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ミネソタの秋

  夏の間は『夏時間』になる。日本でも終戦後、夏時間を採用したことがある。でも、長続きしなかった。緯度だけの問題ではないだろう。北海道で『夏時間』が試されたが、時差がない国だから、夏時間の1時間の時間差が他県では認められなかったのか、その後は駄目になったようだ。アメリカでは夏時間のことを"Daylight Saving Time"と呼び、昼間の太陽があたる時間を長くすることで、屋外活動を奨励している。室内型の日本人には向かない制度かも知れない。アメリカでも南部は日本と緯度に大差がない。文化の違いが大きせいだろう。

  今では、ヨーロッパやアメリカではお馴染みの時間である。これが始まると、ミネソタみたいに北に位置する州では、夜は10時頃にならないと日が暮れない。北欧みたいに緯度が高くないから白夜にはならない。しかし、最初は奇異に感じたものだ。9時を過ぎても、戸外で遊んでいる子供達の大声が聞こえて来るからだ。

  サラリーマンにも夏時間はメリットがある。ミネソタの会社はいずれも、朝は早く始まって、夕方は早く終る。退社時間は4時頃だが、夏時間で1時間進めるから、実際は3時である。日本みたいに訳もなく惰性で残業したり、仕事の後一杯飲みに行く習慣はない。その代り、4時に会社を終えたら、ゴルフ好きは、ゴルフ場に直行し、18ホール廻る。5時頃から8時か9時頃まで1ラウンドプレーする。ミネソタは冬が長いから、7ヶ月くらいしかゴルフシーズンがない。ところが、夏時間のお陰で、年間200ラウンド以上をこなす者も現れる。

  かって3Mの役員をしたことがあるL・Eさんも、そんな1人である。まだ部長だった頃、仕事の忙しくない日は、仕事を終えてゴルフ場にかよい、一挙に腕を上げてしまった。アメリカのゴルフダイジェスト誌の年間特集版に、各州の最も上達したアマチュア・ゴルファーというカテゴリーがあったが、彼はミネソタで最も上達したゴルファーの1人に名前が上がったのである。これも夏時間のお陰である。夏時間は彼等の生活のリズムとして定着しているが、日本では地理状況や生活習慣が違うから上手く行かないだろう。とにかく、戸外型であることが前提条件で、屋内型の日本人にはリズムを壊す何ものでもない。

  秋は北海道よりも少し早く訪れる。阿寒あたりの紅葉の見頃は10月の中旬だが、ミネソタでは10月の初旬には森の木々が色着き始める。紅葉と言えば、東部のニューイングランドが有名だ。カナダのオタワの紅葉街道なども素晴らしいだろう。なにせカナダの国旗には紅い楓の葉が描かれているくらいだから。葉が紅くなるには、木の種類に負う所が大きい。メープルなどの木が沢山あり、メープルシロップがとれる地域の紅葉は鮮やかである。ミネソタの紅葉はどちらかというと、葉が赤くならないで、黄色くなるのである。カエデもることはあるがブナやカシが多いのか、まさに黄葉や褐葉である。

  しかし、一面に黄色くなる光景は見事である。空と湖と芝生と黄葉。これに降り注ぐ太陽の光。芝生も日本のように夏芝ではなく、冬用の芝だから一年中青々としている。更に、空気の色が違う。『空気の色』?と不思議に思うだろうが、ここの秋の空気には独特の効果がある。まず、精神を落着ける効果がある。北国で雪国なのに、空気に温暖系の透明感がある。空気に静寂さがあり、空気にやわらかさがある。空気の色とは光りや塵の色である。光が柔らかく優しいのだ。空気の存在を感じるのだ。ゆっくりと呼吸する。身体を包み込む感じだ。身体に優しい。カラーフイルムの発色がアメリカ製と日本製では異なる。アメリカのは暖色系で落着いている。日本のは鮮やかだが、寒色系である。ラテン・アメリカやアフリカなど南の国の方が色は鮮やかで原色系に近い。これは好みの問題ではなく、自然の色を反映しているに過ぎない。北緯四43度から45度以北では、木々の緑が柔らかいのだ。それは落葉樹だけでなくて、針葉樹の色も南に比べると淡い色合いである。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探して旅をするブログ手記です。