ノルマの重圧


公務員にも民間のセールスマンのようなノルマがあるなんてと思われる方も多い
でしょうが、事実上、税務職員にはノルマが存在します。「事実上」というのは、
公にはノルマのことは表には出ないのですが、各調査官別及び部門別に税務調査に
よって、いくら所得を増やしたか(これを増差所得といいます)を集計していて、
これが勤務成績に影響を与えるからです。やはり、税金をたくさん取って来る調査
官の方が、勤務成績がよくなり、これが昇給、昇進につながるのです。もちろん、
増差所得だけではなく、他の一般的な要素も考慮されることは言うまでもありませ
んが、増差所得が大きいウェイトを占めるのです。税務職員の勤務評定は毎年3月末
と決まっていますので、調査による増差所得を稼ぐのも、新事務年度の7月から翌年
3月末迄に頑張らなくてはなりません。4月以降6月末までは、勤務成績に何の関係も
ないので遊んでいる期間です。

一部のキャリアを除いて、出世競争は激烈を極めています。大卒の国税専門官と高
卒の普通科があい乱れて、ポスト争いに明け暮れるのです。最低、誰でも上席調査
官まではなることができますが、その上の統括調査官にもなれない人が出て来ます。
最高ポストは、同期で1人が高松、金沢あるいは熊本国税局長となれますが、一般
的には税務署長です。又、上席調査官、統括調査官、副署長、署長と昇進させる場合
にも、期別管理をしていて、同期でも少しずつ昇進時期をずらしていて、競争させる
ようになっています。 このように、人によって大きな差がつくため、勤務成績を上げ
ようとノルマ達成が至上命題となります。都庁のように、係長や課長の役職に上がる
ための筆記試験はありませんので、上司がつける勤務成績のみで昇進が決まります。
ノルマがあることは、国税庁の幹部から見れば、これ程都合のよいものはないでしょう。

昇進、昇給というニンジンをぶら下げて、税務職員を馬車馬のように働かせ、租税収入
を上げさせ、納税者に対し牽制効果を植え付けることができるのです。公務員の中でも
税務職員は本当によく働くと評判ですが、国税庁の目論見が成功しているようです。
しかし、納税者から見た場合に、このノルマが或ることにより、納税者の人権を無視
した強引な税務調査が横行しているきらいがあるのではないかと思います。アメリカ
のIRS(内国歳入庁)では、第一戦の職員の勤務評定に賦課徴収実績を利用するこ
とを禁止しています。

ノルマの達成に必死の調査官やその上司である統括官は、しばしば納税者の権利を無
視したり、実績を上げるため、こじつけの修正申告をさせたりしています。無予告で
現況調査に入ったり、調査中に強迫や脅しまがいのことを言ったりすることもあります。
会社の調査であるのに、個人の机やサイフ、カバンそして寝室まで覗いたりのプライバ
シーの侵害行為も目立ちます。何よりの問題は、部門間の競争もあり、調査して全く
非違が見つからない場合には「ボツ」として調査のカウントに入れないことです。調査
して非違が見つかり修正申告を出した割合が90%近くもあるのは、現場で鉛筆を舐めて
いるからに他なりません。調査が終ればその結果を決議書に書くわけですが、これが全く
のデタラメばかりです。いい加減な調査で、相手の顧問税理士との妥協で増差所得を稼い
だようなのが結構多く、都合の悪いことは一切書かずデッチアゲの修正申告も相当多数
あります。何故、こんなことが出来るかと言えば、税務調査は調査官と調査先の社長、
税理士の密室で行われ、その決議書が外部に公表されることはありません。唯、会計検査
院に調査されますが、その実態までは判明出来ません。


税務行政の問題点

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