国際調査化


我国の民間企業は大手ばかりではなく、中小までもが海外に支店、現地法人を創って積極的
な国際化を図っています。情報も国際電話、テレックス、衛星放送等で世界中と自由に連絡
交信ができます。海外旅行も安価で、世界中に気軽に出掛けられますし、海外への不動産投資
も活発に行われるようになりました。

この一方で、国税当局の海外取引関係の調査は民間企業の国際化に遅れを取っていて、必ずし
も十分な調査が行えてきたか疑問の余地がありました。それは、取引の相手方が外国にある
ため、主権の問題があり、容易に反面調査ができないこと、取引関係書類は外国語、専門用語
が使われており、内容を理解するには専門的知識を要することなどの問題点がありました。

最近では米国のIRS(内国歳入庁)の移転価格税制が日本の著名企業を狙い撃ちにして、米国
との国際問題化しています。又、タックスヘイブンといって、世界中の国の中で軽課税国に利益
を留保して、我国の税負担から逃れようとすることも問題となっています。

国際化についていける職員を養成するために、国際租税セミナーという研修を行っています。
これは一定年数以上勤務が条件で、英語と所得税法か法人税法がどちらか一科目を選択して
の選抜試験があります。英会話、貿易実務、国際租税、英文財務諸表等を3ヶ月間に渡り、
みっちりと勉強します。これを卒業すると、何年か後に又6ヶ月間に渡り、さらに高度な研修を
受けます。この研修生は9割以上が、大卒の国税専門官採用者のようです。このセミナーの
卒業生は、海外の駐在員、国税庁の国際業務課、国税局の国際調査課、外国法人部門、外国
人部門、税務署の国際税務専門官等の国際関係の第一線で仕事をしています。

脱税防止、あるいは二重課税排除のために必要な情報を外国税務当局と相互に交換する情報
交換制度があります。例えば、我国の税務署が調査をしていて、相手国の企業の脱税や、取引
の確認について、相手国の税務当局に調査依頼をするとかが可能となります。現在約40ヶ国
と租税条約、情報交換の取り決めを結んでいます。駐在員(長期滞在者)が海外に、ニューヨ
ーク、ロサンゼルス、トロント、ソウル、香港、シンガポール、ロンドン等に2年の任期で行っ
ています。この駐在員は、日本からの調査依頼を受けたり、出張者の案内、そして、日本企業
や個人の取引の資料収集等を仕事としています。

国税庁に国際業務課、国税局に国際調査課、国際情報課、税務署に国際税務専門官を置いて
国際調査の充実を図っています。このうち、国際調査情報官が税務署に置かれたのは、平成
3年度からです。東京国税局管内では、麹町、神田、京橋、日本橋、芝、麻布、新宿、渋谷、
横浜中税務署等の都心の税務署に置かれ、国際取引関係を主体にした調査を行っています。
3人編成と4人編成のところがあり、貿易業、海外現地法人、海外支店及び海外への土地、
建物等の不動産投資がある法人を重点的に、法人の調査だけではなく移転価格税制及びタッ
クスヘイブン税制の面からも調査しています。その後、名称が国際税務専門官と変わりました。

これらの法人を調査していて、海外取引で疑わしいものについては、国内と違って、反面
という、取引相手に行って帳簿や代表者等に確認することができません。そこで、先ずは
アメリカの著名な民間調査機関を使いますが、これは有料です。それでも確証が得られな
ければ、長期滞在者が派遣されている場所については、調査の委託を行うことになります。
ただ、これは相手国の主権の問題があり、相手先法人あるいは支店に臨場して調査するこ
とはできません。長期滞在者ができることは、取引の相手先が住所地に実在するかどうか
現地に行って確認する、登記簿を取り寄せる、電話帳に名前が載っているか等の外観的な
調査しかできません。

これでも、まだ確証が無ければ、調査官が反面調査に出掛けることもあります。先程、主権
の問題で海外反面調査はできないと書きましたが、これには例外があるのです。租税条約を
結んでいる国では、日本法人が100%出資している現地法人又は支店で、その調査法人が
海外反面調査の了解をしたこと及び反面国の税務当局の承認を得たことが条件で、調査官が
海外に反面調査に出掛けることができます。最近は、国税局の調査部ばかりではなく、税務
署の国際税務専門官もかなり、海外に出張するようになりました。

その他、租税条約を締結している国については、相手国に調査の委託もできます。これは
相手国の事情もあり、すぐには回答が期待できませんが、約1年後ぐらいには相手国の税務
官庁が取引相手先の税務調査を行い、委託していた問題点を調査して、その結果を報告して
くれます。その逆に、我国の税務官庁が他の国から調査の委託を受けて、調査することも
あります。


税務署に詳しくなる話

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