売上を除外したり、架空の仕入、外注費、給料を支払ったようにして、銀行
に簿外の預金等があると想定される場合には、調査官は銀行に反面調査に行
くことが出来ます。この場合には、一応、銀行協会との取り決めにより、
「金融機関等の預貯金等の調査証」に調査対象者の名称、住所、預金の名義
及び調査する税務職員の氏名等を記載して、税務署長の押印をしたものを銀
行に提示することになっています。仮名、無記名、借名預金である場合であ
ることが多いので、この「調査証」には、「預貯金者の名義が異なっているが、
右の者と同一であると認められる者を含む。」とあり、「この同一であると認
められる者」の認定者は金融機関側ではなく、調査担当者にあります。したがって、
調査官は疑いのある預金は、殆ど自由に調べる事が出来ます。
いきなり銀行に反面調査に行くほど、税務職員は暇ではないので、ある程度の
目星が無ければいきません。調査の始めには、社長の家族構成を調査官が用意
した紙に、社長に自筆で書いてもらいます。これが何故大事かといいますと、
家族の名前を使って会社の簿外預金を作る場合が多いこと、又架空や無記名預金
を作る場合にも、社長の筆跡から発見出来るからです。又、金庫を開けてもら
って、印鑑等があれば印影を取っておきます。こういった準備をしておいて、
資料せんから売上が計上されていないからとか、疑わしい仕入外注費、給料等
があれば、先ず取引先に反面調査に行き、取引先の帳簿等を確認します。
そして、簿外の金を公表外銀行(申告書の内訳明細にない銀行)に溜めているよ
うな場合には、必ずその銀行に反面調査に行かなくてはなりません。もっと他
の取引先等の金が入っているかもしれません。 銀行に反面調査に行くときは、
通常2人で行きます。そして、窓口で「〇〇税務署のものですが支店長お願い
します。」と言って、身分証明書を見せます。銀行側も調査には慣れていて、
支店長はめったに出て来ず、総務課長クラスの人が出て来ます。これは、上の
役職の人が出て来た方が部下に指示を出し作業がはかどるからです。2人で行く
のは、思った以上に、脱税の広がりがあり作業が膨大になるかもしれませんし、
なにより、銀行から納税者に通報し、納税者が銀行に見せるな、隠せとかいっ
て来て、銀行側が非協力的になってしまう虞もあり、できるだけ迅速に調査する
必要があるからです。 銀行側で対応して来た人に、いきなり「調査証」を見せ
るのではなく、この支店の概況を聞いておきます。預金量はどのくらいか、営業
管轄はどこまでか、仮名、無記名預金の管理はしているか。金融庁では、預金を
作るときには預金者の身分証明証を提示させるなどして、仮名預金を作らせない
よう指導していますが、これを守っていない場合も見られます。仮名預金につい
ては利息、満期等の通知等の郵便物が返ってくるので、銀行側でも管理簿をつけ
ています。したがって、この管理簿を見せるように要求します。銀行によっては
とぼけて、「そんなものはつけておりません。」うちには仮名、無記名預金は一
つもございません。」としらをきることもあります。それから、調査会社の名前
を出し、知っているかどうかを聞き、又その会社の担当者は誰か聞き、今支店内
に居れば呼び出します。担当者は毎日、外回りの日報を書いて上司に報告してい
ます。預金欲しさのあまり社長の言うまま、仮名、無記名預金を作ってあげたり
します。
会社名、社長、家族名義等で支店内に貸金庫がないか聞きます。これは、本人の
立会がなければ開けることはできませんが、ここに、色々な簿外預金、株券、宝
石等を隠している場合もあります。最初は、会社、関係会社、社長、社長の家族
名義で、現在の預金(すべての種類の預金)があるかどうかを、銀行に打ち出し
てもらいます。これには、現在解約してしまった預金は打ち出されないので過去
5年間の解約表を見せてもらい、預金がなかったか調べておきます。次に、全預金
のコムフィルム(預金元帳をマイクロフィルムにしたもの)と小切手、手形のマイ
クロフィルムを5年間出してもらいコムリーダーを貸してもらいます。税務署がよく
来る支店では、税務職員専用に中古の見えづらい機械を用意しているところもあります。
社長や家族名義の普通預金をコムフィルムで見ていて、注意するのは収入で、他行
振出の小切手、手形の入金がないか、又取引先等と思われるところからの振込はな
いか等です。もし、そのような入金があれば、その日付の入金及び出金伝票を出し
てもらい、入金先の名称、住所を調べます。又、小切手、手形の場合には、マイク
ロフィルムで現物を確認して、振出人の名称、住所、振出銀行の名称、支店名小切
手手形番号を書き取っておきます。このような不審な入金がある口座の場合には、
出金の方も注意を払わなくてはいけません。100万とか200万とかまとまって、キリ
がいい出金の場合には、仮名預金を作っている場合が想定されるので、その日の
入金、出金伝票を全て出してもらいます。出金伝票の綴りから当該出金伝票を捜
し出し、現金で出ているのか他の預金に振り替えているのかを見ます。ただ、現金
で出ていっているとなっても、番号札(預金をおろすときに渡す番号札)の記入が
ないとか、金種が書いていないときは、現金扱いとしているだけで、他の定期預金
等に振り替わっている場合もあります。そのときは同じ日の入出金伝票を1枚1枚め
くりながら、会社、関連会社、社長、社長の家族名義等で定期預金が作られていな
いかもし、そのような名前がなくとも、出金額と同じ金額の定期預金等を見て、筆
跡が同じものはないか捜し出します。