のような情緒」を「不愉快」と感じている。

 ワシは情緒が安定しているつもりなので「もー、独逸もこいつも!」と思うが、そういう私の情緒に一喜一憂している人もいるのかもしれない。

 で、そういう説明をしながらも、やはりハイジは「Sさんは、やりたくない仕事に対しては、ほんとにやりたくなさそうにするので、やりにくい」とコボすので、「でも、そうじゃないと思うんだよね」と自説を披露した。

 何度もこの日記にも書いてきたが、私の観察によると、彼女は確かに「キャリアアップしたい」という野望を持っているが、それは「そう言っておいたほうがいいらしい」という程度のことで、「何をすればキャリアアップなのか」が全然わかってない。
 「ダイエットしたいよ〜」と同じようなもんである。まだ、ダイエットのほうが「食べない。運動する」と、どうすればいいのか明確なのでマシだ。

 なので「これは私のやりたい仕事」「これはやりたくない雑用」という区別がついてないのである。
 頭が悪いことは本人も自覚しているらしく、パソコンには付箋でたくさんメモが貼ってあるけど、それを眺めているだけで「とりあえず、記憶力に異常に自信がないらしい」ということはわかる。

 他の人が「○○は△△でやってね」と言うと、一回で憶えてしまうようなことを彼女は強迫観念的にメモしているのだ。
 なので、ちょっと軽く仕事の説明しても、必死でメモするのである。それで、真剣な目つきで「あ、ちょっと待ってください、憶えられません。で、これがああで、あれがああで・・・・」とオロオロするので、ハイジにしてみるとそれは「こんなことやってらんねーよ」という態度に見えるのかもしれないが、そうじゃなくて、単に余裕がないのである。

 だから、非常に損なタイプなのだ。暇そうだと、なんだか憂鬱そうなので、「じゃあ、この仕事を」と頼むと「そんなに、いっぺに言われてもちゃんとできない」とテンパるので、それが憮然とした態度に見えてしまうのだ。
 普通の人だったら、多少ややこしいことでも「ま、後でその都度確認すればいいか」と思うだろう仕事でも、彼女は妙に完ぺき主義なので「で、流れとしては」とかネチネチ確認してくるので、「イレギュラーも多いから、それはその都度確認してね」と言うと、不安そうになる。

 なので、ハイジにも解説してあげたのだが、「彼女は仕事内容に不満を持っているわけではない。仕事を頼む態度が重要なのだ」

 要するに、いちいちこう言えばいいのである。「Sさん、手が空いていたら、これをお願いしたいんだけど、ごめんね、なんかツマんない仕事で」
 そしたら向こうは「いえいえ、とんでもない。お手伝いしますよ〜」
 そんで、一緒にやってあげるのがベスト。お喋りしながら、DMの封入作業をしたら、お礼にお菓子をくれるのだ。(Sさんの謎のグルーミング行為)

 この間、M嬢がそうやって「超くだらない仕事」をお願いしたら、嬉しそうだったもん。
 二人が仲良く作業している様子も漏れ聞いてしまったが、「Mさんって、毎年この作業を一人でやってるんですか?」「うん、でも、いつも派遣の人に手伝ってもらってるから」「大変ですねえ〜」「まあ、ほんとは営業の仕事なんだけど、あっちも手が足りないから手伝ってるの」と、仲良くやっていた。

 まあ、Sさんとしては「こんな仕事もするのか総務は」と思っただろうけど、Mちゃんが低姿勢で、「手伝ってくれてありがとう。うふ?また、こういうのあったら手伝ってね?」と言うと、「ええ、いつでもお手伝いしますよ、うふ?」と心からの笑顔で答えていた。

 私やハイジに足りないのは、その「うふ?」である。

 ハイジに「だから、Mさんのような態度で仕事をお願いすればいいわけよ」と言ったら、ハイジは「そんなこと、できねー」
 「たしかに、私も絶対無理だし、てゆーか、Mちゃんみたいな人は希少というか、あれはあれで特殊な才能だから、うちらには無理。だから、私は意識的にそっけなくやってるんだけど、Sさんは私に対しては、気を使うからそれでいいけど、ハイジ君に対しては、ときどき爆発しちゃうみたいだね」

 「ああ、めんどくせ〜〜〜〜〜〜」とハイジは嘆いていた。  私だって面倒くさいよ。でも、私はそれでもいいけど、君はそういう面倒くさいものに耐えるスキルがないと、嫁もらえんぞ?と思ったが、そこまでは言わなかった。

