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車種はマーキュリー
とにかく、免許証は取れた。1週間くらいすると、運転免許証が郵送されて来た。今度は自動車保険に入らなければならない。保険は何処の会社いいのだろうか。ブルースは候補に2〜3社挙げた。その中から、中西部やミネソタでは比較的ポピュラーなステート・ファームという会社に加入ることにした。会社に電話すると、次の日にその代理店のセールスマンが訪ねて来た。当時から、アメリカでは事故の確率が高い地域、例えば、ニューヨークなどの都市部は料率が高いし、年齢が低ければそれだけ高い、という風に保険料が決まっていた。運転免許証もアメリカのものと外国のものでは、料率が違っていた。
マーキュリーの66年型を1971年に購入したのだから、5年経過の中古車なのだが、フェンダーに錆があって、もう10年以上も経った車にしか見えない。エンジンは3,000CC以上あるのだが、重量は1トン以上あり、アクセルを踏んでも加速が悪い。但し、燃費は10キロ以上あった。燃費を気にする時代が始まったばかりのアメリカでは結構いい買い物である。とにかく、燃費が極端に悪いために、中古車になると値段が低くなる車種がある。
日本人留学生の I さんが、5年もののキャデラックを450ドルで買った。パワーステアリングだけでなく、パワーウインドーがついていてこの値段である。まさに夢のような車だ。外観も素晴らしい。ところが、彼は歎いている。
「買ってしまってから気がついたんだが、リッターで1キロしか走らないのさ。ガソリン代がたまらないよ」
結局、このキャデラックは手放したそうだ。一方、当時、燃費がいい車の代名詞がフォルクス・ワーゲンだった。中古市場には滅多に出ないのだけれど、修理工場などに置いてある。値段は幾らなのか訊いてみた。10年も経っているのに900ドル以下では売らないという。ブルースから借りたオペルの燃費もリッター12キロくらいあった。一度、大学の駐車場で車に乗ろうとしていたら、中年の男性から燃費のことを聞かれたが、オペルは8マイルくらいと言ったら、素晴らしいと言って感心していた。
私のマーキュリーは加速が悪いという以外に、一つ大きな欠点があった。それは雨が続いた日には、エンジンが掛らないのである。電気系統がおかしいのだが、行きつけのサービス・ステーションでも判らない。但し、厳寒のミネソタでは有り難いことがあった。真冬の朝など、気温が零下25度にもなる。ミネソタでは冬の間、電気コードを引いてエンジンをヒーターで温める。温める方法はオイルパンの下にヒーターを取り付けるやり方と、冷却水にヒーターを突っ込むやり方がある。
ある冬の朝、隣のエーロンがドアをノックする。
「車のエンジンがかからないんだよ」
エーロンの車はオイルパン・ヒートの方式で一晩中温めているのだが、朝になってエンジンが掛らないという。ジャンパーケーブルを首に下げってドアのところに立っている。
「エーロンの車が掛らないなら、うちのはヒターなしだし、駄目に決まっていると思うけれど、やるだけやってみよう」
駐車場へ行き、ジャンパーケーブルを繋いだ。マーキュリーのイグニッションを回すと、セルモーターがゴロゴロと鈍く唸っていたが、一瞬エンジンがかかり、そのうちブルンブルンとエーロンの車のエンジンも動き出した。エーロンは感謝して出かけていった。冬は乾燥しているから、電気系統に異常が起きないのだと思う。
ただ、冬に一度だけ、この車のエンジンが掛らなかったことがる。零下30度以下に気温が下がったある夕方、ニューヨークへ行くために、空港まで出かけようと車のエンジンを掛けたがどうしても掛らない、仕方がないので、例の日本の化学会社から来ているNさんの新車のフォルクスワーゲンで空港まで送ってもらった。ワーゲンは空冷だから寒さに強い。
我らの愛車のナンバープレートの表示を見ると;
10,000 LAKES 72
MDC 186
19 MINNESOTA 71
であった。MDC 186だけは覚えておく必要がある。
それから、アメリカでは州によってナンバー・プレートのデザインが違う。サイズは決まっているが、前方のプレートは自動車オーナーの好みのデザインに出来る。また、州によって異なるかもしれないが、後部のプレートだけは義務化されている。