シモのお世話
 あー、やられたー…。寝起きをやられるのが一番辛いや。どうしてコイツはこんなに
バカなんだ。トイレと布団の見分けがつかないなんて。いったいいくつになったら覚えてくれるんだか…。だけど布団で遊ぶのはいつもの事で、気がつくと2本の小さな前足でフミフミ、気持ちよさそうに目を閉じて、恍惚の表情で黙々と踏み続けている。毛布がお気に入りだけど、暑い日には掛け布団でもやっているようだ。
 そこまで気に入ってる場所のはずなのに、なんでトイレと間違っちゃうんだよ。とにかく、朝起きた時に足に感じる不快な湿り気に慌てて飛び起きて、布団をひっぺがす。被害状況を調べる。匂いが残らないうちに急いで水洗い。あまりに頻繁なんで、シーツは最近使ってない。いや、使えない。ベッドパッドだけならまだいいけど、たいてい敷き布団まで浸透している。そうなると洗うのも楽じゃないんだ。掛け布団だってそうだ、中綿の厚味のある布団は乾きが遅い。多少湿り気の残った布団で寝た事も1度や2度じゃない。いや、布団があるうちはまだマシだ。冬の寒い最中に、掛け布団と敷き布団を失い、キャンプ用の銀マットに毛布に包まって寝た時は、翌朝体がだるくて仕方がなかった。
 かつてはウチも、ベッドという人並みな寝具を使っていた。ところがまぁ、このおしっこ攻撃で匂いが染み付き泣く泣く手放したのだ。たかがおしっこなのにバカにならない。
 今年は元日早々にやってくれた。正月のおめでたい町中を、布団を抱えてコインランドリーに走るなんてこの一年が思いやられるようだ。ちなみに、コインランドリーで布団を洗うのはあまりお勧めできない。中綿がずれて後始末が大変になる。それから、ウチのように水洗いしてある程度きれいにしてから、乾燥を目的に行くのでなければ、エチケットに反する行為なのだ。
 まずはトイレで用を足すように躾けるのが一番。いやいや、ウチのみみぞうくんはそうやって躾けたはずだったんだ。どこでどう間違ったのかいまだによく分らないけど、子ネコの時分にはきちんとトイレでおしっこをしてたんだ。

 みみぞうくんは隣のマンションの出入り口でうずくまっていたのを保護したのだ。まだ生後2ヶ月くらいだったろう、片手に乗るくらい小さな子ネコだった。クリーム色より少しあせた白っぽい長毛で、やたらに耳が大きいのが目についた。先住ネコに比べて面長で、利発な感じのする容姿で、髭が長く立派だった。知的な子ネコだったのだ。だからトイレもすぐに覚えた。きちんとトイレで用を足し、ちゃんと砂をかける素振りをみせた。ただ、悲しいかな彼の手は砂をかかず、トイレの縁を撫でるような動きになってしまっている。だから汚物は砂に隠される事もなく、大も小もデデンと紙砂の上に広がっている。いや、小はしみ込むからまだマシか。ウンコはホカホカと湯気を立てているかのように、そして強烈な匂いが部屋中に広がるのだ。ああ…。それから間もなくの事、みみぞうくんの頭には、トイレはふかふかの柔らかい場所であると大きな誤解が生じた。
 まず最初にターゲットとなったのは、取り込んだ洗いたてのタオル。たたもうと置いておいたその上でジョーっとやっちゃった。怒る暇もなかった。こういう時は、やってる最中に叱って、今行なっている行為との因果関係を教え込まなくちゃならないのだが、その後もなかなかその機会がなかった。なにしろ気付いた時にはタオルがクシャクシャになって濡れているのだ。
 だが、ある日ついに現場を押さえる事に成功した。タオルの上でしゃがみ込んだ事に気付いて慌てて抱き上げ、トイレに投げ込む。すでにおしっこは出始めていたので、被害は広範囲に及んだが、その後は洗濯物にやる事は少なくなっていった。変って被害が増えたのがお布団という訳だ。
 
はっ!、気付いたらトイレの横の床の上に黒く細長いものが転がってるじゃないか。みみぞうくんは一所懸命砂をかける素振りだ。もちろん床に砂なんかなく、彼のぶっとい手は空しく空を切っている。そしてオイラの視線に気付いたのか脱兎のごとく駆け出した。おしっこに飽き足らず、うんこまでも…。途方に暮れていたが、よく見るとトイレがだいぶ汚れていた。
「怒ってごめんなみみぞうくん…」
ご機嫌をとろうと近づくと、テーブルの上でお腹を出して転がって、弱々しい声を出して、まばたきもしないで大きな瞳でオイラをじーっと見つめている。う…。
「許す!」
もうメロメロだ。

 

 中毒症状
 
ガサガサガサガサガサ…。オイラの食事風景は常にこんな効果音がバックに流れてる。キッチンのメタルラックの下に頭を突っ込んで、束ねておいたビニール袋を引っぱり出して噛んでいるのはみみぞうくんだ。そもそもみみぞうくんに限らず、大半のネコはあのビニールのカサカサする音が大好き。買物から帰ると、中身が肉だろうが魚だろうがサンマだろうが中トロだろうが中身そっちのけでビニール袋に飛び込んでいく。何をする訳でもないけど、とりあえず袋に入ったら満足して、そのままうずくまっているのだ。
 ところが本心ではオイラに遊んでほしいらしく、手を通す穴からじーっとこっちを見てるのだ。
「んー…。むずむずむず…。がまんできん!」
ガサゴソガサゴソ、結局みみぞうくんで遊んでしまう意志薄弱なオイラ。
 だけど、食事中のガサガサは別のおねだりだ。オイラのおかずを分けて欲しい意思表示だ。大好きなサカナがあれば堂々とテーブルに飛び乗って、誰の皿でも構わず匂いをくんくん、いつもはみみぞうくん専用の小皿まで用意してある。ただ、オイラの食事が必ずしも健康的なものとは限らないから、同じサカナでも味付けが濃くておあずけだってあるし、そもそもみみぞうくんの嗜好に合わせてメニューを決めてる訳でもないから、彼の側からテーブルを下りていくこともある。そんな時に
ガサガサガサガサ…。「何かください」のサインだ。
 うるさくて仕方がないし、ビニール袋を齧ってて体にいい訳ゃない。ウミガメやイルカはこれで命を落とす事だってあるらしい。かといってみみぞうくんに食べられるメニューはない。そこで、彼の大好きなアレを与える事になっちゃうのだ。
 彼の大好きな
ヤク、毛玉とりのクスリをチューブから少量指先にとって舐めさせると、さも嬉しそうにオイラの指をペロペロと舐め続けてくれる。そのうち満足したらしく部屋中を駆けずり回るのだ。あー…。
 しかし、良薬口に苦しなんて言葉はどこにいったんだ。あのクスリ、見た目にもプリンにかけるカラメルソースっぽくてたしかに美味しそうだ。だけど、獣医さんに聞いたら実はサーモン味とツナ味らしい。ちょっと試しに舐めてみようなんて思い起こさなくてよかったぁ、ホント。ま、ネコにとっては
いちご味の歯磨き粉みたいなもんだろうね。
 たしかに毛玉をお腹に溜めるトラブルを考えたら、実にありがたい味付けだ。みみぞうくんのように長毛で毛にコシがないネコはしょっちゅうお腹に毛を溜め込んでたいへんだ。口から吐いてくれる分にはまだ救いはある。我慢して掃除すればいいだけだから。ところがそうやって出せないと、毛玉が大きくなって腸内を傷つける事だってある。以前ウンコに血が混じっていて慌てた事があるし、ウンコが切れずに、お尻から突き出したまま諦めて部屋中を走り回っていた事もある。とにかく毛玉は厄介ものなのだよ。だからこのクスリは非常にありがたい。みみぞうくんの健康を保ち、オイラの食事もネコババされず、ビニールを齧る事もない。至れり尽くせりのクスリだ。
 そうは言ってもやっぱりあげ過ぎはよくないだろう。ほどほどに舐めてくれればいいのだけど、メニューによっては毎日のようになりかねない。みみぞうくんは
おばかだの頭が悪いだの言われてるけど、一応学習能力はあるらしく、ビニールを齧ってカサカサ音を立てればクスリがもらえるのだと理解しているから大変だ。もうホントにヤク中だ。だからもっと頻繁にサカナを食べよう。
 塩気のない部分をほんの一かけ小皿にのせてやる。みみぞうくんはベンチからテーブルに身を乗り出して、不審そうにクンクン匂いをかいで、軽くぺろりと長い舌をのばすと、プィっと床に下りていった。おいっ、それで終わりかよ!。

 

