修正申告の慫慂


会社や個人事業をやっていれば、3〜5年周期で税務調査を受けることになります。
調査が終了して、税務上の問題点があれば、修正申告をするように言われます。
もし、税務署の言い分に納得がいかなければ、修正申告する必要はありません。
その替わり、税務署の方で更正処分をして来ます。この修正と更正の割合ですが、
圧倒的に修正申告の比率が高くなっています。税務署が修正申告にこだわってい
るのは、修正申告を提出してしまえば、その後は税務署に「異議申立て」や国税
不服審判所に「審査請求」をすることができなくなることや、修正申告でなく更正
とすると、青色申告者の場合には更正した理由を付記して納税者に通知しなければ
ならない手間隙がかかることにあります。ですから、年間で税務署で更正する件数
は何件もありません。納税者の方が強気で、更正しても結構であると突っぱねると、
税務署側は何とか修正申告させようと、色々譲歩して来て納税額を減らしてでも修
正申告させようとします。とにかく、更正となると大問題で、今までいい加減な調
査でよく調べていないので、もう一度、更正するために税務調査をやり直すことも
あります。

修正申告の問題点としては、税務調査による非違事項について、納税者には一切文
書による理由付記がないことによる不透明性です。当事者間だけしか、どのような
理由で修正申告したのか判らない密室性があります。もちろん、調査官は「決議書」
といって、税務署内部の決済文書を書きますが、これは納税者は見ることができま
せん。したがって、文書は税務署側の都合の良い様に書き換えられる場合もあります。
会計検査院の検査がありますが、文書の中味までは判別できません。調査官にはノル
マが課せられていて、できるだけ「増差所得」を稼ぎ修正申告を取ることが任務です。
そこには、ノルマのため無理矢理のこじつけでも何でも修正申告を出させようとしたり、
重加算税を課したりする調査官も中には出て来ます。

政治家、大物OB税理士等の陳情は煩雑にあります。このような陳情、圧力は大抵、
署長や副署長のところに来ます。大きな事案については、「重審」といって署長、
副署長、担当統括官、調査官らの会議によって決まります。会議といっても、実際は
署長、副署長の考えひとつで結論が出されます。署長がどこかの陳情を受け入れて、
「重審」で半分にまけてやれと担当者に言えば、そのとおりに決まり、決議書も最初
から半分の非違しかなかったように書いてしまうのです。税務申告で判断が難しい事
例について、税務署の指導官や相談官に相談にいっても、なかなかお墨付きの判断を
受けることができません。税務調査を担当する調査官と見解の相違があることを恐れ
ているわけです。過去の裁決や判例だけでは数が限られているため、該当する事例も
見当たることも少ないのです。税務署では過去の調査事績等については全く非公開で
すから、類似例等調べようもありません。アメリカでは、IRSが保有している「納
税者情報」、「税務行政情報」については、プライバシー保護を守り、できるだけ公開
をしています。納税者は自分についての「納税者情報」については、自由に開示請求
することが出来ます。一方、納税者情報を色々加工して様々なデータを作ったり、内部
通達、内部情報等の「税務行政情報」も開示を求めることが出来ます。

我国の場合には、政治家や大物OB税理士の陳情、ノルマに追われた調査官等によって、
実際の調査事実を歪めて決議書を書き換えてしまう場合も見受けられます。一般国民は、
税務署がどのような調査をやり、どのような自由裁量をしているかは、全くブラックボッ
クスの中にあります。逆に言えば、いい加減な調査をやり、特定の納税者だけを優遇する
ような裁量をしても、一般国民には判らないようになっています。これらのこともやはり、
税金を徴収する立場から都合のよいシステムになっているわけです。納税者の立場から考え
れば、自分を調査した調査事績は当然請求できる権利があるはずですし、調査事績が事
実どおり記載され不当なことが書かれていないか確認する必要があります。又、調査事
例もできるだけ公開して、納税者の判断の参考になるようにすることです。難解な事例
については申告前に質問を受け付けて、税務署としての公式の判断を下すことで、税務
調査時にはその問題は不問とすることです。

陳情等による理由の無い税金軽減を防止するためには、今の会計検査院の書面上の検査
だけでは全く効果がありません。税務調査の実質面までにも迫る検査をしなければなり
ません。国税庁内部にも監察官がいて、職員の不正行為等を調べてはいますが、これが
機能するのは明らかな収賄等であり、税務調査の実質面までは調べられません。課税の
公平を維持するためにも、税務調査が公正適切に行われているかを、国税庁以外の組織
が監査するようにすべきです。


税務行政の問題点

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