若紫に


(第二十七回記念祭寮歌・大正六年・南寮)



若紫に夜は溶けて    夢に漂う曉の    
丘の小草の青ばみに   春の光のかげろへば 
乾に靈の響あり     坤に和楽のとよみあり

花散る床のまどろみや  枕に通う明の鐘   
醒めよと強く私語けば  夢より出でて又夢の 
歡楽の野に辿り入る   祝へや一日記念祭  

草より草に沈み行く   片われ月の武藏野に 
み星の涙滴りて     亂るる花の潤へば  
筑波の峰に星冴えて   玉笛ゆるうすすり泣く

ああ當年の若武者が   駒の蹄を忍ばせて  
行方も知らず迷ひけむ  丘の夕もありにしか 
廣野を靉びく白銀の   薄の影の淋しさに  

丘は變わらぬ丘の上に  自然の姿うつろひて 
聳えてゆかし六つの城  散りゆく花の下蔭に 
夕さり來れば若人が   紅き血潮の滾るかな 

思出多き武香陵     六寮建てて二十七  
春年毎にめぐれども   三年の春に限りあり 
盃あげてさらば君    共に壽げ花筵