 「で、ミヤノさんとしては、このまま彼女が正社員になっても、ちゃんとやれると思いますか?」

 っていわれたが、うちの会社はショボいので、そんなご大層な人材は望めないこともわかっているので、たしかに、Sさんはお子チャマだけど、バカなりに一生懸命のところもあり、ああいう人材を育てて伸ばさないと、うちみたいな会社の未来はないのも事実だ。

 ただ、「嫌でも我慢して働く」ほどの会社でもないので、嫌なら辞めてもらってけっこう。
 私を含めて、中途入社の「優秀な人」は、「なんだこりゃ」と思いつつも、再就職で苦労しているので、なんとか頑張っている。

 ほら、よく、「会社を変えたいと思ったら、まず自分を変えろ」って言うじゃな〜〜〜い?(爆笑)

 そんで、「他人は絶対に変わらない」」というのもオフィス哲学である。
 だから、自分が変わるしなかない。
 それは「職場を変える」というのも含む。嫌でも頑張って、なんとか相手に合わせて、相手の信頼を勝ち取ってから、なんとか操縦するか、「こんなヤなやつと一緒に仕事できっか」と転職するか、どっちかである。
 あと、「嫌だけど、我慢してれば慣れる」という技もあるし、多くの人はこの手法で乗り切っているんだと思う。

 ハイジとSさんは、似たもの同士なだけに、難しい組み合わせであるが、まあ、なんだか面白いので、やっぱしSさんが根性出して、もっとハイジに反撃してみたらいいと思うのだが、さて、どうなるんだろう?まず、明日、出勤してくるのかどうか?
11月2日(水)

 日記さんに愚痴をたくさん聞いてもらってから寝たので、今日は珍しくすっきり目が覚めた。
 いつもより、少し早く会社に着いて、給湯室の準備をしていたら、朝当番だったM嬢が来て「早いね」と言われたが、「ま、目が覚めちゃったんでなんとなく。それに、昨日休んだから仕事溜まってるし」

 そしたら、電話が鳴ったので、M嬢が出てくれてから、また給湯室に戻ってきて、「Sさんが休むって」
 「あ、そう」
 というだけの話であるが、M嬢がなにやらソワソワしつつ「実は昨日ね・・・」と言うので、「え、Sさんのこと?」

 世の中、いろいろありますなあ〜
 あまり、下世話なオシャベラーではないというか「あることないこと、自分の勝手な想像で膨らまさない」というか、そんな控えめな語り部のM嬢によると、「昨日、ハイジ君とSさんがちょっとブツかっちゃったっていうか・・・それで、Sさんが泣いちゃって、トイレに篭っちゃったの。もう、どうしようもない状態で、2時間くらい出てこなかったんだけど、結局、昨日は早退した」とのこと。

 「えーーー、私がいないときに、そんなことが!」
 と、びっくりというか、ちょっとガッカり(笑)
 M嬢の描写だと、それがどのくらいのレベルのことなのか、さっぱりわからないんだもん。
 その情報だけでは、なんとも判断しにくいが、彼女が今日欠勤するということは、「まだ会社に出てくる気分じゃない」ってことなんだろう。

 それよりも、私が心配したのは、「で、それって、T部長も知ってるの?」ってことだった。部長が絡んでくると、いろいろヤヤコシイし、ただでさえ部長は「Sさんが、いろいろ悩んでいることは、ハイジが気分屋なせいだ」と思っているらしいのである。それはたぶん、部長自身が「ハイジは扱い難いなあ」と思っているために、単純にそういう結論になっているだけ、ってことは私の勝手な推測。

 M嬢によると「部長もずっと在席してなかったから、なんかあったのは気がついてたみたいだけど、たぶん、よくわかってなかったと思う」

 うーむ、そんで、結局、どうなんだろう?と私が返答に困っていると、M嬢は「まあ、一度二人でちゃんと話し合うっていうことになったけど、でも二人だけで話してもなんだから、部長も交えて、今日か金曜日にちゃんと話そうっていうことになったんだけど・・・・」
 それは、Sさんも同意のことなのか、それとも部長とハイジがそう話したのか、よくわからなかったけど、次に私が心配したのは「ハイジも、もしかして今日休みとか?」
 M嬢は「え?なんで?」と言うが、「いや、奴はけっこう小心者なので、意外とそういうの気に病むんだけどな」