 潔癖症
 
わしわしわしわし…。爪研ぎの音がする。部屋には結構乱雑に、段ボール製の爪研ぎがいたる所に転がっているけど、もねもねちゃんの爪研ぎの場所は律儀に決まっている。集成材の木組みのテーブルとベンチは補強の為に梁状の板が足を貫いて渡してある。その突き出した部分がお気に入りらしい。背伸びしなけりゃ届かないようなテーブルの突き出しも、中途半端に腰を折るようなベンチの突き出しも、同じように激しく爪を立てるのだ。なんであんな物がいいんだろうなぁ。ま、おかげで他の家具や壁や柱で爪研ぎしないから、ありがたいといえばありがたいんだけどね。ガンコもので段ボールの爪研ぎにのせても、そこを爪を研ぐ場所だと認識していないようだ。
わしはここでやるけん!
テーブルとベンチの突き出した部分に固執してくれるおかげで、表面は削れて白い木肌がむき出してささくれ立っている。割と目立たないところなのが救いだけど、もねもねちゃんがオイラの顔を立ててくれてるような気がしてならないんだ。
わし、ここでがまんするけん、めいわくはかけんけん!
そう言ってるような気がする。
 律儀といえば、トイレもそう。最近はあまり粗相した事もないが、実はウチに来て間もない頃からもちゃんとトイレに入って用を足していた。一応トイレには入るのだ。入ってはいるのだけど、足が収まったところで安心している。
ちゃんとトイレでやるけん!
とオイラに義理立てしているようだ。ただ悲しいかなお尻がトイレに収まってなくて、周辺をおしっこの洪水にしてしまうのが常だった。どうしてあそこで安心しちゃうんだろう。
 それから後始末も義理堅い。匂いを広げないよう必死に砂をかいている。あまりにパワフルで、トイレの外へ飛び出す砂の量も多い。また、みみぞうくんなみにトイレの縁を磨く事も多い。
ごしごしごし…。うんこはそっちのけでピカピカにしてくれるんでありがたいようなありがたくないような気分。
 とにかくもねもねちゃんはストイックに、そして義理堅くネコとしての義務を果たしてくれる。それがいくら空回りしようと、彼はいつだって真剣で、鼻より高く突き出した額にしわをよせて、徹底的にやってくれる。妥協はいっさいない。
 眠る時だってそうだ。場所は特に決めてないけど、おおよそオイラの目の届く場所にいる。床の上で寝転がり、クッションや枕を要求しない。だからいつも、自分の腕で腕枕している。とりあえず枕がないと眠れないようだけど、ちゃんと自分で用意してるのだ。
すごいぞもねもねちゃん。えらいぞもねもねちゃん。

 

 Wild life at my room
 動物たちの生きる世界は弱肉強食の世界だ。オイラたち人間もしかり、弱い動物たちの肉を食らい生きている。そればかりか、社会生活においても人より優位に立つ為に、他人を蹴落とし、貶めながら生きる残酷な生き物だと思い知らされる事ばっかりだよ。
 さて、ウチの2人の野生動物はどうだろう。
 みみぞうくんは隣のマンションの入り口にうずくまってたのを保護してきたネコで、その頃の推定年令は約2ヶ月。それからはずっと家の中だ。まったくもって
悲しいほどに、箱入りだ。また、育て方もとびきり過保護だったし、野生味はまったくない。人見知りはひどいけど、慣れた人間にはすぐにお腹を見せて服従のポーズ。いや、イヌじゃないんだけど、なんとなくイヌっぽい。あんまり歯を剥いて怒るなんて事もないし、なにをされても文句一つ言わない。だからオイラもついつい両手を抱えて羽交い締めして遊んでしまうのだよ。我ながらひどいと思うんだけど、それでもみみぞうくんは大きな瞳でこっちを見上げて
「なんで?」
と問い掛けるだけ。
 大嫌いな耳掃除や、爪切りだって、最初はジーっと我慢している。そして突然思い出したようにイヤイヤするのだ。こんな調子じゃきっと外の世界じゃ生きていけないだろうというのが大方の意見で、オイラも異論はない。
 それに比べると、もねもねちゃんは比較的成長してから世間を渡ってきた。チンチラペルシャなのにノラというのも妙だけど、フラフラと家に辿り着いた謎のネコだ。もちろん素性は分らない。サマーカットしてあったし、たぶん誰かに育てられたのは間違いない。基本的に愛想がいい。人と見れば大きなオデコをぶつけてじゃれてくる。ただし、だっこは嫌いで、抱き上げようものなら
全身を捩って拒否するのだ。この辺がみみぞうくんとの大きな違い。
 この荒々しさなら外でも生きていけそうだけど、決定的な問題がある。それは、もねもねちゃんが基本的に運動神経がなく、身体能力が低い事。みみぞうくんが軽々登るテーブルにも、ベンチを経由しないと登れずに、それも飛び上がるというよりよじ登るといった具合。とにかく口をヘの字にむすんで、必死でベンチにしがみつく。本当にネコなのかと疑ってしまうのもしかたない。たぶんタヌキかアライグマかレッサーパンダに違いない。仮にネコでも、いったいどうやって世知辛い世の中を渡ってきたのだろうか。想像だけど、持ち前の愛想のよさに加えて、人の足をくぐる芸を持っている。きっと路上パフォーマンスでコガネを稼いでいたに違いない。
 しかし、こんな野生とは縁のないような2人でも、時として
男のプライドをかけて闘う時もある。お互い眉間にしわをよせて睨み合い、ゆっくりと片手を上げて殴るような素振りで威嚇する。
「なぐるよ」
なぐってみんさい
「ほんとになぐるよ」
なぐってこんのならこっちからなぐるけん
「…」
こんな葛藤があって、お互いに腰の引けたまま目をつぶってそーっと手を伸ばす。殴るというより触って慌てて手を引っ込めるような、なんともほのぼのしたケンカだよ。見てても力が抜けてしまいそうだ。寝技までもつれ込む事は稀で、ほとんどこれで飽きてしまうらしい。何事もなかったように毛づくろいでも始める。
 家で人間とぬくぬく暮らしてるネコなんてこんなものなのか。いや、いまや伝説となったあのネコ、ボーン トゥ ビー ワイルドなあのネコの事をいずれ語ろう。

 

 破壊魔
 
ぐわっしゃーん!、ああ、やっちゃった。共稼ぎのオイラ、ワイフを手伝って炊事ぐらいやろうと思うんだけど、たまに手伝うとついつい茶わんや皿を割っちゃうんだ。その数があんまり多いんで、最近は諦めて欠けた茶わんでも食事をする事が気にならなくなってきた。
 だいたい食べるものがよくない。あのヌルヌルした手触り、シャボンをつけるとさらに滑りやすくなっちゃうんだよ、
なっとう食べた後って。臭いし…。
 茶わんだけじゃない、このところコンピューターの故障がおおい。まずはオイラのパワーブックが壊れた。これはジャンク品のCD−ROMドライブをうかつに繋いだ事に起因する。もっとも繋ぎ方に問題があったので、修理の後は普通に使えるんだけど、修理に
数万円の諭吉様が飛んでいったのが悲しい。ちなみに800円で買ってきたドライブなのだよ。
 そうかと思うと、九州の実家にインターネット用にあげた古い型のMacが起動しないんで、送ってもらったらハードディスクが昇天してた。古かったし、乱暴なシャットダウンもやってたようだから、仕方ないといえば仕方ないんだけどね。幸い部品取り用に置いといたさらに古いマックから移植して、何とか直したよ。容量が減ったのはしょうがないけどね。
 そうこうしてるうちに、自宅用のG3Mac(これも新しくはない)がフリーズ。キーボードが動かなくなって、電源を切る事さえできなくなった。原因は初代Macから使い続けてきたマウスだったようで、これも部品取りから移植してみたら普通に動くようになった。単純に寿命。でも、取り替えたマウスの動きがシブいんで、ボールを取り出してみたら、内部のローラーにネコの毛がたっぷり絡まっていた。それで思い出した、あんまり動きがシブいんで、新しいのに取り替えたんだった。ネコとコンピューターの共存はホントにむずかしい。
 他にも、ユニットバスの給湯システムのリモコンや、洗濯機も動かなくなって難儀した。風呂にも入れず、洗濯物が溜っていく大変な日常を過ごした事ある?。ちなみに風呂の方はフィルターの目詰まりが原因だそうで、ネコの毛がたっぷりこびりついていたに違いない。洗濯機はというと、コンセントの接触不良で簡単に直してもらえたけど、その蓋はみみぞうくんが頻繁に飛び乗ってくれるおかげであちこちひび割れていて、修理屋さんに見せるのがちょっと恥ずかしかった。
 みみぞうくんに関して言えば、爪研ぎこそ叱れば分るらしく、今のところ重大な被害をもたらしていないけど、その行動範囲の特異さは、いずれ重大事故をひき起こすのではと不安を感じさせずにいられないのだよ。例えば食器棚。例えばパソコンのモニターの上。パソコンの上に置いておいた電話器は現実に床にたたき落されてしまった。約4キロのみみぞうくんの体重で、17インチのモニターはテーブルの上でぐらぐら揺れているし、そこからさらに高い棚に登るのに力強いキックをぶつけてくる。さらにはその間にプリンターが収まっているんで、これも被害を受けかねない。ちなみに彼のお気に入りのフラットベッドスキャナは今のところまだ無事だ。果たしてネコとITは共存できるのだろうか?。
 ところで、オイラの家には20年も前から現役で使っている黄色いうさぎの目覚し時計があるが、こいつの長針と短針は微妙に位置がずれてて、プラスチックのカバーに大きな穴が開いている。実は以前に預かったネコがみみぞうくんと遊んでて、床に落っことしたんだ。ネコと暮らすと覚悟を決めた瞬間から、家財道具は諦めなきゃいけないって事だよ。

