東大三鷹クラブ第78回定例懇談会

 講 師 東京労災病院院長(前国立がんセンター中央病院院長) 野村 和弘氏(昭和37年入寮)
 テーマ 「がん治療の温故創新」

 5月の定例会は、下記の日程で、野村和弘さん(東京労災病院院長・前国立がんセンター中央病院院長・昭和37年入寮)に、御専門のがん治療についてのお話をしていただきます。私は、糖尿病、高血圧症などのため東京労災病院に通院し約20年になります。2年ほど前のある日、病院の領収書に野村さんの名前を発見し、驚き、かつ嬉しくなりました。以来、診療の後、院長室で雑談して帰るのが楽しみになりました。今回の講師の件も、そうした会話の過程で実現しました。

 野村さんは、群馬県太田高校卒、ずっと医師を目指しておられました。1浪で群馬大医学部に合格しましたが、僅かのところで失敗した東大をあきらめきれず、背水の陣でさらに1年の予備校通いの後、昭和36年、目出度く理科U類に入ることが出来ました。当初は、経済的な理由から、同じ年に学芸大に入学した弟さんと2人で自炊生活となりました。偶然にも下宿先は、タールがんで世界的に有名な病理学者、山際勝三郎東大教授の永福町のお宅でした。床の間つきの部屋をあてがわれ、御飯を炊く湯気などで床の間がいたんで来て、夫人から苦情が出たりしたそうです。

 2年目に三鷹寮に入寮、西寮の3人部屋に入ったため、東寮の蚕棚生活の醍醐味を経験することはなく、通学と遅くまでのアルバイトばかりの1年で、同室の友人ともほとんど顔を合わすことのない毎日でした。そんな苦労の末、好成績で医学部試験をパスしました。バイト生活は相変らずで、学力増進会で数学を教え、最低のクラスの力を大幅に引上げることに成功、生徒や母親に人気があったとのことです。折しも医学部に端を発した東大紛争の火が燃えさかりつつあり、後に安田講堂事件を指揮した今井 澄氏(故人)とも、インターン反対を共に闘いました。

  野村さんの専門をうかがいますと、脳神経外科とのこと、直接の動機は、佐野教授の脳腫瘍についての治療法 BudR に関する講義に深い感銘を受けたことによります。従来6カ月の命とされたこの難病に対して、がん細胞に抵抗できる物質を取込める作用のある薬品を脳に通ずる血管に注入する。当時としては画期的な発想でした。

 野村さんは、卒業後医局でのインターンを拒否し、市中病院で初期研修をつづけました。昭和47年、東大脳神経外科の医局に入る話が持ち上がりました。皮肉にも、尊敬していた主任の佐野教授は、インターンをボイコットした奴など使えるかと難色を示されました。しかし、永井講師の強い推薦があり、何とか野村さんの医局入りが実現しました。

 医局に2年間在籍した後、がんセンター勤務を経てカリフォルニア大学の研究室で2年半病理研究に従事しました。帰国すると再びがんセンターに復帰、爾来65才で中央病院の院長を定年退職するまで30年余の長きにわたって、わが国のがん治療の最先端にあって活躍されました。現在労災病院において新しい立場で手腕を発揮して居られますが、今回は専門分野での豊富な経験をもとに、有益なお話をお聞きできると期待しています。(平賀記)



                  記

 日 時:平成20年5月30日(金) 18時30分〜21時
 場 所:学士会館本館203号室(千代田区神田錦町3−28  Tel 03-3292-5931)
 講 師:野村 和弘 東京労災病院院長(前国立がんセンター中央病院院長・昭和37年入寮)
 テーマ:「がん治療の温故創新」
 会 費:5000円(夕食・飲物付き)
 定 員 70名(先着順)
 申込先 平賀・干場 Fax 03-5689-8192 電話 03-5689-8182
  有限会社ティエフネットワーク Email:tfn-hoshiba@blue.ocn.ne.jp