納税者主権


我国の税務行政は国際的にみて、手続的適正、透明性に欠けていると言わざるを得ません。
欧米や韓国では、「納税者の権利」の尊重を第一とした税務行政の確立がされています。
税務署の特別調査(略して特調)や現金業種の調査、国税局の資料調査課(略して料調)
による税務署への指導調査事案等については、任意調査(裁判所の令状がない)であるに
もかかわらず、事前の予告なしに調査に来ます。特に問題なのは、国税局の資料調査課に
よる調査です。税務署管轄の納税者の調査を税務署への指導事案として、税務署と合同で
調査するのですが、任意調査にもかかわらず、何十人もの調査官を無予告で、会社ばかり
ではなく、社長の自宅、取引銀行、取引先にやって来て、帳簿の他、金庫、タンス、押入
れの中までも調べることをやっています。任意調査なのですから、都合が悪いとか、プライ
バシーの侵害になるものは調査を断ることができるのですが、国税局が調査をさせろと言えば
、 査察の強制調査であるとでも誤解して、従わなければいけないと思っている納税者が多いのです。

ある団体の日本人職員全員が全員、税務署に呼ばれて、税務職員が作成した修正申告書に印鑑
を押すように強要されました。これに印鑑を押さなければ、税務署で更正するし、延滞税も
かかると脅かされたようです。その後、この人たちは私の事務所に何とかならないか相談に
来ました。修正申告を出してしまってからは、後から異議があるといってもできないことを
誰一人知っている方はいませんでした。又、税務署の職員も彼らに、この修正申告を提出す
れば異議申立てができなくなることも全く説明が無かったことも驚きました。税理士の関与
が無いからといって、税務職員が修正申告を作成し、きちんとした説明もないまま、印鑑を
強要しているのが実態です。

アメリカでは、任意調査をする場合には、事前に「コンタクトレター」(調査通知書)を必
ず発送しています。このレターには調査の日時、場所、理由、対象となる課税事業年度とい
ったことのほか調査上必要となる書類を用意してもらうこと、そして、納税者はどのような
権利を有しているかが記載されています。これは、税金を納めている納税者が主権者ですから、
税務職員といえども主権者に仕える公僕なのですから、納税者を尊重することになっているの
です。我国の場合には、ここのところが全く主客転倒していると言えます。税務署は主権者で
ある納税者を丁重に扱うどころか、最初から脱税しているに決まっているとの観念が先にあり
、 脱税の証拠を掴んでいなくとも、税金を取るためには、無予告で納税者のプライバシーまでで
きるだけ調査しようとします。

これには、我国の場合にはノルマが課せられていることも影響しています。このノルマとは
調査によって徴収した税額、修正申告させる修正割合等のことです。公にはノルマなど無いと
言っていますが,実際には、各調査官別、調査部門別、税務署別そして前年対比と色々な係数
を比較しています。このノルマの達成がないと、勤務成績にも影響するので、税務職員の中に
は納税者の権利を無視した税務調査をする者も出て来ます。修正割合を下げないために、是認
と終った事案を調査対象件数に加えないでボツとするのもあとをたちません。

調査の予告をする場合でも、文書ではなく1週間程前に電話で知らせて来ます。調査の理由は述べず、
用意する文書も言わないことが殆どです。ましてや、納税者はどのような権利があるなどは言うはず
もありません。納税者を丁重に扱わず、絞り取れるだけ絞り取り、そして集めた税金で官官接待
で飲み食い、公共工事の無駄の使い方等、どうして納税者はこんなにおとなしく、税務署の言い
なりになっているのでしょうか。早急に、我国も納税者が主権者であることを宣言して、税務調
査においては丁重に扱い、そして納税者にはどのような権利があるのかを、税務署から納税者へ
は必ず説明するようにしなければなりません。税務署側からみれば、逐次文書を出したり、調査
理由を明示したりすれば、納税者が脱税しやすくなり税金が取れないとの反発も予想されます。
こういった発想自体が納税者が主権者であることを無視しているのです。何も、脱税者を擁護す
るわけではなく、脱税者には厳しく罰則を課すのが当然ですが、脱税をしているかどうかの証拠
も無い者を最初から、犯罪者扱いをするのがけしからんと言っているのです。


税務行政の問題点

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