 

 リフレクソロジー志願
 先日、生まれて初めてプロのマッサージを受けた。あんなものにお金を払うなんて
オヤジのやることさ、なんて思っていたけれど、慢性的な腰痛持ちだし、肩こりはあるし、毎晩足がだるくて仕方がなかったのを、多少やせがまんしていたのも事実。はっきり言って興味がなかった訳じゃない。で、近くの温泉に行ったついでで受けてみたって訳なのだよ。
 いや、早めにやっとけばよかった、あんなに楽になるなんて思いもしなかったよ。オイラのウィークポイントでもある腰を重点的にやってもらったけど、シャンと背骨が伸びた気がした。やってみるもんである。欲を言えば、若い女の子にやってもらえるともっとよかったとも思うけど(こういう発想がオヤジ)
カンフー使いのようなお兄さんの指圧はかなり効いたよ。あんまりよく効くんで、手加減なしにやってもらった。
 やっぱり値段は安くないね。10分1000円という事は、時給になおすと6000円な訳だ。それ相応の仕事をしている訳だけど、そうそう頻繁に通える訳じゃない。これまではと言うと、足の裏をワイフに踏んでもらったり、ツボ押しの棒で刺激したり、肩にあてがうでっかいバイブレーターを使っていた。あれはあれで気持ちいいんだけどね、あんまり効果が持続しないような、効果が表面的な部分で終わって、本質的に解決できないようなカンジがどことなくあった。唯一、足の裏を踏まれる事だけは、脳天にまで刺激が伝わって
イタキモな、いいカンジがした。そう、多少痛い方が効いているような、そんな錯覚がしていたのだよ。
 ところが、先日見たテレビ番組じゃそれが逆効果だと言っていて驚いた。まあ要するにツボを刺激する事は患部を直接治す訳じゃなくて、脳に情報を伝えて自己の治癒力を高めるというような事だったのだよ。つまり、強い刺激は必要無いんだってさ。それならネコに押してもらったっていいわけだよ。
 実はみみぞうくん、毛布を見ると踏まずにいられないらしい。布団を敷くとササッと駆け寄って、毛布に手をかけてフミフミ踏み始める。すごく気分がいいのか、目を細めて恍惚の表情だよ。ヘンタイだ。この行動は授乳期の、おかあさんのおっぱいを揉みしだいて母乳を大量に送りだす為だと聞いた事がある。つまりみみぞうくんはいまだに乳ばなれができない
マザコンだってことだね。
 とはいえ、せっかくのこの行動を利用しない手はない。彼はよろこんで踏んでくれてるんだ。ほっとけば何の役にもたたないムダなエネルギーだ、有効利用しようじゃないか。なに、簡単な事、みみぞうくんの踏んでいる毛布の下に足を潜り込ませればいいだけさ。
 ところが、柔らかい毛布の感触が変った瞬間、彼は興味を失せたのか走り去った。なぜ、なんで?。それならと、あらかじめ伸ばした足に毛布をかけて誘ってみた。みみぞうくんは少し離れた場所から瞬きもせずに見つめているが、いっこうに近寄る気配をみせない。いいかげんにジレて、背中を掴んで毛布の上にのせると、嫌がるように走り去ってしまった。いったい何が気に入らないの?。
 みみぞうくんにとって、毛布を踏む行為はオイラが考えるよりはるかに高尚でメンタルな仕事なのかもしれないな。陶芸家が、焼き上がった作品を叩き付けて割るように、完全でない状態では踏む事がためらわれるのだろうか。オール オア ナッシングなのだ。毛布の状態が彼の望み通りでなければ、この高尚な芸術的衝動を起す事はできないのだな。彼は100パーセント完璧なフミフミこそが望みで、そこに人間のきたない足など投げ出されては迷惑なのだ。踏むのは毛布であって、それ以外のものは彼の芸術への探究には邪魔なものでしかないという事だ。ふう…。
 と、諦めたとたん、寝ているワイフの足の上の毛布を踏み始めた。オイラとワイフの何がちがうのだぁ!。

 さて、プロのマッサージを受けたあとで、腰や肩に強い痛みを感じた。ワイフによるとマッサージが強すぎると揉み返しなるものがあるそうで、なんでもほどほどにしといた方がいいよって事だ。しまったー…。

 ノラに名前をつけて遊ぼう!
 えー、ウチのネコの名前ってそんなにエキセントリック?。ふつうだよ、だって、はなみず樣にみみぞうくんにもねもねちゃんだよ。ネコらしいかわいい名前じゃないの。それにタマとかミケとかふつうすぎておもしろくないじゃない。それにカトリーヌとかエリザベスって柄でもないしね。一応本人の個性を尊重してつけた名前だよ、主に身体的特徴ね。ちなみにもねもねちゃんの名前は印象派の画家からとってるんだよ(注1)。姓名判断とかやってないけど、ちゃんと考えてつけた名前だよ。いや、インスピレーションでつけたかな?。なにしろ昔の事で忘れてしまったわい!。
 だけどネコってけっこう見た目の印象で勝手に名前つけちゃうよね。特にノラなんかみんな好き勝手に呼んでるはずだよ。シロとかクロとか。それじゃぁ特徴があいまいすぎちゃうから、オイラはもちょっとひねってつけてる。例えば、近くの駅名とか、お店の名前とか。以前昭島駅の北口にノラの一家が住んでたけど、片耳だけ垂れてたおかあさんはストレートに「あきしまちゃん」(注2)と呼んでた。3人のコドモはそれぞれ「えすぱちゃん」(注3)「もりたんちゃん」(注4)「べぇーるちゃん」(注5)と名付けていた。でもって、南口にも子ネコの兄弟がいたのだけど、「たい」と「しょう」と「けん」(注6)と名付けた。行列のできるかわいさなのだ。実は「みみぞう」というのも動物病院の近くにあった「マ.メゾン」(注7)というレストランからつけたというのが真相なのだ。
 身体的特徴というと、やっぱりガラでつけちゃうよね。まだこういう遊びに不馴れだった頃、頭の真ん中で分けた髪の毛のようなガラを持ってた白ネコを「かっぱちゃん」と呼んでいた。それはそれで間違いじゃないんだけれど、今なら間違いなく「ズラ」。昭島時代の事を言えば、イタズラか何かで両耳を失ったネコがいたが、もちろん「ほーいち」(注8)。ちなみに三毛のオンナの子。ところで耳なし芳一って耳にお経を書かなかったばかりに耳をもってかれちゃったんでしょ。て、ことは幽霊からは耳しか見えなかった訳で、耳だけ芳一という間抜けな姿になっていたのだろうか?。
 これは保護したネコだけど、アゴの下だけが白い黒ネコで、「くま」と名前をつけたことがある。里親さんはそれをかわいいと言って、そのまま定着させちゃったけど、オイラはけっこう落語に出てくる大工のようなイメージだったんだけどなぁ。ついでに、「くま」の兄弟は鼻の下にチョビヒゲがあって、神経質な性格もあって「ダリ」(注9)と呼んでいた。たぶんこれがオイラのナンバーワンヒットだと思う。その後画家シリーズでいこうと思って「もねもね」なんて続いたのだけど、その後はパッタリ。理由は簡単、オイラの好きな画家って短命だったり不幸だったりそんなのばっかりだ(注10)。あんまり幸福だと、げいじつへの探究がおろそかになっちゃうのかね?。
 だいたいネコの名前なんて、あんまり凝ったのをつけちゃうのはダメだよ。ネコの方で理解できなくなるもの。ネコはちゃんと自分の名前を分かってるんだよ。呼べばやってくるしね。ものの本によれば、母音で聞き分けてるそうなんだって。だから、複数のネコと仲良くなろうと思ったら、頭文字の母音を変えてあげるのが理想だね。ウチのネコで例にすると。はなみず様はHanaのaaに反応してるのだよ。みみぞうくんのii、もねもねちゃんのoeoeという具合にね。

(注1)睡蓮で知られる印象派の画家、クロード モネは当時流行した日本文化に傾倒して、自宅に日本庭園を造ったのはあまりにも有名な話。もねもねちゃんがペルシャのくせに妙に和風が似合うのもこれが原因だろうか?。
(注2)東京の西に位置する昭島市は畑が多く、奥多摩の山を望む風光明媚さからオイラは東京のプロヴァンスと呼んでました。
(注3)駅前のショッピングモールに入っているイトーヨーカドー系列のスーパー。線路を挟んだ南口にはイトーヨーカドーもある。
(注4)正しくはモリタウン。エスパを擁するショッピングモールの総称と思う。なんとなく語呂のよさで「ウ」を抜いてます。
(注5)モリタウンの別館で、レストランや旅行代理店などが入っている。たしかエステもあったかな?。
(注6)行列でおなじみの大勝軒は南口にあります。九州人のオイラはトンコツが好きなのであまり行きません。
(注7)大庄グループのしぶーいレストランチェーンですが、昭島店は西湖店と並ぶかっこいい造りです。
(注8)怪談「耳なし芳一」は幽霊に姿を見られないために全身にお経を書いた訳で、あんなとこやあんなとこも書いたという事ですが、そこまでやっといて耳忘れんなよ!。
(注9)独特のタッチでシュールな世界を描く近代絵画の巨匠、サルバドーレ ダリといえば、鋭い目と、チューブをつっこんだ鼻と、クルンとカールしたカイゼルヒゲが特徴で、チョビヒゲではありません。
(注10)やっぱりモディリアーニの絵が好き。割と強い線でグイグイ描いてるのに、モチーフをすごく繊細にとらえてるんですよねぇ。