 そしたら、しばらくしてハイジ登場。
 Sさんがいないのがすぐにわかったようで、私がすかさず「休むって」と言ったが、「あ、そう」という雰囲気。
 なんか説明してくれるのかな、と思ったのだが、まだ朝だし、頭立ち上がってないみたいだし、それになんか妙に飄々としているので放っておいた。
 M嬢と少しだけ話しているのが聞こえて「オレはもう、これ以上、構ってあげるつもりはない」と憮然とした態度で、でもちょっと笑顔で言っていたので、「オレのせいじゃない」という覚悟は固まっているようだ。
 「それで、どうするかは彼女が決めることで、オレは知らない」と言い切っていた。

 いったい、なにがどうしたのか、わからないので私もその会話には口を挟まなかった。
 また夕方にでも話してくれるだろうと思ったのだが、ハイジは社長と部長に頼まれていた表を作らないといけなかったようで、それどころじゃない様子。
 で、私に対する態度は普通だったので、私も彼の質問や「今期の数字、こうなりそうっすよ」という報告に事務的に相手していた。

 ま、いっか。明日は私も彼も出勤だから、ちょっとこちらからつついてみよう。

 しかし、トイレに2時間も篭っていたとなると、他の人も薄々わかっているよな。
 新人の女の子を泣かせた事件はよくあるけど、中途採用(まだ正式ではないが)の20代後半のコがトイレ占拠事件なんて聞いたことがない。
 やっぱり、目撃したかったなあ。

 なんとなく私の勝手な想像では、一昨日はハイジも参加した大きな飲み会があって、私は不参加だったのだが、ハイジは二日酔いのまま昨日出勤して不機嫌だったのかもしれない。そこで、最近、ハイジも少し手が空いていたので、Sさんにいろいろ丁寧に仕事を説明していたので、Sさんも油断して「あれは、これは」と質問攻めにしたら、「そんなのわからん、自分で考えろ」とか言われたので、ストレスが溜まっていたSさんが爆発しちゃったのかね。

 女の子が泣き出してとまらない、というのは、自分にも経験が多数あるからよくわかる。
 きっかけは些細なことなんだが、「それまでの蓄積」がバーっと出ちゃうのだ。
 周囲には、なんでそんなことになったのかわからないのだが、要するに太平洋プレートがどうのこうので、マグニチュード8の大地震が起きるようなもんである。

 私の記憶に残る「トイレで大泣き」は大学のサークル活動での事件だった。
 私を含めて、そのサークルで中核として頑張ってた2年生4名は、文化祭の事前の準備では、大学の近所に下宿していた子のアパートに泊り込み、文化祭のときにも頑張って連日泊り込んでいた。
 自分らでもよくやっていると思っていたし、周りも認めて励ましてくれていたと思うが、文化祭が終わり、翌日だか最終日だかに「打ち上げ」の飲み会があった。

 そこまでは、ハイテンションで頑張っていたし、先輩たちも「よくやった」という雰囲気だったので、妙にノリノリだったのだが、飲み会の席で、女性の先輩が、「なんか、このコース、値段の割にはケチくさくない」と、文句を並べ始めたのだ。
 どうってことないことだったけど、「ここまで順調」とハイテンションをキープしていたので、彼女の口から出るネガティブな言葉がグサグサときて、でも「ここで泣いてはあかん」とトイレに立って、一人でシクシク泣いていたのだが、そしたら一緒に頑張ってきた仲間がやってきて「ミヤノ、どうしたの?」と言うので、「ごめん、別に泣くようなことでもないんだけど、なんか疲れて神経が尖ってるみたいで・・・」

 と、言い訳をするつもりが「せっかく楽しい打ち上げなのに、文句ばかり言う人がいるから、なんだか悲しくなって」と説明してしまったら、他の子も同じような精神状態だったらしく、連鎖反応的に泣き出したのである。

