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運転免許取得

  車を買ったら、運転免許証を取らねばならない。日本の免許証は持っているが、国際免許証は1年で切れる。保険に入る時に、保険の販売員から聞いたのだが、国際免許が切れても、日本の運転免許証は有効なのだと言う。全米で有効なのか、一部の州でのみ有効なのかは判らないが、ミネソタでは大丈夫だと言う。
  現に、ヴェネズエラから来ているホルヘなどはヴェネズエラの免許証を使っている。ただし、当然だがスペイン語で記載されているから、年代や数字なども算用数字を使用してあるし、アルファベットで全が書かれているから、アメリカの警官でも判別は可能だ。日本の免許証は漢字と、算用数字を使っていても年号が「昭和」を使っているから、外国に出たら現地の警官には全く判らないだろう。それでも取り決め上、日本の免許証でも通用したのである。
  日本の免許証が有効とはいえ、しかし・・・、である。アメリカの運転免許証を取るのにこしたことはない。まず、セントポールのダウンタウンにある試験場で法規の筆記テストを受けなければならない。ビル街にある小さな一室が試験場になっている。日本の試験場のあわただしい様子しか知らないから、こんな喫茶店みたいな一室が法規の試験場だとは想像もしなかった。受験者は私の他に一人、インド人風の男性がいるだけだ。申込をして、席に着いて待っていると、係官が答案用紙を2部渡してくれる。
「時間は気にしなくていいよ」
そう言って戻っていった。
マルチプル・チョイスだから、各問ごとに正解を○で囲んでゆく。1時間程で出来たので、係官に渡す。
「少し待っていなさい。いま点数を計算するから」
何やら定規のようなものをあてがっている。
「ほら、95点だから合格だ」
5分もしない内にそう告げてくれる。だが、それだけでは帰してくれない。
「間違った問題の正解を理解しておかないと」
そう言って、間違いを指摘する。
問題はこうだ。
「時速60マイルの規制標識が立っている道では、60マイルまでスピードを上げることが出来る」
  確かに、一度、田舎の2車線の道で60マイルの速度規制の標識を見たことがある。高速道路でもフリーウエイでもない、車のほとんど通らないただの田舎の道で、標識を見た瞬間ドキッとしたものである。60マイルといえば、時速100キロ近い。まあ、それは例外として、60マイルで走れる道と言えば、高速道路と解釈してもいいだろう。 答えは、『60マイルでは走ってはいけない』である。これに対して、私は係官に食って掛かった。
「これは日本の警察が出すトリッキーな問題と同じです。天候による異変とか、自然災害とかの場合を想定しているのだろうが、特にそのための特別な規制が出ていなければ、可能性として60マイルまでは運転者の判断にまかせるべきだと思う。勿論、霧で10ヤードしか視界がない時に、私なら60マイルでは運転しないけれどね。もし、出題するなら、条件を示すべきです」
「これは間違っていない」
係官は毅然として答える。法規はパスしたのだから、1問の間違えのためにとやかく論議することでもない。それに、議論をしても欧米では責任(アカウンタビリティ)が明確に分かれている。係官には問題の答えが○か×かの判定だけしか権限が無い。問題の出し方など権限外なのである。
  法規をパスすると、運転免許証を持った人を助手席に座らせて、公道で運転の練習が出来る。コモンウエルズ・テラスに日本の化学会社から来ていたNさんの奥さんが運転免許証を取ると言うので、私の経験からいろいろ教えてあげた。後で聞いた話しだが、この奥さんの経験談が参考になると思う。
  法規の試験では、英和辞書とお弁当をもって朝一番に試験場に乗り込んだそうだ。
「辞書は使って宜しいですか」
係官にまず訊いたそうだ。
そうしたら、彼はその辞書をパラパラとめくった。
「OKだよ」
「これは昼のお弁当ですけれど、ここで食べていいですか」
次にお弁当を出して訊いた。彼はお弁当の包みをあけ、昼食だと確認して、答えてくれたそうだ。
「OK、食べていいよ」
「時間には制限ありませんね。今日は試験場が閉まるまでここに居てもいいですね」
更に彼女は訊いた。
「勿論だよ」
そこで、お昼になると弁当をいただき、答案用紙と格闘すること6時間あまりで、試験場が閉まる前に出ることが出来た。勿論、合格である。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。