 ダザイとみみぞうの類似点
 
なんか口がくさい。へんなもの食べさせた訳じゃないけど、時々サカナなんかあげてるからそれかなぁ。もねもねちゃんは特別くさいにおいはしないし、しいていえばカリカリのにおいぐらいか。やっぱりみみぞうくんは歯を病んでるのかなぁ。むりやり口をこじ開けようとすると珍しく嫌がったし、そもそも口の周りを触られるのが嫌なようにも思える。で、強引におし開いてみると、歯の付根に白い歯石がこびり着いていたし、歯茎が赤く腫れてるようだし、奥歯に1本虫歯を見つけた。
 休みに病院に連れてったのは言うまでもない。実は1年ほど前に亡くしたネコは、上下の牙を失ってから急速に弱っていったから、長生きの秘けつは歯を健康に保つ事だと考えているのだよ。と言っても、みみぞうくんは1歳くらいの頃歯石を取りに行って、そこで2本ほど歯が抜けちゃうようなネコだった。虫歯になりやすいとか、歯が弱いとか遺伝的なものもあるとは思うんだけど、その頃のムチャクチャなオイラとネコとの食生活を思うと後悔と反省ばかりだよ。肉やサカナをあげるにしてもオイラの食べかけのものだったり、欲しがるからってアイスクリームをなめさせたりもした。塩分には気をつけていたけど、糖分には頓着しなかったかもしれない。もちろんその後は歯をきれいにしようとガーゼで拭いたりもしたけど、ブラシよりアバウトになっちゃうのは仕方がない。そこで、歯を失って以降は甘いものを食べさせないようにしたけど、一度覚えた味覚はなかなか忘れられないらしく、結果として部屋でアイスを食べる事ができなくなったのだ。何が悲しいって、それが一番悲しい。
 病院でむりやり口を開くと、奥歯の1本に小さな穴が開いてた。間違いなく虫歯。治療方法は抜く事。人間のように歯根を残して欠けた部分を埋めるような治療はまず無理だし、そのつど全身痲酔なんてゾッとするよ。いずれ歯石取りを兼ねてまとめてやろうという事にした。オイラはかつて歯を失った経緯を考えて、大量に抜けてしまいはしないかと心配していた。全身痲酔で意識のないみみぞうくんの口をこじ開けて、ちょっとサディスティックな先の尖った機具を使ってゴリゴリ歯石を取るようなイメージがあったんで、力任せの作業でうっかりなんて事を恐れていたのだよ。よく聞いたら、超音波を使ってやるそうで、よっぽどひどい状態でなけりゃ抜けたりはしないそうだ。え、それじゃぁ前の歯石取りの時にはよっぽどひどい状態だったって事なのか?。
 しかし、小さい頃から歯にコンプレックスを抱えてるなんて、フビンだと思わずにいられない。いやいや、オイラがそうさせてしまったのか。ゴメンよ、みみぞうくん。だけど、多少歯が悪くても優れたげいじつを残した作家だっているぞ。そう、太宰治がそう。彼は自分の歯が悪い事を小説の中で何度も書いてる。もちろん、彼をモデルとした登場人物として書いてるけど、戦中戦後の彼らしき人物は歯が欠けて情けない姿だったりする。戦時中の食料事情が悪い頃の話に、義妹が握ってくれたおにぎりにウメボシが入っていて腹を立てるくだりがあったと思うが、種を噛んで痛い思いをしたのがよっぽど堪えたんだろうね。太宰はいろいろ読んだけど、何の作品だったかは忘れてしまったよ。
 みみぞうくんはともかく、歯の痛みっていうのはホントにシャレにならないよね。太宰の幾度かの入水のうち、特に後年のものはこの歯のコンプレックスも影響してるんじゃないかって思う事もある。だって死ぬほど痛いって事もあるじゃないの。いや、そんな状態で晩年の名作が描ける訳がないと言うかも知れないけど、痛みによって頭が冴えた事はないかな。処女作「晩年」を書いた頃にはすでに酒におぼれていて、その後は薬物に走り、その間にも幾多の作品を送りだしてる太宰だから、頭が真っ白になるようなハイな状態で想像力をかき立てていたとは考えにくいかな。正しくは、破滅的な絶望感が書かせたという気もするけどね。
 みみぞうくんは、見た目には痛そうには見えないね。まぁ、生まれ故郷に近い玉川上水(注1)に飛び込んだりはしないだろうけど、できれば早いとこ治してあげたい。ああ、それからヤク中もね!。毛玉クスリより歯磨きでもやってほしいよ。

(注1)ホントは三鷹辺りだったと思う。みみぞうくんはそれよりはるかに上流部の昭島市の生まれだろうと思うんだけど。

 ちきうせいふく!
 もねもねちゃんの素性が分らないおかげで、いろんな想像ばかりが膨らんでるんだけど、まぁどれをとってもバカなのばっかりだよ。そもそもペルシャのくせにノラだってんのがまずおかしい。ペルシャっていうネコは、ヨーロッパ調の家具にシャンデリアを下げたような居間の、皮張りのソファーに優雅に横たわってるはずのネコだもの。食事だってシャンパングラスにちょこっと盛ったネコ缶を、オチョボ口で食べなきゃいけない。これが正しいペルシャネコの姿だと思う。ペルシャネコはそうでなきゃいけないのだ!。ところが、もねもねちゃんときたらどこか庶民的で、いつも慌ただしくしてるし、食事もガツガツとがっついている。ソファーより藍染めの座布団が似合うし、リボンより唐草模様のふろしきが似合う和風なペルシャなのだよ。
 これでも家に来た頃は、まだ小さくて、サマーカットもされてたおかげでとてもペルシャとは思えなかったのだよ。ただ足はぶっとかったし、顔も子ネコというにはおっさんくさいくどさがあった。ハッキリ言って、あの頃はこいつがペルシャネコだと言い切る自信がなかったのだよ。あんまりネコというカンジもなかったしね。白くて耳が小さくて、体もちいさくて、目が大きいから、一般的に宇宙人のスタンダードだと考えられてるグレイかも知れないと思ってた。人なつっこいけど、あたまからぶつかってくるあのじゃれ方、寝る時には全身がねじれてとぐろを巻くんで、気がつくとあらぬところに身体のパーツがあってびっくりする事もある。だって頭の上に後ろ足の肉球があるんだよ!。夜になると誰もいない部屋で虚空に向かって何か喋ってるし(注1)、きっと宇宙人に違いないのだ。
 しかし、ウチのペルシャネコが特別じゃないのかも知れない、最近そう思い始めた。映画に見られるペルシャネコの扱いがそうだもの。有名なところじゃ冷戦時代の007シリーズ、宿敵スペクターの総裁はいつも膝にペルシャをのっけていた(注2)。オースティンパワーズでも、ビグルスワースくんはスフィンクス(注3)になる前はペルシャだったよ。パワーパフガールズ(注4)だって、悪いネコと呼ばれる白いネコは明らかにペルシャっぽい。白いペルシャネコってなぜか悪と結びつくんだよなぁ。あの太々しいオヤジ顔と、訳の分らない行動が、何かそう感じさせるものがあるのかもしれないな。だって優雅さだけならネコに限らず他にいくらでも優雅な動物っているし、ペルシャのひしゃげた顔なんてまじまじと見つめてるとウププって笑っちゃうんだもん。なんかいつもシカメっ面してるしね。だからイアン フレミングはきっとあのヘンな顔を見て
「あ、悪人っぽい」
と、連想したに違いない。原作は読んだ事ないけど、きっとそうだ。
 しかし思うに、ああやってペルシャをかわいがってる悪人って、やっぱり動物好きなのかね。少なくともうちのペルシャよりなついてるように見える。もねもねちゃんなんか膝にのせようもんならジッとしてないもの。
おろさんか、ちきうじん!
なんて騒ぎながら飛び下りて走り去っていくのがオチ。人なつっこいくせにスキンシップが嫌いな、理解不能な性格だものなぁ。やっぱり子ネコの時分からかわいがってあげないとダメなのかなぁ。とすると、スペクターの総裁も、チビッ子の時からうりうり(注5)なんてやって遊んであげてたんだろうな。いい人じゃないか!。きっとプライベートじゃトイレ掃除したり、ブラッシングしてあげたり、時にはシャンプーだってしてあげてるかも知れないぞ。職場にまで連れてくるほどの溺愛ぶりには頭が下がるよ。でっかい皮張りの椅子も、スーツも白い毛にまみれてるんだろうなぁ。顔のまわりも汚れてないところをみると、食事だって手で食べさせてるのかもね(注6)。総裁もラクじゃないね。
 そういえばキャッツ アンド ドッグスなんて映画があったっけ、あれなんてモロだったよね。サッチー似のペルシャネコがネコのボスだったし、やっぱり貫禄があるのかね。もねもねちゃんを見てる限りはあんまり落ち着きがないんで、いま一つ貫禄には欠けるんだけどね。ボスというよりコメディアンっぽいよね。天性の芸人ってカンジだ。それもドツキ漫才のボケ役ってところ。時々みみぞうくんにつっこまれてる。ええかげんにせいっ!。それも迫力がない…。

