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大学とその周辺

  日本の大学もヨーロッパ大陸の大学も大半は都会にある。イギリスとアメリカは殆ど郊外というか田舎にある。ケンブリッジしかり、オックスフォードしかり、ハーバードもやはりボストンの郊外のケンブリッジにある。ミネソタ大学はツインシティにあり、都市部にキャンパスを持っているが、ここには独特の大学町がある。東部の名門校の大学町のように素適な町でも個性的な町でもないが、ミネソタ大学のミネアポリス・キャンパスに隣接してディンキー・タウンという小さな町がる。映画館、文房具店、食堂、アイスクリーム店、雑貨屋、ファストフード店、衣類店など結構この町でも用が足せる。東部の大学町に比べると貧弱だが、このディンキー・タウンでも学生は青春時代を謳歌していることには変わりないのである。
  後年、セントポールにある本社によく出張で訪れたが、ミネソタ大学出身の大勢の社員に出会った。50年代、60年代に卒業した者の多くが学生時代を懐かしそうに話してくれた。
「ディンキー・タウンの映画館のそばにアイスクリーム・ショップがあるだろう」
「ああ、あの白い建物ね」
「そう、昔も白塗りの建物でね、あのアイスクリーム・ショップでよくデートをして楽しんだものだよ」
「今の奥さんはそのデートの一人?」
「そうなんだ」
昔を懐かしむ微かな笑みが漏れる。
    ミネソタ大学のビジネススクールはミネアポリス・キャンパスのウェストバンクと称する地域にある。通学にはコモンウエルズ・テラスからスチューデント・センターまで10分くらい歩き、そこからインターキャンパス・バスに乗ってウェストバンクまで行く。
  当時、このウェストバンクにはビジネススクールの他に社会学部があり、ブレーゲンホールやアンダーソンホールなどの共通教室などがあった。その他、ウィルソン・ライブラリーという比較的新しい大学図書館があった。ここは私にとって一番落着く場所であった。イーストバンクにはウオルター・ライブラリーという図書館がある。入り口に列柱がある伝統的な建物で、内部も天井が高く、薄暗くて静かで、図書館らしい威厳を漂わせていた。
  ウェストバンクはイーストバンクより新しいから、各建造物は有機的に地下でつながっていて、モダンな造りになっている。ウィルソン・ライブラリーはウオルター・ライブラリーより天井が低く機能的に造られていて、私にはこの方が落着く。授業の合間に時間があるとウィルソン・ライブラリーによく入った。ビジネス関係や社会学などの図書が豊富だから、授業に必要な書籍は大抵見つかる。ここの大学の図書館全体で全米の大学図書館の14位、150万冊くらいある。
  当時、私はタバコを吸っていたから、図書館の喫煙室は有り難かった。禁煙時代の現在では多分取り払われているであろうが、当時は図書館の各階の西側にガラスで覆われた部屋があって、タバコを吸う学生はここで読書ができた。タバコに限らず、アメリカにはベンディング・マシンが外に無い。多分、ベンディング・マシン荒らしにあうからだろう。日本はベンディング・マシン天国で道路に溢れている。タバコやビールなどはもっと規制した方が若年層を護るためにも必要だろう。
  冬の日は、外は寒いし、クラスの合間が2時間くらいではバスに乗って家に戻ることも出来ず、図書館で読書をすることになる。喫煙コーナーには誰も居ない。当時、既に『喫煙の習慣を止めよう』という風潮が広まっていて、若者の喫煙率が少しずつ低下していた。だから、図書館にきてまでタバコを吸う者は少なかった。喫煙席の窓越しに外を眺めていると、突然、雪が降り出し、街も通りもみるみる真っ白になって行く。遠くのミネアポリスの街も雪に霞んでいる。図書館の中も静かだし、外も雪が降ると更に静かになる。札幌の雪景色を思い出す。何となくセンチメンタルになる時である。こうゆう時は、目の前の本から離れて、外を眺めていると、どんどん空想の世界に入ってしまう。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。