ペンギンの戦争映画
実はヴェトナム戦争アニメ
幸 福 物 語
ペ ン ギ ン ズ ・ メ モ リ ー

 このページに使用されている画像はペンギンズ・メモリー「幸福物語」の「パンフレット」より金銭的対価を得ないこのサイト「みりさば」に引用しています。著作権所持者からの著作権侵害の指摘があれば画像は即刻削除するものとします。

 みなさんは1985年公開のサントリー/博報堂/CMランド制作、東宝東和配給のアニメ「ペンギンズ・メモリー 幸福物語」というアニメをご存じだろうか?松田聖子の「スウィートメモリー」が使用されたサントリーのビールのCMが当たったおかげで劇場公開アニメ化された作品である。劇場公開されたことは知らなくても「スウィートメモリー」がかかっていたCMを覚えている人は多いのではないだろうか?
 しかし、このアニメが実はベトナム戦争映画だってことを知っている人は非常に少ないだろう。「そんな馬鹿なーっ!」と思う人も多いと思うのでまず、ストーリーを簡単に説明しよう。

 「デルタ戦争の激戦で友を失い、自らも負傷したマイクは、ただ一人故郷に帰ってきた。故郷の町では誰もがマイクを英雄扱いするが、まるで地獄をみたかのような異常体験をしたマイクの心は家族の暖かい歓待にも癒えることがなかった」(以上、パンフレットより抜粋)
 という感じで戦争からかえってきたマイク(CV:佐藤 浩市)は戦争後遺症的な心でさまよい、レイクシティという町でジル(CV:鶴 ひろみ 歌のみ松田聖子)というペンギンと出会って恋をして....と、アメリカ青春映画風のストーリーである。

 で、このアニメの特筆すべき点はこの「デルタ戦争」のシーンが「ベトナム戦争にそっくりっていうかこれベトナム戦争そのまんまじゃん!」ということである。

 一応デルタ戦争ということにはなっているけど制作者側がベトナム戦争を意識して制作されているのは、間違いない!早速ベトナム戦争みりさば的映画視点からチェックを入れてみてみよう!
 現在では手に入りづらい作品であることも考えて冒頭のシーンを解説しました!

 ハーモニカの音とともに「幸福物語」のタイトルが画面にうつる。
 のどかなその音楽とタイトルにほのぼのとした画面を想像するが、画面に現れたのは数機のイロコイス(UH−1多用途ヘリ)だった。イロコイスから対地ロケットが発射される。舞台は戦場なのだ!
 地面が紅蓮の炎で赤く染まる!それに答えるかのように地面から対空放火が放たれる。イロコイスからのロケット攻撃をあざ笑うかのように曳航弾が空に舞う....
 そしてその下では米兵ペンギンたちがまた、戦っていたのだ。
 画面に登場するのはM-60を持ったごっついペンギン。実写だったら確実に黒人で巨漢な感じのアル、眼鏡の気弱なペンギントム、それと主人公のマイクの3羽だ。

 ここで注目なのはペンギンたちが使用している銃が初期型のM-16であるということだ。フラッシュハイダーが三つ又なのが確認できる。
 また、ペンギンたちは全員ボディアーマーを装着していることから海兵隊ではないかと思われる。ただし、海兵隊であればヘルメットバンドは無いはずであるが、彼らは全員緑色のヘルメットバンドをつけている。これは陸軍のものを使用しているかゴムを緑に染めているのか?そんなところだろう。残念ながら部隊章などは確認できない。

 やがて対空砲火が直撃し、1機のヘリコプターが墜落する。
 北ベトナム軍は終始姿を見せず、戦果は不明だ。そして、地上部隊でもRPGの爆風を受け、トムが戦傷した。3羽のペンギンは戦傷したトムの手当のため一時洞窟に下がる。そして本隊からはぐれてしまった。洞窟の中、けがをして弱気になってしまい、部隊に帰れるかどうか心配するトム、それをなだめるマイク。
 もうハーモニカを吹けないほど弱っているトムの代わりにマイクがハモニカを吹いてやる。ほんのひととき、戦場にほっとした雰囲気が流れる。とりあえず、ゆっくりと眠るトム...
 マイクは詩集を取り出す。作者はRANDALL JAMESという。「戦場に詩集を持ってくるなんて」とマイクのことを笑うアル。
そして、いつしか話は故郷のことにうつる。

