ゲーム屋裏方稼業

第5回 ソフト発注の舞台裏・後編

 前回からずいぶん間があいてしまって、発注提案の仕事から離れて半年近く経ってしまいましたが、ひととおり発注提案の仕組みをお話しした前回の続きということで、実際の体験談などを書いてみたいと思います。

 普通のお店は、自店かその本部で発注数を決めるので自店の傾向はまず判っているのでしょうが、コンサルティング会社といっても、総合的にではなく発注提案だけの依頼でその店舗を実際に見ていないこともあったり。社長は営業的なことやっていたから取引先のお店に行くこともあるけど、私は事務所詰めで留守番だしなあ。
 まず、そのお店の形態や客層、販売傾向などを聞いて、できれば売上の日報や月報をもらったり、可能な限りデータは集めますが。それで現場と同条件とも思えないのですが、あとは商品知識の差になるんですかね…?

 基本的に、顧客はレンタルビデオやCDなどとの複合店や、中古主体で二次流通に頼る非正規店が多かったので、確かに商品情報では弱い点があったのかも。そりゃま、専門店だとまず提案依頼する必要はなさそうですし(でも専門店が失敗することがない訳じゃないんですけど)。

 また、個々のお店に合わせての提案とは別に、月間一千万クラスならこのソフトは発売2週で○本…という、売り上げ規模別の平均的な(?)販売数シミュレートも出していて、本式に提案するお店以外の顧客にFAXで流していたのですが、実は、私はこれ苦手というか疑問でして。平均的と言ったって…各店ごとの傾向を無視しての予想に意味はないだろうと思うんですよ。いくら売上金額から算定するにしたって、どのお店にも当てはまる数なんて出せる訳ないっての! その点では提案数自体も絶対ではあり得ないですが。まあ、仕事だからムリっぽくない数ということを意識して、提案数の平均値みたいな感じでシミュレートしていましたが、やってる本人、気休めとしか思っていませんでした(苦笑)。

 ちゃんと提案するお店に関しては、その手順を説明しますと──しかし、こういう業種は他にまずないだろうし、よって参考にも何もならないだろうけど……まあ話の種にでも──販売店に受注案内と解説書が届いたら、うちの会社にそれをFAXしてをもらいます。この時、販売店側には発注〆切が提示されていますから、その2、3日前、よほど余裕のない場合は最悪前日までに、こちらから全タイトル分提案数とコメントをFAXして、その後、社長が先方の担当者に詳しい解説をして最終的な発注数を決定し、お店の方で発注という段取りです。例外的には、全面的にうちが管理しているお店があって、こちらで発注代行までやることもありましたが。
 で、これが一言で受注〆切まで余裕をみた日程で回答……と言っていますが、その時のカレンダーや、単に日数やその時のタイトル数によっては大変なスケジュールになったりします。
 単に解説書や問屋の提案数だけ見て判断するんじゃ、何のための発注提案の請負だかわからないってものですから。商品内容を把握するためゲーム誌の記事やネットで個々のタイトルの情報収集をして、一言コメントを書いて、店舗ごとに合わせた提案数出して……98〜99年頃は、大体PSソフトだけで50〜80タイトル。さらに、メインとなるPSの発注と時期を合わせて、ついでに他のハードも翌々月発売のものは同時に提案出しちゃっていたので、合わせると80〜120タイトルかそれ以上。これにかけられる時間は2、3日。98年以降というのはだいぶ廉価版(通称・自主ベスト)だったのでその分は楽でしたが。
 しかも、どうせ辞めたところなんでバラしちゃいますと、渉外は社長の担当だから取引先と話をするのは社長ですが、実は社長が基本的にゲームをやらない人で、後にそれなりにやるようにはなったのですが本当にライトユーザーの人だし(だからこそ向いている部分もあるのですが)、そこへ私が発注提案を担当するようになってからは自分でゲーム誌をチェックしなくなったのでビッグタイトル以外は把握しておらず、商品説明はほとんど私の受け売りのまんまなんですよ(おいおい…)だから、何か聞かれたり、あるいは間違ったこと言った時のフォローのために、数の打ち合わせの電話の時は私も控えていないといけないし、発注の時期となるとまず0時前には帰れませんでした。
 私が辞めるときに、提案を社長が引き継ぐことにしてもどうなるか…と、相談はしましたが、まあ今は社長も真面目に情報収集をしているんだろうし、そうでなかったら精度が落ちて信用落としても、もう自分の知ったことじゃないし。まだ会社やってるみたいだからそれなりにやっているんでしょうね。

