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夏の水場

  前述のアドバイザーをしていたモランさんの家がミネアポリスの西にあるレーク・ファーレンという細長い湖の岸辺にあった。夏の天気のいい午後に、3人で一度お邪魔したことがある。2階建ての家で、ガラス張りのペーショ(パティオ)があって、洒落た構造になっており、バス・トイレが各部屋についていて、ヨーロッパ風の作りである。家から眺める湖の景色もなかなか素適だ。モランさの家は湖の西側にあり、泳ぐのは東側のビーチだ。
  その他、セントポールのコモ湖から3キロほど北東に行ったところに、マッカロンズ・レークというコモ湖の半分くらいの湖がある。この湖には公園が隣接しており、夏になると若い人や学生達が水着で芝生に横になって甲羅干しする。ここは泳ぐというよりも、甲羅干しをする人達で溢れんばかりになる。樹木がたくさん茂っており、日陰で息う人も大勢居る。
  また夏のある日は、ママと3人でセント・クロイクス川に出かけた。今度は中古のマーキュリーである。前にノッコの弟夫婦と一度行ったことがあるテイラーズ・フォールを訪れ、セント・クロイクス川に沿って戻ってくる。セント・クロイクス川はスペリオル湖の近くを水源とし、セントポールの東南でミシシッピ川に合流する短い川だが、滝があったり、渓流があったり、ゆったり流れて湖のようであったり、場所により景観が変わり、川の流れにも変化があり楽しい。
  更に、セント・クロイクス川を下流に行き、ウィリアム・オブライエン・ステートパークまで来ると、水は湖のように満々と満ち溢れている。ウィリアム・オブライエン・ステートパークはセント・クロイクス川の中でも、川幅が広く、ゆったりと流れ、浅瀬になっている。川岸は緑が豊かで、暑くなってくると、木陰に入って休憩ができる。リクリエーション施設が整っており、ハイキングに来るには最適の場所である。ここでも、水着は持ってこなかったものの、ジーンズのショートパンツでチャオと水泳を楽しんだ。周囲は濃い緑で、さんさんと夏の太陽が降り注ぐ。健康的ことこの上ない。沢山の人達が水泳をしたり、野外バーベキューを楽しんだりしている。
  ある日、ブルースとロイスに連れられてスティルウオーターという町に行った。その後何度も行ったが、初めて訪れた時は、まるで廃村のようでゴーストタウンかと思ったほどの見捨てられた所だった。スティルウオーターはミネソタでも最も古い町の一つなのだが、私のかすかな記憶では、西部開拓時代の悪党どもが収容された古い牢獄町というイメージがあったが、もともとは林業で開けた町である。
  この町もセント・クロイクス川に臨む小高い丘を背にして川沿いに出来た小さな町だ。現在では、ツインシティのメトロポリタンの一部に成ってしまい、郊外住宅地の様相を呈しているが、1970年頃はメインストリートの商店は空き家が多く、暗くて、廃虚同然の町だった。確か訪れたのは春が終り、夏が始まっていた頃だったと思う。川下の方から町に入り、そのまま200メートルくらい進むと町は終ってしまう。ここの一番いいところは、セント・クロイクス川の景観にあるだろう。この辺りは川幅も広く、水はゆったりと豊富に流れる。川の上手にある古い鉄橋がまた素晴らしい。この橋は中央部分が上下する可動橋で、かなり大きな船が通れる。昔から外輪船などが通っていたのだろう。可動部分はゆっくりと上下する。船がまたゆっくりとその下をくぐって行く。再び橋が通れるようになるまでかなりの時間がかかる。昔は橋を渡ってミネソタとウイスコンシンを行き来する車は少なかったのだろう。だが今では、こんな非能率的な橋を壊して、新しい橋を建てるべきだという声がだんだん大きくなっている。
  1980年代のリストアーブームで町は再生され、現在、ここを訪れる人は結構多い。また、それは大変に楽しい経験になる。茶色に塗られた店が多い商店街はすっかり様変わりしてしまった。みな明るくて、生き生きとして、店先を覗き覗きながら、歩いている人々が多い。1970年頃からある町の喫茶店に座ると、セント・クロイクス川が見える。当時はここの喫茶店だけが不思議と新しかった。今では、休みの日には大勢の人達が川岸に腰掛けて、セント・クロイクス川に架かる鉄橋が上がり、外輪船が通るのを楽しそうに眺めている。町がすっかり蘇った感じである。今でもショーボートのような外輪船が観光用に使われているのだ。
  ここの町には、不似合いなというと語弊があるが、ロウウェル・インという19世紀の終りに開設されたホテルがある。このホテルとレストランはミネソタでは有名で、特にレストランは20世紀初頭のクラッシクな雰囲気をただよわしている。1986年に、ブルースとロイスを連れ立って、ノッコと4人で訪れたことがあるが、大変にアットホームで落着く場所だ。ウェイトレスがフリルのついたメード服を着て、腰を折ってお辞儀をする様子は今時のレストランでは見られない。料理もミネソタにしては美味しい。但し、カードが使えないから事前にキャッシュの用意が必要だ。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。