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語学の授業と聴講

  2年目に入ったある日、新しく交代した大学のフォーレン・スチューデント・アドバイザーと話をしていた。
「奥さんは毎日何をして過しているのですか」
アドバイザーが訊いた。
「特に何もしていないようです。子供を学校にやると、後は、家でフランス語の勉強を1人でやっているようです」
「フランス語が得意なのですか」
「まあ、大学は仏文でしたから」
「それはもったいないですね。主人が大学に通っていれば、奥さんはクラスを聴講できますよ」
「聴講ってそんなに簡単なのですか」
「ええ、クラスを聴講するのに正式な手続きは要らないのです。それに試験も受けなくていいのです」
「勿論、聴講する教授のOKが必要ですよね」
「私の方からフランス語の教授に連絡しておきましょう。クラスはどれがいいですか」
「上級だと思いますが。とりあえず、中級から始めてはどうかと思います」
「それでは来週の授業の時にクラスに行って教授と話して下さい」
  帰宅して、ノッコに聴講のことを告げたら、彼女は大喜びだった。ここのコモ通りに語学学校があって、向いのアントニエッタが英語の勉強に通っている。ノッコもフランス語の勉強に通っていた。途中から入ったので、テキストがないとのことで、チェコから来てテラスに住んでいた女性に見せてもらっていた。KTCATVという教育番組のスタジオがコモ通りにある。学校もその手前なので、歩いて行ける距離だが、時々私が車で迎えに行っていた。
  ミネアポリス・キャンパスの学バス乗り場の前にジョーンズ・ホールという建物がある。次の週そこへノッコと出かけた。クラスの入り口で、授業の終るのを待っていていた。ジョーンズ・ホールは小さなレンガ造りの古いホールで薄暗かった。出て来たのは中年のほっそりとした男性教授だった。来訪の理由を述べた。
「あなたのことは聞いています。OKですよ」
あっさりそう言って微笑んだ。
「次の授業からクラスに来なさい。テキストはこの本です」
そう言って英語版のフランス語の本を見せてくれた。
「大学のブックストアーで売っています」
そう言って去っていった。
  さあ、奥さんも非公式ながらミネソタ大学の学生になった。学生証はないけれど、そんなのは構わない。次の週から、毎週、ジョンストン・ホール通いが始まった。私は、聴講をしたことがないので様子が実際のころ分からない。
「黙って、座って聞いているだけなの。質問したり、話しに入ったりするのは、自由みたい。でも、今のところ、ささないで下さいって言ってあるから」
「日本の授業と変わらないのかい」
「英語だから大変。頭のなかはフランス語と英語と日本語でいっぱい。別に、難しくないのにね」
授業料を払っていないからといって、差別はされないらしい。試験を受けなくてもよいし、宿題もしてこなくてもよい。でも、クラスではさされることもあるし、質問してもよい。でも、折角聴講できたのだから、少しでも無駄にしないように勉強しなければいけないと、かなり本気で取り組んでいたようだ。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。