ゲーム屋裏方稼業

第4回 ソフト発注の舞台裏・前編

 発注。つまり、どの商品をどれだけ仕入れるかを決めて注文すること。
 どういう巡り合わせか、ゲームソフトの発注アドバイザーなんてものを4年ほどやっておりました。時期は95年の秋頃から99年末までで、2000年2月発売ソフトまでは携わっているというところ。
 発注の決め方なんて、販売店の人なら責任者でなくてもバイト店員だって解っていそうなもので、別に面白い話題でもないかな〜とは思うのですが、一般の方にはそう馴染みのある話でもないでしょうし。販売店の人は、こういう店もあるのか、くらいに取って読んでみてくださいね。

 まず、前提としてSFCの時代の話を。ロムカセットの時代には、イニシャル(初回入荷)発注が非常に重要なものでした。なぜなら、ロムカセットの場合は価格の高さも問題ですが、なにより生産に時間がかかります。そのため、発注が少なすぎると、早い段階で売り切れてしまうと一ヶ月近く切れっぱなしになるので、ある程度の期間は保つように取る必要があり、そこを読み違えて多く取りすぎてしまうと供給過多であっという間に価格の暴落を招くことに。(もっとも、この頃は問屋が間に入る流通ですから、ソフトを抱えすぎて暴落するのは主に問屋の問題でしたが。)そのため、イニシャル発注に慎重を期すことから、発注提案なんてビジネスが成り立ったのではないかと思われます。
 そして、CD−ROMソフトの時代となると、プレスに時間がかからず再版が早いことが特徴ですから、発注提案のウェイトはそう重要でもなくなるか…と思われたのはごく初期の話。
 やはり、店としては少しでも商品を切らしてしまう期間(チャンスロス)は出したくないですし、再版が早いというのはその準備が出来ていての話。CDのプレス自体は2、3日でも、説明書やジャケットなどの印刷物には1週間以上の時間がかかるため、予想以上に売れて再版待ちというタイトルの場合、再入荷に必要な期間はおよそ2〜3週間。一方でリピート(再入荷の注文)を取りやすいタイトルもありますから、イニシャルで無理をしないですめばそれにこしたことはない訳で。
 それから、PS、SSの発売後一年ほどすると、在庫過多の問題を抱えるお店が多くなってきたようです。なにしろ、発売タイトル数が半端じゃありません。開発環境の良さやコストの安さから参入するサードパーティーが激増したとの話ですが、ハードの発売後一年以内は、ハードごとに月20〜30本くらいだったのが、毎月50〜80本も発売されるようになったのですから、全部が全部売れるわけがない
 それらのことから、リピート発注まで視野に入れての発注の戦略や、デッドストック(直訳して死んだ在庫。ヤな表現ですね〜)を減らすための発注の絞り込みが必要となって、発注提案のニーズが出てきたようです。

 さて、本題に入って。では、発注数の提案をする際の判断材料は。
 ぶっちゃけた話、勘です。こう言っちゃ身も蓋もないですけど。いや、まあ、メディアにもよく登場する都心某有名店の名物バイヤーさんだって、勘で決めているって言っているんですよぅ。そりゃ、長い業界経験のある流通界の大物の人と比べられるものじゃないですけど〜…。
 では、商売勘というのは実際あるにしても、まじめにデータ的な部分を。
 まず、シリーズ物なら前作が何万本売れているかという実績、新規タイトルの場合では過去の同ジャンルの実績は当然参考にしますね。しかし、ここ1、2年は特に続編ものの数が読めないという声が挙がっています。それには、前作が売れたからといって、次も欲しいという商品かどうかを考えないといけません。一本持っていれば充分とユーザーが感じるタイプかどうか。主にパズルやスポーツ物がそうです。また、前作が数の上では売れていても実際の評判はどうであったか。代表的なところで、発売後に随分悪評を聞いた某RPGの続編は案の定でした。特に、お店の人が自分でゲームをする人でない場合、「売ったらおしまい」のお店ではここに落とし穴があります。メーカーブランドも販促力の点から判断材料になります(そのため、小メーカーの良作は世に出にくくはなってしまいますが…お客さんだって見ないんだもの)。これらタイトルバリューやジャンル、商品内容、メーカーときて、現在、重要視しているのが販促計画。どんなプロモーションが予定されているかなのですが、手っ取り早く言えばTVCMが入るかどうか。しかしこれが曲者。自社枠を持っている大手メーカー以外は、どういう枠で入るかが読みづらく、またCMから購買意欲を喚起されるのは、まずゲームの情報源を持たないライトユーザー層ですが、そのCM内容次第で効果が大きく左右されるからです。よって、CM効果を期待して入れてしまうと、CMが思ったほど入らなかったり下手な作りだった場合もろにコケることに…!
 また、そのソフトの内容について、売れる要素がどこか、対象ユーザーは、時流にあっているかなど判断するのが、前述の“商売勘”でしょう。私の場合、そのソフトが好みかどうかはさておいて、自分が対象ユーザーだったとして、どこに興味を引かれるか、買いたいと思うかを考えてみるのですが。
 ここまでは商品自体の話で、それから考慮するのが発売時期や売れ方の傾向など。いくつかビッグタイトルが同時期に発売されたとして、お客さんの財布の中身には限度がありますから、真っ先に欲しいのはどれか。ビッグタイトルと発売日が重なったマイナータイトルが割を食うのはやむを得ませんが、かと言って、それなりに固定層が見込めるタイトルを絞りすぎるのは不見識。また、売れそうなソフトでも、発売日に一気に売れる初動型か、発売日過ぎてからでもコンスタントに売れる代わり、そんなに最初からいっぱい仕入れても動きが鈍いロングセラー型。前者は固定ファンの割合が多いもの、コアユーザー向けのタイトル、後者は購買層が幅広い一般向けな定番タイトルと系統づけられます。ついでに発売時期は、年末年始などの特需期は当然ですが、それ以外にもボーナスや給料日後かなども一応考慮しておきます。これで増やすというよりは、時期がはずれていると多少数を減らす方に働きますが。
 また、ゲーム誌に期待度ランキングというものが大抵載っておりますが、これはほとんど考慮しません。というのは、ゲーム誌のアンケートにわざわざ投稿するということは、よほどのコアユーザー、あるいは作品の固定ファンで一般性は薄いと見るからです。それに、上位タイトルはほとんど決まっているし。コア層のなかでの注目度という点で参考にしなくもないですが。それならもっと有効な情報源が他にあるでしょう。

 …と、このような点からソフトの売り上げの予想を立てる訳ですが、これは私の職場環境での話で、これがちゃんと正規のお店なら、まずマンスリーミーティングで試遊台デモ画面の展示があって、現物を見て判断できることと思います。営業の人と話だってできるだろうし。お店と問屋の中間的な位置のために、直接の情報が得られないのがうちの弱点──なんで情報量で劣るうちにわざわざ提案頼むかなーと正直思ったりします。ただ、いくつかのお店を見ていて情報の交換などもしますから、他店の状況を知り得ないお店よりは先んじる点もあったんですかねえ。そんなところで、情報源はSCEの発売タイトル解説書(お店からもらいます)と、ゲーム誌は主要なもの全般、インターネット、それと業界情報誌。

 ひととおり発注のしくみや予想の立て方など基本的な話をしたところで、ここまでですでに随分長くなってしまいましたので、具体的な話や個人的な体験談は次回にといたします。

(2000年4月)