 結局、気がついたら、トイレで4人で大泣きしていたのであった。

 もう、ああなると、誰が悪いとか言う問題ではなく、「狐憑き」の世界である。

 そのときは、他のことでもストレスが溜まっていたので、あれが大きかったかも。
 どっちかというとバンカラな校風な大学だったので、柔いサークル活動といえども、「女子が主導権を握っている」というのは、あまり評価されなかったのである。寝不足の文化祭開催中にも、交流のある他の大学のサークルの展示も義理で訪問しなくてはいけなくて、人手が足りなかったから、私が「営業活動」に行った大学があった。そこで、「M大って、女子が仕切っててさー」と話しているのが聞えてしまったので、ムっとしたのだが、そこでは我慢したんだけど、その飲み屋でナーバスになったときに、そんなことも思い出してしまい、なんだかとにかく悲しくなってしまっただけだ。

 同学年の男子や、私たちが懐いていた先輩も交互に慰めに来てくれたが、彼らはとうとう、いったいなんで私らが泣いているのか、わけわかんなかったに違いない。
 こっちとしても、ただ「疲れが溜まっていたので、ちょっと爆発してしまいました」としか説明できなかった。

 そんなわけで、私も20代の前半までは、ときどき押さえられなくなって、大泣きしたりしたけど、だんだんそういうのはなくなってきたな。
 数年前に、久々にやったけど、あれは完全にプライベートだったし、会社では、たしかに時々「泣いちゃおうかな」ってことはあるし、ジワっときたときは何度もあったけど、でも、なんとか体勢を保つことができたと思う。「今日は、私もちょっと疲れてるから、ちょっと感じ易いだけで、元気なときだったら、なんてことないことじゃん?」と思えるようになったから。

 それでも、たまに号泣するとストレス解消になるので、「ER」とかで大泣きしてますけど。

 さて、そんなわけで、なにがどうなったのかよくわからないんだけど、明日は休みですから、派遣のSさんは休みだけど、金曜日にはちゃんと来るのかね?
 ハイジは金曜日は休みです(笑)

 泣いたことで、彼女がどう踏ん切りをつけるかどうかで、彼女がほんとうに「ただの女子高マインドを10年間維持してるだけのギャル」なのか、「きちんと定職を持って、ゆくゆくはちゃんとキャリアを積む決意を持った、大人の女性」なのかがわかりそうなものです。

 私の勝手な思い込みですが、Sさんは「女子高マインド」なので、「仲良しは、ずっと仲良し」の法則というか、これは女子だけにしかわからないかもしれませんが、女子は一度「あなたとは友達〜」という身勝手な契りを交わすと、それがヒョンなことで「絶交」になってしまうまでは「ともだち〜」という慣性の法則を維持します。

 わかり易く言うと、一度「ともだち〜」という交流を持つと、毎日同じ態度で相手と接することになります。会社だと、廊下やトイレで「おつかれ〜〜〜」と挨拶を交わすってこと。
 しかし、男子はその「慣性の法則」とは別の生き物です。
 男子の日常は、「平面」というよりは「点」で出来ており、「昨日は仲良さそうに見えたけど、今日もそうだとは限らない」のです。

 逆もあります。仲悪そうだったのに、ある日の飲み会では、「同期の桜」以上に仲良さそうで「なんじゃこりゃ?」と思っていると、翌日は妙にそっけなかったりします。
 なので、「昨日はご機嫌で話かけてくれた男子」が、不機嫌そうなときに、女子同士と同じ気分で、「私には打ち解けてくれるであろう」と思って話し掛けると、ガツーンとやられるときがあります。

 女子は相手によって態度を変えますが、男子は、その日の気分によって態度が違うのです。

 で、Sさんとハイジは、私の言う「女子と男子」の典型のような二人なので、「いつかブツかるだろうなあ」とは思っていたので、ま、早いうちに激突してくれてよかったのではないでしょうか?

 この「おこちゃま同士のぶつかり合い」は今のところ「オレは忙しいんだ、しらねーよ」な態度のハイジにブがあるみたいですが、さて、どうなるかな。Sさんが開き直ると、けっこう怖いと思うよ。

 ただ、Sさんも若いから、ハイジの強気が「強がってるだけ」とわからない可能性もある。
 周囲を見方につけるような、こすい手は彼女にはわかってないだろう。ましてや、部長がセクハラすれすれで自分を気に入っていることなんか。(部長は「お忙しい」自分の秘書役に彼女を置きたいと願っており、それが「サイテー」なのは、ハイジもちょっとわかっている。私が説明してやったからだ)

 うーむ、いろいろワイドショー的に分析すると楽しいのだが、でも以上は私の勝手な想像なだけで、事態はそんなに大変なことじゃないのかもしれない。

 もはや、どうだっていいってかんじである。
 でも、そんな「女子校VS男子校」の戦いをもう少し見物したい気もするので、Sさん頑張れ!