(注1)オイラの家ではチャネリングと呼ばれています。耳の内側に小さなアンテナが立ってて、そこからアヤしい電波を受信しているようです。
(注2)悪人がペルシャネコを抱いてるってイメージは、たぶんこの映画がハシリなんだろうなぁ。
(注3)人工冬眠から覚めると毛が抜けるって発想はどこからきたんだろう。ロバートAハインラインの小説にはなかったよね。
(注4)これが見たいばっかりに、オイラはカートゥーンネットワークを契約してます。3人の中ではバターカップが好き。
(注5)子ネコの正しい遊び方。ひっくり返して嫌がろうが抵抗しようがのどをうりうりしてやる。しかし、ほどほどにしないと虐待とネコに訴えられるので注意。
(注6)以前テレビで見たブリーダーさんは、ショータイプのペルシャに食事毎に手から食べさせてた。口のまわりが汚れちゃうからなんだって。

 ごはんだー!
 うわうわうわ、ぴるぴるぴる…、わらわらわらわら足元にすり寄ってくる。まったく朝っぱらからうるさくてしかたないや。もちろんメシの催促。眠い目を擦りながら、水を入れ替えてドライフードを皿に継ぎ足す。ガラガラガラ…。
「ちがうよちがうよ!」
ちがうけんちがうけん!、これじゃないけん!
うるせぇ、オイラだってハラへってんの!。
「おいしいの、おいしいの!」
そうだー、昨日の朝あんまり騒ぐんでレトルトのフードあげちゃったんだ。もうアイツらの頭の中は、朝にはおいしいものたべられるという情報がインプットされちゃったんだ。そんなにあまくないんだよ。
「ほしいよ、ほしいよ!」
くれんかくれんか!
ダメなもんはダメ!。なんて怒鳴ると、しゅんとなる。もねもねちゃんはそのへん諦めがいい。タッタッタと走り去って、となりの部屋で横になってこっちを見上げるながら
けち!
ってな顔でジーっとこっちを見てるんだ。まったくやりづらいや。でも、みみぞうくんは諦めきれずにまだ壁につかまり立ちして小さな声を上げてるんだもんなぁ。大きい黒目がちな目で見つめるんだ。「どうして?」って悲しそうな顔で。あの目で見つめられるたびに、ついつい負けそうになっちゃうんだよ。ダメだダメだ、レトルトのフードなんてカロリーは高いし歯石もつきやすいしいい事なしだ。毎朝あげてたらキミらの食事代でエンゲル係数一気に上がっちゃうだろ。それにキミら食べなれないもの食べるとすぐおなかこわすだろ。あー、なんだかオイラんチってビンボーくさいな!。とにかくダメなものはダメなの!。
 みみぞうくんは渋々ドライフードを食べてくれたよ。ちょっとかわいそうだな。そもそもこんなものを買い置きしとくのがよくない。なんで買っちゃったんだろう。で、思い出した。毎年応募してるキャットフードメーカーのカレンダーの時期だ。応募に必要なバーコードが欲しいばかりに最小限買ったんだ。ネコたちの批難を受けようと、くれくれ攻撃を受けようとも、どうしてもあのカレンダーは欲しい!。なんでキャットフードのバーコードでないといけないんだろうなぁ。別にカレーのレトルトだっていいじゃないか。そうすりゃ毎年年末近くにこんな思いしなくていいのに。
 そもそもキミら食い意地はりすぎ。もっと質素に、健康を考えて粗食にたえなさい。「清く貧しく美しく」これがオイラんチのモットーだ。普段食べない料理はたしなんで食べなきゃ。ガッついてるとお里が知れるぞ。ネコなんだもん、もっとクールにふるまってくれよ。いつものドライフードだってキミらの嗜好にあわせて選んでんだぞ。とくにもねもねちゃんはおしっこに結晶出てるんだから余計なものは食べられないの。まったく缶詰だってウチじゃ食べらんないんだもんな。音に反応してすぐに駆け付けてくるしなぁ。モモ缶とか長い事食べてないなぁ。
 おっ、そろそろ出かける時間だ。上着を羽織ってデイパックを担ぐとみみぞうくんはすぐに気付くのも日課。テーブルの上でゴロンとおなかを出して甘えた声で鳴くのだよ。
「いかないでー!」
と、言ってるかどうかは定かじゃない。でも、さっきの事はもう忘れてるみたいだ。こういうところがかわいいんだよなぁ。ついつい立ち止まってウリウリアゴの下を撫でまくってやる。そうこうしてるともねもねちゃんもやってきて、オイラの手に頭突きをかましてくる。よしよし、オマエもかうい奴じゃわははは…。
 だけどホントのところは
忘れずに買ってきてぇ!
と、訴えてるのかもしれないなぁ…。オイラの存在ってなんだろうなぁ。

 美意識の変遷
 
ペットショップへはよく行くよ。トイレの砂は消耗品だし、ネコたちの食事はプレミアムフードだもの。ウィンドウにおさまっているかわゆい子ネコやいぬちくしょう(注1)は、あくまでついいでで見てるんだよ。ネコはだいたいどれも大好きだけど、いぬちくしょうはわりと好みが分かれるよね。今はチワワダックスみたいな小さいのが主流だけど、ちょっと前ならネコも杓子もゴールデンレトリーバーだったし、その前にはシベリアンハスキーが流行った事もあったよね。同じいぬちくしょうなのに、大きさが全然違うんだ。大きさが全然違うのに同じいぬちくしょうなのが不思議だ。ネコならエジプシャンマウシベリアタイガー程の違いがないか。
 オイラも人並みにいぬちくしょうが大好き。好きな犬種だってある。ここ数年はケアーンテリア(注2)みたいな小さくてワイルドなヤツがかわゆいと思っているけど、なかなか置いてるペットショップがないのがたまにキズだ。そこでついつい遊んじゃうのが、もっとメジャーないぬちくしょうたち。よく行くお店なら、ペキニーズとかブルドッグとか、ぶさいくかわゆいヤツら。それを見て、こんな事言われた。
「最近好みが変った」
だって。だってかわゆいものはかわゆいじゃないか!。たしかに以前は、スラリとしたかっこいいいぬちくしょうに憧れていたよ。今でもあいつら大好きさ。元々ニホンオオカミという今はいなくなってしまった(注3)動物に憧れてた事があって、その血を受け継いでそうな日本犬、特に紀州犬なんかにはまっていたんだ。
 なぜ紀州?、最後のニホンオオカミが公式に確認されてるのが奈良県の鷲家口という所。紀伊半島の山中には間違いなく住んでた訳だし、猟犬である紀州犬に狩猟本能の強いコドモを作ろうとわざとオオカミと交配させたというような話だってあるんだ(注4)。ともすると紀州犬にはわずかながらオオカミの血縁があるかも知れないねって考えた訳なのだよ。もちろん秋田犬甲斐犬川上犬(注5)だってそうかも知れないけどね、ただそれらの中で紀州犬が一番大きくてフワフワでかわゆいかなとも考えてたのだよ。もっともいぬちくしょうなんてオオカミを家畜化したものだからルーツをたどるとみんなそうなんだけどね。
 オオカミに近いという意味じゃ、シベリアンハスキーアラスカンマラミュートなんかもそうだよね。マンガの影響なんかもあってハスキーは人気でたけど、それ以前からコワモテなのになぜかかわゆいあの存在感が気になってたよね。逆にオオカミをつかまえる側の猟犬だって大好き。ボルゾイになんかなつかれた日にはもうどうなる事やら…。
 いずれにしても、スラッとしてかっこいいいぬちくしょうが大好きだ。いっしょに砂浜を駈けながら、意味もなく笑うのは憧れだもの。悪いけどブサイクないぬちくしょうじゃ絵にならないんだなぁ。
 ところが、いきつけのペットショップにでっかいブルドッグが大の字に伏せて、だらしなく舌を出してるのを見て無意識に体の方が先に反応してしまった。気が付いたらダランと垂れ下がった舌を掴んで引っぱっていたんだ。なんでだろうなぁ、でも、やらずにおれなかったのだよ。シツケのなってない猛犬なら絶対にできない事だよ(注6)。だけど不思議とそんな事はしないという、顔の肉がたれたれいぬちくしょうのやさしい寛容な気持ちが伝わったのかも知れない。その後もほっぺ肉を引っぱったり、耳を立ち耳にして遊んだけど特にいやがる様子もなかったよ。さすがに悪ふざけが過ぎたと思ってアゴの下や耳の後ろを撫でてあげたけど、気持ちよさそうにしてたなぁ。
「オトコは度胸、ブルドッグは愛嬌!」
そんなところだよ。とにかくかわゆいいぬちくしょうなのだよ。そりゃスマートで足の長いのはかっこいいよ。でも憎めないあのおじさん顔も味があるもんね。足の短いのだって今はダックスウエルシュコーギーみたいにはやってるしね。そ、いぬちくしょうにルックスのよさなんて二の次さ。
 家に帰ってみると、もねもねちゃんが床に敷物みたいに平べったくなって寝てた。最近ブルドッグがお気に入りの理由が少し分かったような気がする。
わしのことか
そう、その通りだよもねもねちゃん!。キミの憎めないかわゆさがオイラの美意識を変えてっちゃったんだよ!。

