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湖で泳ぐ

  今の子供は、知識はあるが知恵がないといわれている。私もそう思うが、これは親の責任だと思う。会社で流行したTQCなども知識より知恵の世界であろう。先ず、自分でやってみるというのが、第一なのだが、特に父親は仕事が忙しくて子供に教える閑がない。例えば、自転車のタイヤがパンクしたとしよう。普通の家庭では、自転車屋さんに持って行くのが当たり前になってしまった。多少面倒でも、バケツに水を張り、ゴム糊と紙やすりとゴムのパッチを用意すれば、自分でパンクぐらい直せる。お父さんがタイヤを外し、チューブを取り出して水に浸し、パンクしたところからブクブクと沫が出てくる様子を、子供は真剣に興味深げに見ている。お父さんにもこんなことが出来るだと子供達は見直すだろう。但し、子供が10才くらいまでの話しだが。今はそれ以上になると、知恵を刺激しても反応しなくなり、知識優先になって来るので駄目だ。
  近くに住んでいるアイルラドから来た留学生の息子でショーンというチャオと同じクラスの子供がいた。子供のくせに妙に気取って本音を吐かない子供で、余りチャオとは遊んでいなかった。ある日、チャオがショーンのパパと3人で水泳に行くと言い出した。全然泳げないので、学校の友達とはいえ、見ず知らずの親に子供を預ける訳にゆかないから、私も一緒に同行することにした。ショーンの家はオマリーといって、父親は体格がよく、口の周りに髭をはやし、動きもゆっくりとして、何処となくアイルランドの木こりといった風情だった。性格は温厚で優しい人だった。このお父さんで、どうしてショーンみたいな気取った子供になったのか不思議なくらいだった。多分ショーンはすごく寂しがりやなのだと思う。
  オマリーさんのワゴンで4人は出かけた。コモ通りから、スネリング通りに出て、ターゲットやローズヴィルのショッピング・センターの前を通過する。アーデン・ヒルズという地区にレーク・ジョアンナという湖がある。大きさは直径が1.6キロほどで、ツインシティでは標準的な大きさの湖である。コモンウエルズ・テラスから車で15分ほどの所だが、まるで静かな保養地みたいだ。北側に公園があり、湖の南側には神学校がある。まわりは森になっており、湖の向こう側に神学校の洒落た黄色の塔が見える。湖の水は殆ど汚れがなくてきれいだ。底は泥が堆積しているのかと思ったが、きれいな砂が一面に見える。水着を着たままやって来たので、上着を取ったら、もう泳ぐ準備完了である。水温は25度くらいある。チャオは両手を上げって、そろそろと水の中へ進む。不思議と、泳げない人は両手を上げるものだ。天気は最高によい。さんさんと降り注ぐ太陽光線を浴びながら、久し振りに水の感触を楽しんだ。
「これ!なに?」
突然、チャオが叫んだ。
「どうした?」
「何かが足を突つくんだよ」
「えっ?」
目を凝らして水の中を見た。
「魚がいる!ほら見てごらん」
「あー、いるいる、沢山いるよ」
「魚がいますね」
近くにいたショーンのパパに言った。
「サンフィッシュでしょう。ミネソタの湖には結構いるようです」
6〜7センチくらいの小型の魚である。魚は見えていても、簡単には素手で捕まらない。岸に上がって一休みする。我々以外にも大勢の人達が遠くで泳いでる。お昼になって、持参のサンドイッチを食べて、また元気に泳ぐ、楽しい一日だった。帰りは、生乾きの水着のまま車に乗って帰宅した。
  ツインシティにはまだ泳げる湖が幾つかあった。街の北にあるホワイト・ベアー・レークは大きな湖だ。数隻のヨットが白い帆に風を受けながらセールしている光景は素晴らしい。岸辺には沢山の人達が泳いでいる。水が比較的綺麗なことが泳げる条件だ。この湖の周りには民家が殆どないのがいい。3人で夏休みに2度ばかり訪れたが、景色も木々の緑が夏の青空にはえて、風も爽やかで気持がいい。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。