11月1日(火)

 休みをとったので(文化の日は出勤だし、日曜日も出勤なので)、念願の「プーシキン美術館展」に行くことにし、母にも声をかけてみたら「北斎展のタダ券を新聞屋さんに貰った」とのことだったので、それも一緒に行くことにした。

 お天気もよく、上野公園は平日だというのに、かなり人通りが多かった。
 修学旅行のバスもたくさん走っているので、「もしや、美術館巡りするのでは?」と思ったが、やはり制服姿の高校生がたくさん中に入ってきた。

 それでも、まだ平日だったから入り口で並ぶこともなく入れたけど、休日だったら相当混雑するであろう。

 プーシキン美術館展は「伝説的なロシア人コレクター」の収蔵品が元になっているだけあって、かなり質の高い作品が多かった。作家あたりの展示数は多くはなかったけど、標準的な名作が多く、印象派好きの人には満足のいく展覧会であろう。
 呼び物であったマティスの「金魚」は想像していたよりも大きな絵で、近くで見ると、塗りムラだらけの妙な絵だったが、絵との距離をだんだんとっていくと、ムラや塗り残しが見えなくなり、それが効果的になるのが不思議。

 母曰く「この頃の絵が一番見てて楽しい」
 キュービズムとかになってしまうと、絵としての美しさよりも、理屈が前面に出てくるが、印象派の頃って、それまでの写実主義から離れて、みんな好き勝手に絵を描いている感じがするので、素人画家には一番参考になるし、それぞれが個性を競い合っている様子が、並べてみるとよくわかる。


 1時半ごろ、プーシキン美術館展を出て、軽くお茶して休憩してから、国立博物館に向かうはずだったが、母が「黒田記念館をちょっと覗いてみよう」と言い出した。

 話せば長くなるが、日曜日に母に電話して「上野の美術展に行かない?」と誘ったとき、母が「そういえば、昔からあの辺で、お昼を食べてみたかったところがある」と言うのだが「たしか、ずいぶん昔に新聞に載ってて、切り抜きしておいたんだけど、まだあるかしら」と言うので「探しておいてよ」と言ったら、30分後くらいに電話がかかってきて「切り抜き発見!国立図書館の上野別館だって」

 文化財級の建築らしので、その地下にある食堂も重厚な趣きなんだそうだ。でも、かなり古い切り抜きなので、「それがまだあるかわからない」と言うので、後でインターネットで調べてみることにした。

 そしたら、あることはあったが、そこは改築されて「こども図書館」になっているので、カフェテリアは併設されていたが、どうやらもはや「重厚な趣き」ではなさそう。
 なので、ランチは諦めて、私も休みの日にそんなに早起きしたくないので、午後1時集合にしたのだが、出掛けに支度していたら母から電話があり「やっぱし、その図書館とかソウガクドウも見学したいから、先に出てるけど、1時には東京都美術館で待ってる」とのことだった。

 こども図書館は、ファサードは昔のままの重厚な建物だったらしいが、内装はかなり現代的になっていたようで、あまり見るべきところが少なそうだったそうだし、ソウガクドウ(奏楽堂だとやっとわかった)も、昔はもっとボロくて風情があったが、すっかり塗りなおされていたので、がっかりしたそうだけど、「時間がなくて、あまり見れなかったけど、黒田記念館が良さそう。それに旧池田邸の門も見たい」とのことなので、博物館に入る前に寄り道してみることにしたのだ。

 「黒田記念館の黒田って誰?」と思ったが、私が思い浮かぶ「黒田さん」と言えば、一人しかいなかったけど、看板を見たら「文化財研究所」とかになっていたので、「ここ、中は見学できるの?」と思ったけど、ドアの中には「開館」という札がある。
 母は「さっきは入り口は閉まっていたのに、今は開いてるのかも」と言うので、おそるおそる中に入ってみると、警備員が立っていて、「展示室は2階です」と言うので、「あのー、ここは、なんなんですか?」と聞いてみると「黒田清輝の美術館です」
 すかさず母が「有料ですか?」という、ベリー インポータントな質問をしたら、「無料です」

 わーい、とさっそく2階に上がった。
 さっきまで、大混雑の展覧会を観ていたのに、こっちは人もまばら。
 でも、「教科書で見た絵」がちゃんとかかっている。
 無料にしては、いい絵が置いてあり、お勧めスポットだ。