(注1)イヌ好きの人ごめんなさい。最近お気に入りのボキャブラリーです。悪意はありません。
(注2)ヨーキーの原種に近いというか、ワイルドな雰囲気を持つテリアです。
(注3)ニホンオオカミの絶滅には異論も多く、近年でも目撃例があります。
(注4)ただその多くは、悲劇的な結末で終わっている。手がつけられなくなって、猟師に殺されちゃのだ。
(注5)マイナーだよなぁ。でもちゃんと認められた犬種。最近は数が減って絶滅の危機にあるそうな。
(注6)ホントに危ないからね、よいコはマネしちゃダメだよ!。

 安上がりな玩具
 
うとうと眠りにつこうとした瞬間だよ、床を蹴る軽快な足音。ベッドを諦めて床に布団を敷いている今の状況じゃ、軽快な足音だって大きく響くんだよ。ついつい階下の人たちは大丈夫かと心配してしまう程の賑やかさ。みみぞうくんが始めちゃうと、もねもねちゃんも
わしもわしも
とゆさゆさ体を揺らして追い掛け回すから、ますます大騒ぎだ。そんでもって最後は、お気に入りの段ボールにダイブ、ドーンと派手な音がたてて、やっと落ち着くのがほぼ毎夜。寝不足だよ
 ネコが暴れるのは仕方がない。日中の大半は寝て過ごしてる訳だから、運動しなくちゃ体がなまってしまう。ウェートコントロールが必要だ。ただそれを、寝入りばなを襲われるのがたまらない。なんとか昼間にやってくれないもんだろうか。そう思ってショップに行って、遊び道具を探してみた。
 しかし、ネコのおもちゃというのも実に種類が豊富。また次から次へと新製品が出てくる。しかも色はで形はキュート。こりゃぁどう考えても、ネコより人間が遊ぶためのデザインだよ。フィッシングロッド風のネコじゃらしにルアーは毛虫のぬいぐるみだもの。ネズミのぬいぐるみもとても愛くるしい。これを買った人は、このネズミがネコに弄ばれるのを泣く泣く見なければならないのだなぁ。いや、まてよ、日中オイラは働いてて家を空けてる訳だから、ネコがひとり遊びできなきゃダメなんだ。それもハードに。例えばキャットタワーなんてどうだ!。みみぞうくんなら高い所大好きだし、1人で登ったり飛び下りたり大喜び間違いなし!。あ、ダメだ、もねもねちゃんが登れない。何しろ食卓のベンチにのっかるにもジタバタと大変な事になってるのに、みみぞうくんのえこひいきと批難されかねないぞ。だいいち夜中にドスンなんてやり始めたらもう床を走り回るのと比べ物にならない騒音かもしれないしなぁ。それじゃぁパンチングボールは?。これも何となく想像がつく。最初にちょびっと匂いでも嗅いで、あとはただのオブジェに…。そう、この手の玩具は以前に試した事があるんだ。それもみみぞうくんよりはるかに小さな、好奇心いっぱいの子ネコで。ちょっと大きめのタマゴのカタチのおきあがりこぼしで、先端に鈴がついてるヤツ。これならいつまででも遊んでくれるだろうと思ったのに、ほんの数秒で期待は裏切られた。安くなかったんだぞ!。それじゃぁネコたちはいったい何で遊んでるんだ?。この時の子ネコたちは兄弟3人いたんで特におもちゃなんかいらなかったよ。もねもねちゃんは自分のシッポをいまだに追い掛けてる事があるけど、まぁこれはほっとこう。みみぞうくんともねもねちゃんの熾烈な闘いは遊んでると言えなくもないかなぁ。だけどあんまり仲良しじゃぁないんだなぁ。みみぞうくんはと言うと、小さな消しゴムのカケラを追い掛け回してる。これが一個あればずーっと1人で走り回っててくれるから楽だ。ただこれでしょっちゅう消しゴムを隙間に押し込んで、なくしてしまうんだ。そうだ、消しゴムに替わるものを買ってあげればいいんだ!。
 で、ショップのシーンに戻る訳だ。いいのがあった。輪ゴムくらいの大きさの、プラスチックのカラフルなリング。全体が大きくたわんでいて、不規則に動きそうだ。これならみみぞうくんにも喜んでもらえそう。値段も3〜400円くらいだったかな、4っつ入っていて、他のおもちゃよりも安い。決定!。
 で、家に帰って駈け寄ってくるみみぞうくんにさっそく開けてみせた。くんくんくん…、プイッ。みみぞうくんはかたわらに落ちていた消しゴムを見つけだして1人サッカーを始めていたよ。オイラもうボーゼン…

 メロンパン記念日
 1月17日という日に特別な感情を持っている人は少なくない。世界的に見れば、最初にアメリカ軍がイラクに侵攻した日で、地球上の多くの人がライブで戦争を見るという、新しい時代の戦争を思わせた日だったね。ちょうど東西冷戦が終わった直後で、21世紀に明るい展望が開けた矢先の出来事で、世界平和の有り様がシフトした日だったとも言えるね。
 それから、もちろん神戸を中心に起きた大地震の日。数千人の人が亡くなって、数万人の人が傷付き、未だにその傷が癒えない人が多くいるそうだ。地震はいつ起きてもおかしくないっていう事を忘れちゃいけないんだ。そんな意味でこの日は忘れちゃいけない。悲観的になる事はないけど、備えは必要だって事を毎年考えさせられるんだ。
 だけど、オイラ個人にとって、忘れられないもう一つの出来事がある。10年程もいっしょに暮らした愛猫を失った悲しい日なんだ。ネコの死に直面したのはそれが最初じゃなかったんだけど、いろんな意味でオイラに影響を与えてきた大きな存在だっただけに、その喪失感はかなり大きかったんだよ。それ程の強烈なキャラクターとの出合いは、オイラがワイフ様と新高円寺の小さなアパートで暮らしていた頃の事。
 その頃はと言えば、ワイフ様はアレルギーがひどくてとてもネコなんかと暮らせなかったんだ。今ではとても信じがたい事なのだけどね。そんなところに突然あらわれた汚いネコは、ひどくやせこけてハナを垂らし、大きなクシャミをくり返していた。すでにその頃にはネコエイズなる恐い名前の病気が広がっていたし、きっとこのネコもそうなんだろうと考えていた訳だ。正直に言って長くは生きられそうになかったけど、やけに恨めしそうに見上げて、いや、睨み上げるもんでついメザシなんかをあげるようになっていった。もちろん、ノラに無責任にエサをやるべきじゃないって事は知ってる。もしエサをやるんなら最後まで面倒をみる覚悟がなくちゃ。そのネコは明日にでも死んでしまいそうなカンジだったし、そういう状態で放っておくのもかえってかわいそうな気がした。ところが、それからというものハナを垂らしながら連日のように通い、死にそうで死なず、窓の前にしゃがんでは
くれぇ
と催促した。明日か明日かと待ってるうちに、どういう訳だか下腹が大きくなってきて、もしやと怪訝そうに観察してみたがどうやら間違いなく妊娠しているんだと確信するようになり、その頃にはいくぶん毛艶がよくなり気力が充実しているようにも見えた。この頃になってようやく事の重大さに気付いた訳なのだよ。
 それから間もなく、ハナミズ様はコドモを産んだらしく、ある日を境に急にお腹をしぼませて家にやってきた。オイラたちは四苦八苦で子ネコを探して、なんとか4匹を保護して、これまた大変な思いをして里子に出した。もうこんな事ぁ二度とゴメンだよ。とうとうハナミズ様を捕まえて、避妊手術を受けさせたのだよ。もはやその頃になると情がうつって再び野に放つなんてできなくなってしまったのだ。そこで、一念発起してネコと暮らせる部屋に引っ越すことにしたのだ。ノラネコ一匹に住いを追われた人間はザラにいないだろう、ちくしょう。
 それから数年、ハナミズ様は家の女王様として君臨し、独裁政権を樹立。オイラたち人間と新入りのネコたちは彼女の足下にひれふし、彼女の御機嫌をそこねないように怯えて暮らしていたのだよ。そんな彼女にも老いがやってきて、牙が抜け、病気がちになり、身体が言う事をきかなくなって、始めて家に来た頃よりも痩せ細っていった。それでも生きる気力だけはあったんだ。食えないながらもエサに向かうその姿は、彼女の凄まじい生命力そのものだったのだよ。オイラは彼女の回復を祈って好物のメロンパンを断った。
 2003年の1月17日は、とても空が青く澄んで、春のように暖かい日だった。煙がまっすぐに昇っていった。あの日から1年、なんとなくメロンパンは食べずじまいになっていた。今日は午後から東京も雪になり、冬らしい一日になったな。

