Jim Bianco / Handsome Devil (Independent / No Number) 2004

 LAに暮らすヒップな若造、ジム・ビアンコ。スタジオ録音としては2作目、ビッグ・バンドとの共演ライヴを経てリリースされた新作。この男の音楽は、なかなか文章で形容し難い。とはいえ、何とかイメージしてもらいたいので、私の第一印象から、“キャバレー・サウンド”とでも表現しよう。ファーストでは南部的な音楽性を強く感じたが、今回はジャズからの影響をより強く押し出してきたように思う。猥雑で、艶っぽい音楽。サックスやトランペットの音色が何ともクールに響く。一聴して忘れないのは、その声だ。いわゆるダミ声、それも、ハウリン・ウルフばりのかなり暑苦しい声の持ち主で、特にスローなジャズとブルースの間の子のような曲での歌いっぷりなど凄い。その声、このデジタル時代にはおおよそ似つかわしく無いものだが、後ろにどんなサウンドを持ってきても強引に全てをまとめ上げてしまう不思議な力がある。優美なアコーディオンがロマンティックな音空間を演出するワルツも、声が声なので何ともユニークな世界を構築している。
 ジャズ、ブルースにフォークが交差し、時にヨーロッパ的な哀愁も感じたりするというと、余計に混乱を招くかもしれないが、そういう要素が細かい部分まで抜け目無く紡がれているのだ。リリース後に録音し直して再発されたファーストで、ブラッド・ゴードンという人物を共同プロデューサーに迎えていたが、今作でも起用している。この人物、様々な楽器を手掛けていて、ミニマムな演奏でマキシマムな広がりのある音を作っており、その貢献度はかなり高いと推測する。もちろん、ビアンコ本人の曲も面白く、言葉の選び方、使い方などは、やはり若者らしいフレッシュさがある。ルーツ寄りでありながら、どこか洗練された感覚。一遍の映画のような全体の流れ、さらにはユーモア溢れるアートワークも見事なもので、トータルで完成度が高い。ともかく、このジム・ビアンコとその仲間達、LAシーンでもいよいよ要注目の存在になってきた。

Twangup

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 VA / Blue - organic jam - (バッファロー LBCY-301) 2004

 いわゆる“ジャム・バンド”をキーワードに、アメリカのホットなグループを紹介した日本独自の編集盤。監修はバッファロー・レコードを主宰するダグラス・アルソップ氏によるもので、緩急、変化に富んだ幅広い選曲だ。基本的な流れとして、前半にアコースティックなブルーグラス・ベースの音、後半にエレクトリックでよりモダンな音を並べている感じがある。ニュー・モンスーンのスピィーディーでピンと張り詰めたテンションを感じるブルーグラスをベースとしたサウンド、先頃来日を果したシム・レッドモンド・バンドのようなリラックスした緩いノリ、幻想的なレイルロード・アース、テクノ的な要素も加味したサイケデリック・ミュージックのパーペチュアル・グルーヴ、ファンキー&アシッドなモデレコ(ケラー・ウィリアムスとの共演曲を収録)など、基本的に新世代のグループをメインにしている点に好感が持てるし、すでに古株といえるレフトオーヴァー・サーモンや、代表的なジャム・バンドの一つであるストリング・チーズ・インシデントといった辺りの曲もちゃんと押さえてある。ピーター・ローワンは別格で、年齢的にも音楽精神的にも、ここに参加しているミュージシャンからすれば“父親”のような存在だろう。
 そもそも自由奔放に雑多な音楽をクロスオーヴァー(死語?)する多様多様な音楽性を持ったバンド達なので、ここに収められた1曲づつから彼ら個々の全貌を伺い知るのは難しいとは思う。しかし、単純に「ジャム・バンドってどんなの?」という人に格好のショーケースとなるだろうし、さらにもう一歩踏み込んで聴いてみたいという人にもうってつけの1枚だ。ところで、本作はアメリカのルーツ指向の音楽の今を映すコンピレーション・シリーズの“第一弾”ということのようだ。そうすると、今後、違うテーマを持った二弾、三弾が続く....はず(?)で、非常に楽しみである。

Twangup
Thanks to Douglas Allsopp

Now on sale at Buffalo Records


 Keiko Walker / Both Sides Now (Leamington Dove LDM-0102) 2004

 ケイコ・ウォーカー(Keiko Walker)は日本で活動する日本人アーティストだが、名前が示すとおり、四分の一イギリスの血を受け、横浜のミッションスクールで育ち、日英二つの言葉を母国語とするコスモポリタンだ。80年代初めにプロとしてデビューし、声と楽曲から和製エミルーの評判を取った。最近はシンガーソングライター・シメとの男女デュオBroken Ashesで見事なアコースティック・カントリー/フォークのハーモニーを聴かせるとともに、ドラムス、エレキベース、ギター・ピアノというロックバンドの編成のバックバンドKeiko Walker Bandを率いたソロ活動では、イギリスのルーツを意識したフォーク、ケルト音楽や、オルタナ・カントリー色の強い演奏を聴かせている。

