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シカゴ美術館

  街の専門店は日曜日が休業日だ。閉まった店舗を覗きながら、距離は結構あるが、そのまま歩いているうちに、シカゴ美術館まで来た。チャオは退屈だろうが、どうしても見ておきたい。印象派に自然と足が向くが、一応全館見て廻った。やはり印象派の作品が素晴らしい。日本人は印象派が大好きと言うが、ジャポニスムの影響だろうか。

  スーラの大作、『グランド・ジャット島の日曜日』がある。大変大きな絵だ。シニアックも点描で描いているが、シニアックの絵はめっぽう明るい。スーラは色もしかりとしており、さすがに点描画の天才である。印象派は厳密に光を分析し、3原色を細かい点に置き換えて絵を描いた。印象派の全ての画家がそうではないが、黒く見えるものは光を吸収してしまうだけで、黒という色はないと主張する。点描は今の網点印刷を手で描いたようなものだ。ただ網点では黒を含めて4色使う。スーラは輪郭線も人間の目の錯覚であるからと、輪郭線を描かない。色の点だけで絵を描きあげたのである。しかも、この大画面をだ。だが、輪郭線がないことが、絵の中の全てを静止させてしまったようだ。線というのは、躍動感があるから、これが無いと静止してしまう。何れにしろ、見ごたえのある大作である。

  

  ルノワールの展示作品もすばらしい。『レストラン・フルネーズ(船の上の昼食)』とか『二人姉妹』などは、ルノワールの甘い線ではなく、輪郭がしかりとして、色もはっきりと入れられた作品で、構図にも動きがあり、私の大好きな絵だ。この他、モネだけでも33点の作品を所蔵している。アメリカの絵画では私の好きなグラント・ウッドの作品があり、その中に『アメリカン・ゴシック』があった。いろいろの作品があるが、一通り廻って、カフェテリアでお茶を飲んで出た。

  正面の入り口で、25才くらいのご婦人がカメラを差し出しながら一枚撮って欲しいと言う。かなり年配の男性がコートに身を包んで後ろに控えており、目が合うと帽子を軽くとって会釈する。70年代でもドレスの上に薄いコートを羽織った女性などをそう見かけるものでない。生まれや、育ちが分かろうと言うものだ。さすがに、シカゴだなーと思ったが、英語の発音が少々おかしい。
「シカゴの方ですか」
写真を撮ってあげてから聞いてみた。
「いいえ、ポーランドからです」
訛りが強いがチャーミングな英語で答えた。70年代と言えば、ベトナム戦争があり、冷戦時代だから、共産圏から出てこられないのではないかと思うが、チェコからの留学生夫婦がテラスにも住んでいたから、可能だったのだろう。
「代りに、一枚撮ってあげます」
そう言って、私のカメラを手に取った。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。