 独裁者
 さー寝よう!、布団を敷いた。オイラんちはみみぞうくんのおしっこ癖がなかなか抜けないんで、数年前にベッドを放棄して、今は床に布団を敷くようになったんだよ。きちんとたたんじゃえば、その上でじょ〜って事はないものね。ただし、広げたりたたんだりってのも割と手間だ。だって、朝の目が覚めてない時と、夜の疲れて眠くなってる時に肉体労働だものなぁ。できればベッドの生活に戻りたいんだけどなぁ。でも、床に布団を敷くと、なんだか温泉旅館みたいできらいじゃないよ。ごろっと横になろう!。…。たった今敷いたばっかりなのに先客がいる…。それも、布団のまんまん中に大きなお腹だして、オイラのマクラにちゃっかり頭のっけて…。気持ちよさそうに目を細めてやがるよ。ハナミズ様ぁ〜、そこはオイラの布団でやすよ。
知らんわい!
相変わらず目つきが鋭い。オイラは仕方なくハナミズ様の足下で丸くなったよ。うう、足が敷き布団からはみだして寒いよう…。
 そのハナミズ様を刺激しないよう、そぉーっと布団の横を横切る。バシッ!。これがいい音するんだ、ハナミズ様のパンチって。爪は出してないし、痛くはない、だけど目は釣り上がって恐い顔になっている。
目障りじゃい!
脅迫だ、いや、警告だ。本気出したら痛い目みるぞって事だ。そもそも何で怒られなきゃなんないんだ!。布団の横を通っただけじゃないかよ、別に踏んだり蹴ったりした訳じゃないぞ。何が気に入らないんだよう。だけど、人間がきらいでやってる訳じゃないっていうのは分かってるよ。だって、運良くオイラが先に布団に横になれた時は、その上にのっかって寛ぐんだもん。約4.2キロの体重がミゾオチにどっかりのっかるんだよなぁ。でも、そこで目を細めて、幸せそうな顔して寝てるんだもんなぁ。でも撫でたりするのは禁物だよ。最初は気持ちよさそうにしてるくせに、そのうち飽きてくると、ベシッとパンチをくり出して、ケッって感じで舌打ちして行っちゃう事もある。もっともその前に、でっかいくしゃみで顔中にハナを飛ばしてくれるから、オイラの上で寛がれてもあんまり嬉しくないんだ。とにかくハナミズ様は、人間なんてでっかいクッションくらいにしか思ってないらしい。
 まぁクッションは極端としても、オイラなんか見下してるのは間違いないようだ。御奉仕するためのドレイと思ってるに違いない。顔見る度に、睨み付けるような鋭い目で下あごを突き出すのもそう。無言だけど明らかに言ってる。
やれ!
オイラが顎の下を撫でるまで見下すような目つきで睨み付けてるんだもんな。で、撫でてあげると気持ちよさそうに目を細めるんだけど、そのうち興奮してきて鋭い爪で腕を掴んで後ろ足でキックの連打だだもの。でまたケッってカンジで吐き捨てるように立ち去るんだ。まったく酷い仕打ちだよなぁ。食事だってそう、皿の前でジーっと睨み付けて無言でプレッシャーをかけるんだ。
めし!
迫力負けって言うか、恐縮しちゃうんだものなぁ。家の中のすべてが、ハナミズ様の御機嫌で回ってるんだ。
 オイラたち人間はまだいいよ。みみぞうくんはちびの頃からハナミズ様の御機嫌に振り回されてるんだもの。まったく4人の母親だったくせに、母性愛のカケラも持ち合わせず、生後2ヶ月ちょっとのみみぞうくんに殴る蹴るの幼児虐待家庭内暴力の嵐だ。もっともそれで鍛えられたのか、随分身体はたくましくなったよ。だけど小心者なのはこの時のトラウマがあるからじゃないかなぁ。すっごく繊細だから、傷ついてるんだよね、きっと。同じカゴに入ってペロペロ毛繕いしてあげてるのに、突然気分を害して殴ったり蹴ったり噛み付いたり、理不尽な仕打ちを受けてきてるんだもの。その点、もねもねちゃんはあんまり物事を考えないんで、殴られても気にしてないようで助かるなぁ。
 だけど不思議なのは、こんな酷いやつなのに、なぜだか人もネコたちもハナミズ様を慕ってるんだよね。なんでなんだろう。人徳ってやつかなぁ。

 秘剣すずめ返し
 じーっと睨み付ける目は真っ黒真ん丸。ヒゲはぴんぴんで、耳は伏せて、あごが床につくほど低く身構えているけど、無意識にしっぽが立って、お尻がぐいっと持ち上がる。そのお尻をぷるぷると振ると、それが合図。脱兎のごとく飛び出して、ガシッと両手で掴む。もちろん爪は鋭く尖って、獲物の身体に食い込んで、ちょっとやそっとじゃ離れようがないのだ。だけど、簡単に殺す訳じゃない。殴って噛み付いて、転がして、生殺しの状態。獲物は抵抗する力もないから、彼女のなすがままだよ。かわいそう。だけど彼女の不条理な遊戯は、獲物の力尽きるタイミングには関係なく、飽きるまで続くのだ。とどめをさしてくれれば、まだ救われるだろうに、非道な事に、最期の一撃の前に飽きて、ほったらかしだからたちが悪いよ。食わないんなら、やんなきゃいいのに。いったいどれだけの動物が、ハナミズ様の理不尽な暴力の犠牲になった事か…。
 家庭内暴力は前述の通りだけど、ノラの時代にも果てしなく殺りくを繰り広げた筈だ。あー、こわ…。でも、この時は生活のために狩りをしていたのは間違いない。つまり、食うための暴力だ。それを証明する出来事があった。
 高円寺にいた頃のハナミズ様は、あくまでノラで、オイラたちはたまにめしをねだるだけの存在でしかない。いや、実は毎日ねだっていたんだけど、彼女にはそんな事はどうでもよかったんだ。彼女にとっての主食は、あくまで身近な獲物たち。ヘンな人間の出すドライフードなんて、栄養バランスを補うサプリメントみたいなもんだ。当然トイレなんか知ったこっちゃない。アパートの住人がこしらえた花壇だろうが家庭菜園だろうが掘り返して用を足して、匂いつけしてナワバリにしちゃる。だけどある日、庭がやたら臭いんで窓を開けたら、ハナミズ様が下痢をしてたんで驚いた。慌てて病院に連れていったら、どうも寄生虫らしいという診断。虫下しを飲んで、あっという間に回復したが、お腹に収まってた寄生虫の正体が謎だった。東京にはサンプルがなくて、獣医さんは埼玉県まで標本を取りにいったそうだ。おいおい、何を食ったんだよぉ。それは、瓶いっぱいに詰め込まれた、きしめんみたいなヤツだったそうな。どうやらカエルを食べて、ムシがついたらしいと結論に達した。そんな高円寺みたいな所にカエルがいるのかって?、オイラも駅前で20cmほどのでっかいのを見た事あるよ。カリカリよりも旨いのかねぇ、まぁ、外に出したバケツの水を飲んでた彼女だから、
食えりゃいいんじゃい!
ってカンジなんだろうね。
 しかし、カエルやトカゲってんのは理解できるけど、いくら彼女が敏捷でもすずめってのはどうよ?。いったいどうやって捕まえたのか、今となっては謎だ。きっと人には見せられない秘密の技があるのだ。いずれにしても、彼女は天性のハンターだった。みみぞうくんにも、もねもねちゃんにも、そんな能力はないから、やっぱり彼女の生まれ持った天性の資質に違いない。しかしねぇ、捕ってきたんならちゃんと食べてくれればいいのに、わざわざ見せにくるんだもん。律儀だよ、いい迷惑。

