ゲーム屋裏方稼業

第8回 手書きコメントの説得力

 少し前、01年夏頃に『白い犬とワルツを』という文庫本のヒットが話題になったのは、小売業に関する人なら流通系の小さくないニュースとしてご存知かと思います。一般の方も新聞記事の覚えがなくとも、日常的に書店でご覧になっているのではないでしようか。
 数年前に発行されて元々話題作でもなかった文庫本が、ある町の書店で手書きのPOPを付けて当店の一押しとしてアピールしたところその地域で急速に売上を伸ばし、その既刊の文庫本としては異例の急上昇がさらに話題を呼んで全国的に注目されるに至った──という次第で、大きめの書店ならコメントPOP付きで置かれていると思います。そして、このヒットの方法論は一般の新聞でも取り上げられていた程で、今さらここで触れることもないでしょうが、ともかく最重要ポイントは手書きコメントならではの説得力という点です。──しかし、巷の書店で使われているこの作品のPOPは、結局のところその店独自のものでなく元々の手書きP0Pそのまんま複製で、なんだかなーと思ってしまうのですが……まあここまで話題性が確立していればね。

 さて、話は自分の経験談に戻ります。第1回のとおり、発売される全ゲームタイトルの紹介コメントを書くのが私の最も大きな仕事だったのですが、その4000タイトルほどのコメントはデータベースソフトで管理し、必要に応じてIllustratorでデザインしたPOPのベースに書きだして出力していました。マンスリーで送付している分はファイルメーカーによる簡単なレイアウトでそのまま出力。
 が、ある新規のお客さんから、コメントPOPが欲しいのだが手書きのものはないかと。うーん、それが弱点なのです。ココの会社の場合、読みやすさやデザインの統一性、それに作成の利便性を重視して、印刷物だけでやってきましたから。しかし、手書きでこそ店員の直の声といった親しみやすいイメージと説得力が生まれることも解りますし、そのメリットは無視できない。お店の要望に応じてなんでも請け負うセミオーダー形式が売り物の“ゲーム屋裏方稼業”、ご注文とあってはやるしかない!ということになりましたが…タイトル指定で100枚ほど。で、コメントカードに手書きっぽい装飾も入れて…?(汗) カード地はそれっぽくMacでデザイン、出力したものを使用することにしたのですが、コメント自体は本当に手書きです。しかし、デザインはすべてMacでやっている会社で、それも全員が入社後にMacを使って憶えた叩き上げ?(笑)ですから、手書きでPOPを書ける人間っていないんですけど…。強いていえば自分がわりとPOP向きの字なのですけど、スキルがある訳でなくて単にクセの強い角字なだけで果てしなく遅いし。納期も押しているところで、私は新作分のコメントをデータベースに打ち込むことに専念し、5〜6人がかりで既成コメントをひたすら書き写すことに。正直…手書きならなんでもいいって訳じゃあるまいし…というモノが出来上がってしまったのですが、社長がコレで納品するってなら仕方ないや…(汗) ある意味、いかにも素人が書いたっぽいフレンドリーさが演出されてイイのかも…。と思いつつ納品。
 ちなみに、そのお客さんからの再びの注文はなかったのですが──まあ、必要なタイトルだけ指定での注文でしたからもう事足りたのか、あるいは無理を押して頼んではみたが懲りたのか、それは知る由もありません…。こちらも二度とやらなくて済んで一安心ではありましたけどね。
 そこで一言。普段コンピュータしか触っていない人間は字を書き慣れていないのだから、手書きでモノ書かせるようと思わない方がいいですって…。

(2001/10/4)