 結局、「ちょっと中を見てみたい」というだけだったのに、けっこう時間がかかってしまった。

 その後、せっかくだから、旧国会図書館のファサードだけ見学したけど、ほんとに立派だ。
 あの辺にはあまり足を伸ばさないから、あんな立派な建物が並んでいるのなんて知らなかったよ。

 でも、その一角に「旧 京成 上野動物園前駅」の入り口がひっそりと立っていた。
 「ああ、そうだ、これって残したんだよね」と私が言うまで、母は気がつかなかった。

 その駅は20年くらい前に閉鎖されたが、京成線沿線住民だったミヤノ家は、何度かその駅から上野動物園に向かったのかもしれない。
 「へえ〜、こんな駅だったっけ?こんな駅だったかも」と母はその前で写真を撮っていた。

 そんで、旧池田邸の立派な門も見学してから、やっと「葛飾北斎展」に入場。
 時刻はもう3時半近かった。
 作品が500点くらいあるので、会場内にも「お時間にお気をつけください」という張り紙があったけど、ちまちまと並ぶ版画を混雑を縫ってじっくり眺めていると、作品番号50番くらいなのに、すでに30分くらい経過していた。

 これはまだ初期の作品で、後半に「富嶽百景」などがあるのである。
 母の姿を探すと、老眼鏡をかけたり外したりしながら「うーむ、絵がどうのより、彫る人の技術がすごい」などと、じっくりゆっくり鑑賞しているので「残り時間が、あと1時間くらいで、まだ4分の1も観てないんだからね。あたしは先に進むから」と声をかけて、ずんずんと先に進んでいった。

 どの絵も細部まで描きこまれているし、せいぜい色紙大と小さいので、ほんとは手にとっては拝見したいような作品ばかり。しかも、照明が押さえてあるので、だんだん目がシバシバしてくる。
 しかも、絵の前にはいつも数人の人が張り付いていて、大人しく順番を待っていると、何時間あっても足りないだろう。私はいつもの技で、人垣が薄くなったところをピンポイントで狙うことにした。

 4時もとうに回ったあたりで、やっと富嶽百景を見ることができたが、それの後に続いた、「花と昆虫や鳥」のシリーズはあまりにも美しく、ざっと最後まで駆け足で観終わったあと、もう一度戻って、そのときにはもう空いていたので、じっくり鑑賞することができた。

 閉館のアナウンスが流れたが、場内ではまだ沢山の人がゆっくり鑑賞している。
 閉館間際の美術館も久々だ。
 高校の美術の先生が「人気のある展覧会を見る裏技」として「閉館間際」を勧めてくれたのを思い出す。
 でも、絵はよく見えるけど、追い立てられているようで落ち着かないので、北斎展はせめて2時ごろに入場して、混雑の中、ゆっくりと4時くらいまで鑑賞してから、入り口に戻り(回廊式なので、どこから観てもいいのだが)、人がいなくなった展示の前をもう一度、ポイントだけお浚いして、閉館間際を楽しむというのがいいだろう。

 北斎という画家の凄まじい才能がわかる質も量も素晴らしい展覧会であったが、なにしろ量が多いので、へとへとに疲れた。モーツァルトの楽曲を100曲連続して聴いたような気分。

 疲れたけど、「いいものを沢山観た」という満足感でいっぱいになった。幸せなことである。
 上野で食事する場所も心当たりがなかったので、母が「目黒の回転寿司は?」と提案。
 うちの母のお気に入りなのである。
 いつも「行きたいなら連れてくわよ?」と言われているが、「悪いが、私はもっといい寿司をけっこう食べているので・・・」と遠慮していたが、他に代案もないので、「これも親孝行のうち」と諦めて、山の手線でぐるりと目黒に行った。

 安いし美味いという人気店のようで、母は「今日は空いてる」と言っていたけど、6時半前だったのに、10人待ちくらいで、60人は座れそうなカウンターは客でびっしり。
 たしかに、値段の割には美味しいけど、やっぱ普通の寿司屋と比べてしまうとなあ。
 でも、会計したら、二人で2000円くらいだった。私がビールを飲まなきゃ1600円だった。
 それで、そこそこの味の寿司が腹いっぱい食べられるのだから、行列ができるのも頷ける。