 提案の効果としては…まあ、多少の過不足が生じても、そこそこの数でそこそこ売れて、というのが大方のタイトル。しかし、数の大きい期待作に隠れた不安材料があって、蓋を開けてみると実際…という危険を察知したり、それなりに期待できそうなタイトルが想像以上の大化けで売れるのをどこまで見越していたか、また、どこで止まるかというのを見切るのが各店の発注精度の差で、当然、他のお店でもここがバイヤーの腕次第。隠れた名作を見極めるのは現在では難しい……といおうか、店側が最初から期待していないのかもしれません。今のゲーム流通業界じゃ、売れるかも知れない、でリスクを負うような余裕はないから。多少機会をロスしても、売れてから入れる安全策を取ります。…だからマイナータイトルのユーザーが苦労するんだよね…。ユーザーを切り捨てるようでも、数の少ないところから切るのがビジネスってもの。
 それに、数が大きいタイトルが問題として、そうなると読みは合っていても、実際はその判断が下せない状況もあるのですか。かえって、それほど重視されていないタイトルの方が「じゃあ2、3本増やしてみるか」「これは切ってゼロにしちゃおう」と決めやすいですから。
 思い返してみると、ちょっと前に「これは当たるかコケるかどっちかだ」と迷ったタイトルがありました。前例がなく、個性が非常に強いので、ウケれば化ける(予想外にすごい売れ方になるってことね)だろう……しかし。当たらない可能性がある以上は強くは薦められないから、はずれた場合でもある程度つぶしの利く数で妥協するしかないと。結局、発売されてみると大化けのタイトルで、市場に少なかったからしばらく品薄が続いたのですが。その後、続編や類似作も出たのですが(そりゃもう競うように(笑) これで判る人もいる?)、タイトルの性質やユーザー層的に2作目が売れるタイプじゃないだろうなーと思っていたら、まあ強気にも無視して大量に仕入れて、案の定動かなくて崩したりしているんだから。
 逆に、やばかったのを入れずに済んだというのは、大抵は移植タイトル。他の所でも書きましたが、コンシューマとアーケードのカテゴリの違いか、コンシューマゲームの流通系の人は意外とアーケードゲームに通じていなくて(パソコンも詳しくない人いますが…これは家庭用には違いないし、ヒット作が判りやすいことや売場が一緒のお店もあるのでまだいいみたい)、アーケードからの移植作での読み間違いは多い模様。業界誌でも読み甘いことがありますから。下手に前作が売れているシリーズだと、アーケードで人が離れていっているのを考慮せずに発注してコケるというのが多いパターン。某ダンスゲームの別バージョンとか…ゲーセン行ってりゃいつも台空いていてやっている人がいないって分かるのに。そう出回ると思わなかったんですけど…やっぱり知らないで有力シリーズと思って入れたのか、あちこちの店で大量に余らせているのを見てちょっとびっくり。
 では、私が失敗するタイトルというと…自分がやらないタイトルの続編。ちょうど続編が売れないと言われるようになった時期だったのですが、2、3大きいタイトルで失敗した後、発売後の評判に注意するようになってそれほど読み違えることはなくなりました。あと、気をつけてはいても自分が好むジャンルでは過大評価しすぎることがありましたね。でも、実際地元の店ではちょうどいい数だったりしたので地域差もあるのかも。九州の地域一番店よりも、売上規模で数分の一の地元の小さな複合店の方が数を売ったタイトルもありましたから。(そりゃ、地元のゲーセンでみんなやっていたから気合い入れてしまったんだけど)。

 余録ですが、前に某業界誌に広告を載せようということになって、会社にその出版社の方がみえたことがありました。その誌上でも当時、発注数ガイド的な記事を載せていまして、それはうちでも見ていました。それで、うちの会社でも発注数提案の仕事をしているという話題が出たとき、出版社の方がこちらの提案リストのサンプルを見て言うことには、「前までうちでも(発注数提案を)載せていましたが、あまりにも当たりすぎて角が立つんでやめたんですよー(笑) なんならその担当から提案数送らせましょうか。やっぱり、うちならメーカーから直に話も聞いていて分かりますし」。
 まあ、それはリップサービスにしてもなーんか態度に引っかかるものがあったんですけどね〜。ゲームをやる女性がめずらしかった時分でもあるまいし、「こんな小娘に提案なんてまともに出来るのか」というような意味でなければいいんですけど。
 私としては「少なくとも、スポンサーが発売するタイトルをあたかも注目作かのように前面に出して掲載するあんたのとこの業界誌よりは、よっぽど公正な目で発注提案しているしているつもりですがね!」と内心で言っていたのでした。

(2000/6/7)