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初 雪

  11月の中旬に一通の手紙を受けとった。差出人はW. ネルソンとある。住所はブルーミントンのヴァレンタイン・テラス。地図を見るとミネアポリスの南で、空港のさらに南だ。車のない我々にはまるで縁のない地域だ。封を切ったら、中から手紙とサンクス・ギヴィング・デイへの招待状が出てきた。手紙には我々を知った経緯が簡単に書いてあった。ミネソタ・インターナショナル・センターのヒューセスさんの紹介らしい。ヨシコさんが我々の名前を知らせたらしい。ヒューセスさんには再三再四お世話になった。
  さて、11月27日の木曜日の朝がきた。サンクス・ギヴィング・デイだ。今日は祝日だから学校も休み。外では子供たちの大きな叫叫び声が聞こえる。何かと思ってブラインドを上げてビックリ。外は一面の銀世界だ。まだ雪が降り続くので、少し見通しが悪い。昨日まで緑だった芝生が雪で白く被われている。子供たちが歓声を上げながら雪だるまをこしらえている。
「チャオ、雪だ!」
寝室にいるチャオに叫んだ。
「わー、雪だ、雪だ」
まるで初めて雪を見た子供のようにはしゃいでいる。
「ママ、ぼくも外へ行くよ」
ママは慌ててチャオに青いジャンバーを着せ、赤いマフラーを首に巻き、手袋と雪靴を履かせた。チャオは待ちきれないように、あわただしく外へ飛び出していった。子供達の様子は部屋の窓から見ていた。ケヴンもステフィーもウイリアムも出てきて騒いでいる。そのうちジェフが加わって、甲高い声を上げている。
「あっ、ころんだ。大丈夫かな」
ママは心配しながら眺めている。
ミネソタでは11月の下旬に初雪が降る。それまでは、ちらりとも雪が降っていない。まさに突然降ってきたのだ。
  そういえば、札幌に転勤してノッコと一緒に住んでいた時期があった。ある11月の下旬に大雪が降った。朝起きて外へ出たら、遠くの山で何かが動くのが見えた。まさかと思って家に戻り、望遠鏡を取り出し、覗いてみたら動いているのはスキーヤーだった。直ぐに、スキーを用意して、ノッコと車で30分くらい走り、スキー場に急いだ。ブッシュ以外の斜面は雪で被われ、所々土が顔を出しているが結構滑れた。だから、札幌よりも遥かに北に位置するミネソタではもっと早くに冬が来てもおかしくない。
  そうこうしている内に、ルースが出てきた。プラスチックの橇を抱えている。ミネソタの家庭にはスキーがなくとも、大小を問わずプラスチックの橇は必ずある。うちのアパートの東側に小山があり、大きな樹が一本立っている。小山といっても滑り台に毛の生えたくらいの斜面だけれど、雪が降ると子供たちの格好の橇滑りコースとなる。ルースは子供たちをかわるがわる橇に乗せ斜面を滑らせる。その度に、子供の歓声が響き渡る。そのうち、橇が待てずに、そのままお尻で滑る子が出てきてみんなが真似をする。大雪といっても20センチほどだし、初雪だから水分を含んでいるので、間もなく子供たちは泥だらけになってしまった。
  11時頃、ネルソンさが車でやって来た。すらっと背が高く、物腰は静かである。
「雪が降ってしまって、車の運転が結構大変でしたよ」
そう言って穏やかに笑う。
  既に、道路は雪が解け始めて、泥んこ状態になっていた。ネルソンさんは雪靴を履いている。雪靴といっても、北海道などで履くものとは全く違う。日本の家のように靴を脱いで上がるという習慣がないから、いって見ればオーバーシューズなのである。今は日本でも雨の日などに、女性が革靴を雨から護るために履くやつと同じだ。ただ素材はビニールなどでなく、ゴムで出来た不細工なやつだ。我々はオーバーシューズなどないから、革靴が滑らないように歩くしかない。コモ通りを西に進んで、テイラーズ・フォールに行った時に通った280号線を今度は南にとり、インターステート94を更に西に進んで、35号線に入り南に真っ直ぐ進む。やや暫く走って、高速道路を出ると、ペン・レークという小さな湖があり、この近くにヴァレンタイン・テラスという場所があった。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。