 本作は、彼女のフルアルバムとしては2枚目になる作品だ。ケイコはステージでもスタジオでも、自作曲はやらない。すべてカバーあるいはトラッドを英語で歌う。本作で取り上げられた曲も、アコースティック・フォークとして歌われる"Greensleeves", "The Water Is Wide"といったなじみ深いトラッドから、フォークロック的なニュアンスの"Both Sides Now" (Joni Mitchell)、 "Angel" (Sarah McLachlan)、さらにはFleetwood Macの"Rhiannon"などといったロックナンバー、そして本人がボウランを弾くアイリッシュ・インスト2曲まで、幅広い。中でも光るのが、ケイコのアイドルの一人であるSandy Denny/Fairport Conventionのレパートリーからの選曲。彼女の歌も素晴らしいし、"Matty Groves"の、Fairport ConventionやContinental Driftersのバージョンよりロックビートの効いた力強い演奏や、"One More Chance"の後半の抑制を効かせながらも情念のこもったギターソロなどに、Keiko Walker Bandの実力が伺える。このままアメリカに持っていっても誰も日本人のレコードだとは思わないだろう。しかしそれでいながら、日本人である我々には、「赤とんぼ」に通じるような日本的感覚も聴き取れるのが面白い。ライナーで白井英一郎氏が書かれているとおり、カバーだけでも十分にケイコ・ウォーカーの世界を創り出している。

 素晴らしい作品だが、個人的にはまだこれでも彼女のライブの素晴らしさを捉えきれていない不満が残る。ライブでのKeiko Walker Bandの演奏は、もっともっと力強い。初めて彼女達の演奏を聴いたとき、僕の頭に浮かんだ感想は「(Emmylouの)Spyboyみたい」というものだった。ケイコは毎月2回、銀座のナッシュビルで定期的に演奏しているが、このような演奏がその気になれば毎月聴けるというのは、実に贅沢なものだ。

J-BOY

なお、本作は小さなレコード店では見つけにくいと思うが、下記のケイコのwebや、hmv.co.jpから通販で買える。
http://www.keikowalker.com/


 Rusty Truck / Broken Promises (Coda Terra CTE-1001) 2003

 貴方はRolling Stones誌のチーフカメラマンとして成功し数々の賞も受けている。仕事の関係で、Jacob DylanとかLenny Klavitzとも友人になれた。さて、昔から音楽も好きだった貴方は、曲を書いて録音してみると面白いと思っていた。そこでJacobに相談してみたら、彼のスタジオでデモを録音してくれた。彼のバンドメイトのRami Jaffeeがバックバンドを見つけてくれて、人前でも演奏した。それを聞いたLennyが気に入ってくれて、アルバムを作れといってきた… こんな映画のような話の主人公が、Rusty TruckのリーダーのMark Seligerだ。
 
 Rusty Truckはバンド名義となっているが、実際はMark Seligerのソロプロジェクトだ。すべての曲を自分で書いて歌っている。デビュー作『Broken Promises』を作るにあたって、Markは写真家としてのコネをフルに活かした。曲毎に錚々たるメンバーにプロデュースを依頼したのだ。Jacob & Ramiが3曲、Lennyも3曲、Gillian Welch & David Rawlingsが2曲、Andres Levinが2曲。Willie NelsonやT-Bone Burnettも。それぞれの曲では、プロデューサーがゲストとしてもバックアップし、T-Boneの曲にはSheryl Crowも参加している。あざといとまでいえる豪華なゲスト陣だが、Markの書く曲と歌はカメラマンの余興という域を遥かに越えて、十分にそれに応えている。上記の顔ぶれから想像できる通り、オルタナ・カントリー的な色をもったポップロックというべき音だが、Markの書くメロディのよさが光る。Wallflowersが好きな方には安心してお薦めできる。個人的にはタイトルチューンを含めたLenny Kravitzがプロデュースした3曲が特に印象に残る。
 
 ただ、どの曲もいかにもそのプロデューサーがやりそうな音に仕上がっているところが、次作へ向けた課題だろう。これ一枚の企画もので終わるのか、次の作品で独自の世界を打ち出せるのか、ミュージシャンMark Seligerとしての真価が問われる。

J-BOY


 Steve Wedemeyer / Disclose (Browntown No Number) 2003

 現在はテキサス州ヒューストンに在住しているらしく、外見から察するに大きく見積もってもまだ30代と思われる新人ソングライターのデビュー作。ほとんど詳細不明だったが、ジョン・ディー・グレアムのプロデュースということで、サウンド面はある程度期待できるだろうと入手した1枚。バンドには、ジョージ・リーフ(ベース)、ラファエル・ガイオール(ドラムス)という、ジョン・ディーの初期二作を支えた顔ぶれをそのまま再召集している。この二人は即ち、チャーリー・セクストン・セクステットのメンバー。さらに、ジョン・ディーの右腕マイク・ハードウィック(ギター&ペダル・スティール)までも加わる。ジョン・ディーのピーキーかつトワンギーなギターも数箇所で炸裂し、存在感を示すが、出しゃばり過ぎず、しっかりとバックに徹している。適度に重く、タイトで乾いたこれらの面々の演奏は鉄壁だ。
 さて、まったく未知数だった肝心のスティーヴ・ウェドメイヤー(表記に自信無し)本人はというと、個人的には、またしても新たな才能に出会えたという感がした。よれ気味の声は、かつてのマーク・ベノを想起させるが、どこか骨っぽくもあり、かなり存在感がある。曲は本人が全て単独で書いていて、どこか突き放したようなシニカルな感覚があり、孤独感、喪失感、やや神経質そうな苛立ちを静かにはらんだ重たくシリアスな曲が多い。救いを求める行き場の無い若者の呟き、くすんだザラリとした心情がバンドの鳴らす音と見事にシンクロしており、プロデュースされる側とする側、双方の組み合わせがドンピシャリ。端的に表現すればカントリー・テイストのあるフォーク・ロックということになるとは思うが、これは明らかに無頼なテキサスのソングライターの系譜に属する男。今から次作が楽しみである

Twangup

Now on sale at Cafe Goatee