「なぁ、おまえ故郷に恋人いるのか」
「いや...」
「俺はいるぜ、金髪でグラマーでおまけに大金持ちのお嬢さんがな...」
「ただ、片思いだから向こうは俺のことなんか思っちゃいないけどなぁ...」
「ははははは...」

「なぁ、国に帰ったらいっしょになんか(仕事を)やろうぜ!」
「ああ、もちろんトムもいっしょにな」

 ここでの注目は水筒が金属タイプのもの(M1910タイプ)であるということ。口金が銀色なところからそれがわかる。
 さらにストーリー的ポイントはこの「会話」。ベトナム戦争映画をみた方はにやりとするだろうが兵士たちはみんな金髪でグラマーな彼女がいてついでに妹は年頃なんである。さらにみんな国に帰ることを心待ちにして帰ったら何か事業を始めようとはなしているのである。実際は貧困層の彼らはそんな状況ではないのであるが、故郷に帰る日を心待ちにしてこんな話をしているのだ。時には空想を取り混ぜて...


 そして、3羽は朝もやの中に本体と合流すべく動き出した。傷ついたトムを支えながら....

 3羽は途中で難民のペンギンたちにあう。村を破壊された南ベトナムペンギンたちだ、白ひげの老ペンギン、赤ん坊を抱えた女性ペンギン、子供...皆一様に疲れ、けがをしている。
 そこへイロコイスのホバリング音が聞こえてくる。味方だ!助かった!3人がヘリに向かってかけだそうとしたそのとき!

「ダダダダダダダダダッダダ!」
 いきなりヘリは難民たちに向けて銃撃を開始した。砲火に倒れながらも逃げまどう難民!彼らはベトコンなんかじゃない!ただの農民なんだっ!

 ここでのチェックシーンはヘリパイロット、きちんとヘリパイ用のヘルメットをかぶっている上にM-60がきちんとヘリ搭載タイプになっている。で、ストーリー的にはこの米兵による難民への無差別銃撃ってかなりセンセーショナルなシーンである。プラトーンが米国で公開されたのが1986年だからそれよりも早いのである!

 マイクはたまらず飛び出した。「やめろっ!やめるんだぁっ!」
 ヘリの前に立ちふさがろうとするマイク。そのとき!森の陰から軽火器が火を噴いた。

 森の中には北ベトナムペンギンが潜んでいたのである。
 マイクは負傷し、その場に倒れる。必死でマイクを助け出そうとトム走り寄ろうとするがすさまじい銃撃もろに受けてしまって倒れる。

 必死でアル1羽が弾幕を張る中にイロコイスは降下してくる。ヘリパイロットが何か必死に叫んでいるが爆音で聞こえない!マイクはトムを助けようと必死で呼びかけるがすでにトムは息絶えてもう動かない。それでもトムを助けようと揺り動かすマイク。トムはもう....  アルがマイクをトムから引き剥がし、傷ついたトムをヘリのステップにしがみつかせる。
 負傷者を助けた2機のヘリは上昇していく。しかし、それを逃がさず北ベトナム側の対空ミサイルがヘリに向かっていく!ミサイルはヘリの1機に命中しヘリは空中で大爆発!その爆風でアルが手を離し、落ちていく......
 ゆっくりと落ちていくアル...もう...もう彼は助からない....



 仲間を失ったマイクは故郷に帰ってきた。 ちなみにこの出迎える曲はちゃんと海兵隊式。

 周りの歓迎するムードと戦場の悲惨な状況との温度差に素直に喜べないマイク。ベトナム症候群なマイクは元のマイクではなかった...

 と、ベトナム的な話はここまで、この後ベトナム症候群ですっかり暗くなってしまったマイクとビンボーな状況にもめげず酒場で歌を歌うジル(松田聖子)とのお話が続きます。でも正直言って暗いので当時「幸福物語」というタイトルだけで幸せな映画を期待して見に行った人はかなりつらかったんじゃないだろうか?

 と、ヴェトナム戦争...いや「デルタ戦争」のシーンはわずか12分でおしまいなのだが、なかなかすごい内容なのは理解していただけたと思う。  場面から推測すると「装備品が比較的初期」「世論がまだ反戦ムードになっていない」などから設定はベトナム戦争初期であると思われます。

 このソフトを探すのは至難の業かもしれないが見る機会があれば冒頭12分でも見てほしい。ちなみに発売元はCBS・ソニーでレーザーディスクの製品番号は96LF−10だがもはや市場にはないだろうなぁ...

 そんなわけで、意外なところで要チェックのヴェトナム戦争映画でした。