052

スペリオル湖

  街を通り抜けて反対側の湖畔に行ってみることにした。この湖は巨大で少しばかり走ったところでどうにもならない。湖は長さが613キロ、幅が256キロあり、平均の水深が146メートルある。面積は8万平方キロで、周囲は4,480キロもある。5つの湖を合計すると、その面積は24万4千平方キロになる。

  ドゥルースの街の20キロくらい北まで車を走らせて、諦らめてしまった。これ以上行くと道路が湖畔から離れて行く。そのまま行くとグランド・ポータージュというカナダとの国境の町、昔は狩猟者の集会所のあった町に着くが、いまは一帯がインデアンのリザベーションになっている。途中で諦らめて湖畔に降りて行く。とにかく、広い湖だ。日本でいうなら関東と中部が入ってしまうのではないか。湖というよりは海である。ただ、水が淡水なだけだ。鉄鉱石を積んだ大きな船が黒い船影を見せながら、遥か沖を進んでいる。動いているの動いていないのか判らないくらいに、ゆっくりと遠くに離れてゆく。年に2度ほど日本からも2万トン級の貨物船が入港するという。だから、船でもミネソタに来られるのだ。そう話して聞かせてくれた人は荷物を日本からドゥルースまで船便で送ったそうだ。

  ミネソタは穀物中心の農業の州と思って来たがそうではない。この北の地域からは鉄鉱石が盛んに採掘される。掘り出された鉄鉱石は東部の工業地帯に船で運ばれる。勿論、穀物も船で運ばれる。スペリオル湖は大西洋につながっている。このルートは1959年アメリカとカナダの協力で完成した。
  ちなみに五大湖をドゥルースから船でセントローレンス川経由で大西洋まで行くと仮定しよう。スペリオル湖を90マイルくらい、ウイスコンシン州を通過して東に進むとミシガン州だ。ミシガン湖は五大湖につながっているが、大西洋に出るにはここを通らない。スペリオル湖から、直ぐに、ヒューロン湖に出るが、スー・セント・マリーとうい狭い水路を通り抜けなければならない。ヒューロン湖を南下してデトロイト市を通過し、今度はウィンザー市のあたりでまた狭くなり、ここを通ってエリー湖に入る。ここはカナダが最も南に入り込んだところだ。

  後年、私が日本で再就職してからの話しになるが、ある年の正月の3日にセントポールで会議があった時に、カナダから来たマネジャーに会った。
「北国から来ると、セントポールも温かいでしょう」
冷やかし半分で彼に言った。
「いやいや、セントポールの方が寒いよ。第一、カナダの支社があるロンドンの町はセントポールよりもずっと南だからね」
ホテルに帰って地図を調べてみたら確かに彼は正しかった。ロンドン市はウィンザー市の少し北で、緯度はほぼミルオーキーくらいだ。

  ウィンザーの町を通り過ぎて、エリー湖を東に横断する。そうすると、バッファローというナイアガラの滝で有名な所にやってくる。ここも狭い水路になっていて、この水路を通過すると最後のオンタリオ湖に到達する。更に、オンタリオ湖を東に向けて横断するとセントローレンス川に入る。セントローレンス川は大半がカナダの領域だ。五大湖もミシガン湖を除いて、4大湖の半分はカナダの領域である。
  セントローレンス川を東に進むと、フランス人が開いたモントリオールがあり、大西洋の河口に向かって、フランス語圏のケベック・シティーがある。大西洋に出るまでドゥルースから3,780キロに及ぶ水路だ。

  大西洋に出ると、今度は南下してカリブ海を抜け、南米のパナマまで行き、パナマ運河を通って太平洋に出る。後は太平洋を横断して日本に到着する。こんな大変なことまでして、船で往復する価値があるのだろうか。アメリカ大陸は、西海岸まで鉄道を利用して、そこから船で日本へ輸送する方が時間も短く、費用も安いのではないかと思う。私達の大きな別便の荷物はそうやって送ってもらった。しかし、鉄鉱石となると、汽車で運んだり、船への荷の積み替えたりなど、とてつもなく大変だ。それなら航路は長くとも直行便の方が有利だ。

  スペリオル湖は前にも言った通り、とにかく広い。対岸が全く見えないのである。海でないかと疑うほどで、手を水に入れて、少々汚いが濡れた手を舐めてみた。勿論、淡水だが、鉄が錆びた味がする。ここから陸づたいにカナダに行くには、湖畔の道を150マイルほど北東へ行かなければならない。地図を見ると近いようだが、行って見るには遠いし、特別、変わった所がある訳でもない。カナダは、観光的には、ロッキー山脈からトロントまでが空白地帯だ。ブルースの親戚がカナダに住んでいるので、よく行くのだそうである。ノースダコタと国境を接しているサスカチャン州なのだが、車で国境を越える時には、パスポートを提示しなくともいい。米加間で取り決めがあるそうで、勿論、アメリカ人とカナダ人にしか適用されない。自由に往来できるから、ツインシティでも自動販売機から釣り銭にカナダの10セントが混じっていることがある。最初は驚いたが、細かいことを言わないでも、自動販売機では通用するのである。別に、変造コインという訳でもないし、カナダのコインもアメリカのコインも値打ちは殆ど変わらない。


HOME

前頁へ 次頁へ


”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。