 でも、親に連れていってもらう店ではないような・・・・・

 まあ、そんなわけで「文化の秋」にふさわしい一日でありました。

 帰りは8時くらいになったので、久々にラッシュの電車に乗ったけど、やっと家に帰り着いたら、私の幸福な気分をどん底に落とす郵便物が一通。

 ああ、ほんとに参ったなあ。
 つーか、もはや怒りというより、絶望感というか、ひたすら悲しいよあたしゃ。
 君を信用した私がバカだったのだ。

 しかも、向こうの計算か、それとも全く偶然かわからないのだが、日曜日に久々に電話があったのだ。
 別の友人から、彼の消息を聞いていたので「ふん、私に不義理してるくせに」とついつい愚痴ったので、それが相手に伝わって、「ほんとに迷惑ばかりかけて・・・・でも、なんとか順調に行っているので、きっと立ち直ってみせます」と言われたのだが、私はあんまし信用できなかった。

 もう、「気持ち」は要らないから、「結果」だけ見せてほしいのだが、相手が「来年の春には結果を出す」と言うので、それを待つしかない。

 しかし、その郵便物によって、結果どころか、最低限のこともやっていないのがわかってしまった。
 そのことについては、私も「大丈夫なのか?」と思っていたけど、そのことを考えるのが嫌だったので、相手にもそのことについて問い詰めることをしなかったのだ。

 クヨクヨしててもしょうがないので、メールで「こういう書類が送られてきました。なんとかしろ」と事務的に書き殴って送りましたが、さて、これでちゃんとなんとかするものなのか?

 親切をアダで返されると、ほんとうに悲しいものだ。
 たぶん、このことに関しては「信用した私がバカ」ってだけの話なのだろう。自分でもそう思うし。

 不幸中の幸いとしては、これが「恋愛感情」でやったことではなく、ただの友情での行為だったこと。
 人類愛のつもりだったのよ。
 困ってる貧しい人をなんとか助けたいと思っただけ。

 でも、だったらパキスタンの被災者に寄付したほうが、よっぽどよかった。寄付にしちゃ金額がでかい。

 うーん、あんときも、そんなこと思ったんだよな。「これだけ寄付するから勘弁してくれ」って。
 でも、結果的に情にほだされて、バカなことをしてしまった。

 まあ、よくあることだし、仕事でも私の金ではないが、自分が働く会社が出資して、ばっくれられることはよくある。現在も、そんなのを2件抱えている。そんで、なぜか私が弁護士さんと話しをしなくてはならない。
 あーやだやだ。
 そういえば、もっとヒドい話もあって、2年くらい前にバックれた会社の社長が、最近になってまたコンタクトをとってきたので、社長も部長も唖然としていた。

 私が数年前働いてたベンチャー企業も、他人から借りた金を全然返せない状態だったので、私は嫌になって辞めた。だって、債権者が私に催促してきても、どうすることもできないし、社長に相談すると「いいんだよ、放っておけ」という態度だったのに、彼は移動する際にはいつもタクシーを使うような人物だったのだ。交際費も贅沢に使っていたし。
 借金でクビが回らないどころか、社員の給料も満足に支払えないというのに、よく私にご馳走しようとしたので(しかも俗物根性剥き出しで、すき焼きとか高級な店に入りたがる)、はっきりと「そういう金があるのなら・・・」と言ったこともあったが、「まあ、そう言わずに」と誤魔化されたので、耐え切れなくなったのである。

 あんときの債権者はほんとに気の毒だった。
 彼も、一生懸命、その会社がうまくいくように手を貸してくれたのだが、その行為もきちんと受け止めてもらえなかった。その社長には完全にバカにされていたのである。まあ、その人も、あんまし頭の良くない人であったが、あの扱いはあんまりだった。
 で、社長は彼がウザいので、そのケアを私に任せたのである。

 たぶん、あの社長も、債権者に対しては深層心理では疚しい気持があったのだろう。それをコ馬鹿にすることで、誤魔化していたのだろう。

 たくさんの極上の美術品を見て、心が洗われたというのに、嫌なことで帳消しになってしまったが、ヤクザが家まで取り立てに来たわけでもないので、まあ、もうしばらく様子を観て、自分なりに誠意を持って対応しよう。これは他人の問題ではなく、「私の問題」なのである。人生は酒豪・・・・おっと、ついつい究極の真理が・・・・修行だね。
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