OB税理士


税理士試験は毎年8月に行われますが、かなり難しい試験と言えるでしょう。税理士の資格
を得るには、5科目の試験に合格しなければなりません。これは、一度に合格しなくともよ
く、何年かけてもよいことになっています。簿記論、財務諸表論は必須科目、所得税法か法
人税法のいずれかを選択して、残りは消費税法、酒税法、相続税法、国税徴収法、住民税法
事業税法、固定資産税法のうちから2科目を選択することになっています。これらの各科目
の合格率は約10%程度で、一度に5科目を合格する人は、毎年2〜3人程しかいません。
通常は3〜5年かけて5科目をとる受験生がほとんどです。簿記論、財務諸表論は公認会計
士2次試験と同じ試験科目ですが、試験の難易度は同じ程度です。

ところが、税務署に23年勤めれば、このような難しい試験を受けることなく、税理士の資格
を取得できます。最近は税務署を退職して税理士を開業する人はあまりいません。全国に約
6万人の税理士がいて、このうち約半数が税務署OBで占められていますが、飽和状態で過
当競争だからです。昭和30〜40年代の高度成長時代には、税理士の数も少なく、新設法人
も多く大量の税務職員が退職して税理士となっています。これらの人は多くが成功して、今や
大事務所を構えています。

税理士の平均年齢は約60歳と言われ、他のどんな職業よりも高齢となっています。それも
これも、税務署を定年(60歳)あるいは勇退(署長、副署長クラスになると定年前の58歳
で後進に道を譲る)した税理士が毎年誕生するからに他なりません。この勇退する署長、副
署長(指定特官を含む)には、税務署や国税局が顧問先のお世話までしています。最終ポスト
によって違いはありますが、地方の国税局長や東京国税局の調査四部長などは、億単位
の顧問先がつけられるとも言われています。関東信越国税局のある大規模署で辞めた元
署長は、顧問先50件で年収5千万円以上をもらっています。但し、これらの顧問先は2年
限りで、返すことになっていて、次に辞める人に引継ぐことになっています。
このような高額所得者は、5月の高額所得者番付に出て目立たないように、当初申告は少な
く申告して、後で修正申告するような裏わざまで使っている大物OB税理士もいます。
最近では、元札幌国税局長の大物OB税理士が、7億4千万円もの所得を脱税し、逮捕されて
います。

最近はしがみついて、なかなか顧問先を返さない人が多くなっているようです。紹介してもら
う顧問先には、通常の会計税務を行う税理士が既に入っており、いわゆる「2階建て」(税理
士が2人いること)になります。OB税理士は顧問料を2年間銀行に振り込んでもらい、一度
も会社に顔をだしたことも無いという人がたくさんいます。資本金1億超の国税局調査部
所管の法人などは、申告書、決算書等は自社の経理部で作成するので、申告書に税理士
の署名は入っていないけれど、2階建てどころではなく、4〜5階建ての高層建築もざら
にあります。

当局では定年前に勇退してもらうので、2年間の生活を補償するものだと説明しています。
元署長や副署長を税理士として雇っておけば税務調査のとき融通が効くのではという民間
会社の思惑と合致しているわけです。どうも、端からみると税務調査での透明性に問題が出
て来ます。最近、OB税理士から資産税の調査官に賄賂が贈られるとういう事件が発覚しま
した。OB税理士と現役調査官の関係は先輩後輩の関係ですから、気の緩みからこういうこ
とが起こったのでしょうか。税務署が退官する元署長、副署長を税理士として紹介した会社
を税務調査するときには、何らの便宜が図られていないと釈明しても、第三者的立場からみ
ても、税務調査の信憑性に疑問が生じるのではないでしょうか。

大体が優良法人とかを代々引き継いでいくのですが、それだけでは足りず、例年4月以降に
国税局や税務署の統括官が、調査法人にOBのはめ込みに廻ることになります。このときに
OBはめ込みの見返りに、何らかの条件(優良法人にするとか、調査税額をまけてやる)を
提示したりもしているようです。

署長で辞めた税理士なら税務署に顔が利くかというと、辞めて2〜3年以上経つと、特別に
世話になった人以外は、自分の成績の方が大事であり、相手にはしなくなります。こういった
人は実務からかなり離れているので、申告書、決算書等は書けないか、書けても面倒なので
他の税理士に外注させている人も多いと聞きます。

税務署出身の税理士でつくっている「桜友会」がある一方、試験合格者でつくる「専税会」、
「全国青年税理士連盟」があります。これからは、税務署出身よりも試験合格者の勢力の
方が強くなっていくでしょう。それは、税務署を中途で辞める人が殆どいなくなったことや、
これから、5〜6年は税務職員の採用数が少なかった時代の人が定年を迎えるからです。

試験合格者は難しい試験を何年もかかって苦労して合格したのですから、ただ税務署に23年
勤務しただけで、無試験で税理士の資格をもらえることには疑問を持っています。税理士会の
税理士法改正草案のなかにも、このことに触れており、勤続年数を増やすとか、一部科目だけ
免除するとかが考えられています。


税務署に詳しくなる話

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