 招き猫体質
 えっ?、なにそれ?、それってオイラが下ぶくれで、手足が短いって事か?。招き猫?。人や金を招き込むって事か?。それにしちゃオイラ自身たいして儲かってないし、人脈も希薄。そもそも招き猫って、世田谷の豪徳寺に伝わる伝承で、ネコの手招きに立ち寄った侍が突然の雷雨を避ける事ができたってお話だよね。感心したお侍が、荒れ寺だった豪徳寺を今のような立派な寺にしてくれたんで、ネコが福を招くとして、崇めたって話だったような。まぁ「仙台四郎」の写真と同じで縁起物、おいとけば、人もお金も寄ってくるってもんで、そいでもって、どうしてオイラがそういう体質な訳だ。
 なんだかよく分からないけど、ワイフが言うには、閑散としたお店にオイラとワイフが入っていると、どういう訳だかどんどん客が増えていくんだって。んー?。そうと言われてから意識してみると、確かにそうかなぁと思うシチュエーションに何度か巡り会ったよ。店に入った時は貸しきり状態だったのに、買い物もしないで出ていく時には、どういう訳だか他に客がいるんだよなぁ。なんでだろう?。ホンジャマカの石塚みたいに人畜無害に見えるのかなぁ。それはそれでいいけどさぁ、危険な香りってのがまったくないってのものちょっと悲しいよ。いいオトコも、いいオンナも、どこかダークな部分があるじゃないの。まぁね、どうでもいい事だけどね。ホントにいい事なんだけどね。
 そんじゃ、豪徳寺のネコもそうなのかっていうと、そんな事ぁないよ。ネコってそもそもダークな生き物だしね。絶対にフレンドリーじゃないってのが魅力な訳だ。豪徳寺の一件だって、雨が近いから顔を洗ってただけで、その仕種が人を招いてるように見えただけだよね。ネコが招いてるから近寄るってのはネコ好きの証し。この時の侍は、後に桜田門外の変で惨殺される井伊直弼の先祖らしいけど、大老のようなかなりの高い地位にある人が、膝にネコを抱えて「おぬしもワルよのう」とほくそ笑んでるのはなんとも絵になる。そもそも権力者はイヌネコの類いが大好きなのだよ。徳川綱吉の例を出すまでもないよね、そう書こうと思ったけど、「生類哀れみの令」は、別に動物を愛する余り出されたおふれじゃないんだよなぁ。
 嫌いな人ならいざ知らず、そうでない人なら、ネコに「こっちこいよ」なんて手招きされたらやっぱり行っちゃうよ。だってかわいいもん!。生まれついての招き猫体質だからね。チョイチョイ、チョイ、たとえ顔を洗ってるだけでも見にいくよね。だから、お店開いてる人は、絶対ネコを近くにおいとく方がいい。似たような体質のオイラをおいといてもらっても構わないけど、ギャラしだいだよ。
 あ、でも、ネコ側の資質もあるかなぁ。ちょいちょいと手招きして、バシッと手を下す暴力ネコもいれば、「こわーい!」と逃げ出す腰抜け人見知りネコもいるしね。

 もねもね歳事記
 うーん、暑いよ暑いよ…。どうして夏はこんなに暑いんだろう。きっと沖縄より東京の方が暑いに違いない。インドより暑いかも知れない。イラクよりも、ケニアよりも暑いはずだよ。絶対地球温暖化で、太陽が大きくなって、公転軌道が縮小されて、金星が近付いて、水星とぶつかる日も近いはずだ。そうでなきゃ、39度なんてふざけた気温なりっこない!。もうたまらん、カラカラにひからびてしまう前にエアコン全開だ!。エネルギー問題も関係ない、自分の身体が大事。ゴー…。エアコンがでっかい音を立てはじめると、わらわら出てくる暑苦しいヤツら。なんでコイツらこんなにフワフワのフカフカなんだよ。暑苦しいから近寄るな!、と言ってるそばからまとわりついてきやがる。うれしい、うれしいけど、悲しいぞ…。気が効かないヤツらめ。汗でべた付いた肌に、アイツらのホカホカの柔らかい毛がまとわりつあの感覚、不快、不快、不快!えーい!、あっち行け!って怒鳴ると、またあの潤んだでっかい目で見つめるんだ。
「どうして…?」
あー、ダメ、怒れないよ。このヤローども。くそー、もちょっと冷えるまでいっしょにいてやるか…。で、暫し。そろそろ快適になって、世界の環境のために経済運転しなけりゃいかん!、と現代人としての責任を思い出した頃になると、アイツらプイッとあっちいっちゃうんだ。せっかく遊んでやろうと思った途端にだよ。もうこーなりゃ、いやがるのをムリヤリ掴んでダッコしてやる!。ん?。脇の下にコリコリコリ、首の回りにコリコリコリ、お腹にコリコリコリ、これは、悪性腫瘍か!。ムリヤリ手足を掴んで広げてみると、できてるできてる、ちっこい毛玉。みみぞうくんは毛にコシがなくて、サラサラヘアーなんだからあんまりできないんだけど、毛づくろいのあとは身体が微妙に湿っていて、ペタペタ毛が絡まりやすいんだよなぁ。それでもまだ、毛玉自体が小さいからラク。毛玉用の大きなクシか、手ぐしですいてやる、というかむしり取ってやれば大丈夫。ちょっと痛そうだけど、元々抜けた毛が絡んでる訳だからそんなに気にしなくても平気だよ。このコの場合は、むしろ毛玉を吐かれる事の方がイヤだ。まぁ、手がかかんなくていいコだよ。
 だけど、もねもねちゃんの場合はちょっとシャレにならないぞ。毛の質というか何というか、コシのないクセっ毛ってカンジだもんだから、ちょっとできてるなぁーと思ったら、あっという間に全身毛玉の固まりになっちゃう。どうせほっといても毛だらけなんだから、たいしてかわんないんだけど、見るからに通気性が悪くて、蒸れてるカンジになっちゃう訳だ。ネコ毛のセーターが脱げずに、体温を逃がせない状態を想像してほしい。いや、想像したくない、今は。半年ほどたってから想像したいよ、暑苦しいから。とにかく、こうなっちゃうと、もう切っちゃうしかない。ふだんから、ちゃんとブラッシングしてお手入れしてあげればいいんだけど、もねもねちゃんは庶民派のペルシャだ。そんなお上品な事は大嫌い!。だからもう、あったかくなってきたら、さっぱりサマーカットと毎年決めてるんだ。もちろんもねもねちゃんは毛刈りだってキライ。だけど、そこは押さえ付けてムリヤリね。大きな毛玉のかたまりがごっそり取れて、なかなか楽しいよ。そう、ヒツジの毛刈りをやってる気分。みるみるちいさくなってくもねもねちゃんを見て、またうぷぷとなってしまう。年に一度、こんな楽しい事をオイラはやってるわけだよ。だけど、当のもねもねちゃんは、すっごくストレス溜っちゃうんだろうね。終わった途端、ピューっと走り去って、隠れてしまう。ごめんなぁ、でももうあつくるしくないだろ。で、一時間もたって、自分の身に起きた不幸な出来事を忘れて出てくると、またうぷぷって事になっちゃうんだな…。

 ドロボーネコ
 オイラ、酒もタバコもやらないケンコーなニンゲンだ。と、言っても、数年前までは2日でひと箱程度のKENTを吸ってたし、別に酒が嫌いな訳じゃないよ。タバコをやめたのは、カゼをこじらせてのどがひどく痛かったからで、やめようと決心してやめた訳じゃない。世間にはやめたくてもやめられない人も大勢いるんだから、これって凄い事なのかな。とは言っても、オイラ自身もやめられないその1人だったんだよね。酒に関して言っちゃえば、人並みにアルコールを分解できるし、付き合い程度に呑めるし、日本酒や焼酎が好きだったりする。ただ、常習性がないって言うか、呑まなくても生きていけるニンゲンなのだよね。だから、肝臓には多少の自信はあったんだよなぁ。ところが、初めて体験したカイロプラクティックで、肝臓が弱っていると指摘されてしまった!。いや、定期検診や献血時の数値は問題ない。数字に出ない程度の弱り加減で、大袈裟に騒ぐほどじゃないらしいんだけど、自信があっただけにショックを受けたんだ。あー…。原因は、甘いもの。メロンパンに目がなく、脳の血糖値が下がった時には無意識にコンビニに飛び込んでしまう性分がいけないらしい。
 その日、お客さんがあって、ワイフ様はテーブルにクッキーを並べていたそうだ。話し込んでる横から、珍しくもねもねちゃんがテーブルに上がったかと思うと、あっという間にクッキーをくわえて走り去ったそうだ。普段、機敏に動けず、椅子やテーブルに軽々と上る事のできないもねもねちゃんが、一生で一番と言う素早い動きを見せた(ワイフ談)。何より驚いたのは、オイラたちニンゲンの食事をほしがったりしないもねもねちゃんがやってのけたって事。みみぞうくんなら、毎食事にニクやサカナの奪い合いになるから理解できるんだけど、彼はオイラたちの認識じゃそういうキャラクターじゃなかったんだ。ひょっとすると、コイツ甘党なのかもしれない。数日後、オイラもその光景を目撃する事になる。やっぱりクッキーだ。甘いだけじゃなくて、歯ごたえがカリカリに近いからなのか?。エクレアや和菓子には目もくれない。オイラたちニンゲンにも、肝臓を傷める危険な食べ物なのに、糖尿病にでもなられたら介護が大変なんだぞ。味を覚えられる前に取りかえさないと。
 そう言えば、すっかり忘れているけど、もねもねちゃんはノラだったのを保護してうちのコにしたんだっけ。そとで暮らしてる時はどうしてたんだろ。容易く食事にありつけない境遇で、少しでも高カロリーなものをとる本能でも身につけたんだろうか?。いやいや、道ばたで腹踊りでも見せてお捻りをもらってたという気がするんだけどなぁ。どこか不器用な様は、とても生活力があったとは思えないしなぁ。家に来て間もない頃には、食事中のオイラの皿からタマネギのカタマリをくわえて逃げた事もあったなぁ。おいおい、ネコには毒だぞ。下痢するぞ。その時はすぐに捕まえて、逆さに吊るして振ったら、ポロっと吐き出したけどね。大事に至らなくてホントよかった。…。…?。これって虐待?。それ以来オイラたちの食事をほしがる事はなかったなぁ…。トラウマになっちゃったのかなぁ。
なんかしらんけど、ちきうじんのめしくったら、りょうあしつかまれてふりまわされるけん!
そんな風に思ってるのか…。

 

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