新墾の

(第四十七回記念祭寮歌・昭和十二年)

作詩 田中隆行  作曲 服部正夫



新墾の此の丘の上  移り來し二歳の春
緑なす真理欣求めつつ 萬卷書索るも空し
永久の昏迷抱きて  向陵を去る日の近きかな
追 懐
一 旗薄野邊に靡きて 片割れの夕月落ちぬ
燦きの星は語らひ微香る大地囁けど
玉の緒は繋ぎもあへずひたぶるの男の子の苦悩
三の城燈も消えゆけば逝きし友そぞろ偲ばる
二 ひた寄する沈倫の中を甦生る制覇の戰
祝歌ふ若人の頬に一絛の涙滴す
望月の盈れば虧くる嘆きにも橄欖の梢
仰ぎつつ光栄ある城を動揺なく守り行かんかな
理智咲けるラインのほとり 藝術生すローマの丘に
東帝國の精神の文化見よ今し流れ出づるを
柏蔭に憩ひし男の子立て歩め光の中を
國民の重き責任負ひ五大洲に雄叫びせんか
霞立つ紫の丘 公孫樹道黄葉づる下を
彷徨ひし嘆きの胸に久遠の思索はひそむ
失はじ我等が衿侍護り来し傳統の法火
浄らかに燃え盛る時継ぎゆかな來む若人に
    結   
思出は盡ず涌きくれ逼り來ぬ別離の時は
玉蜻の夕さり來れば暮れ残る時計臺めぐりて
集ひ寄る和魂の群れ壽の酒掬まんかな