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コモ・パーク

  ステートフェア・グラウンドを歩き切ると、そこにはスネリング通りという広い幹線道路がある。車がひっきりなしにこの道路を走っている。ここを渡ると、コモ・パークに通じるミッドウエイ・パークウェイ通りに入り、更に1キロくらい歩く。やっとコモ・パークに辿り着くが、湖までは更に1キロほど公園の中を歩かなければならない。公園の中の道は曲がりくねっており、起伏が大きいので、何処を歩いているのか、絶えず地図と道路を確認しながら歩く。
  ゴルフ場がある。驚いた。この頃私はまだゴルフをやっていなかった。公園にゴルフ場があって、しかも、フェンスも無い。ボールが飛んできたらどうするかぐらいは直ぐ理解できるが、米国のゴルフ場にはどこでも基本的にフェンスはない。ゴルファーの自主責任で行われているのだ。日本のような過剰保護の社会では考えられない。ゴルフ場の横を通り過ぎると、コモ湖が見えて来た。
  レークと呼ぶのには余りに小さい。周囲が3キロもないだろう。日本の湖を見慣れていると、『大きな池』と呼んだ方が当たっている。ミネソタは州の愛称とか標語を湖で表わしている。自動車のナンバープレートにも『Land of 10,000 Lakes』と記入されているほど湖の多い州で、フィンランドの18万ヶ所に及ばないが、1万以上は確実にあるらしい。湖といっても、氷河の爪痕だ。2万年前のコロンビア氷河期に氷河がミネソタまで南下して来た。1万年から1万5千年前に氷河が北へ後退していった後に、地面が氷河の重みで削り取られ、その跡に出来たのが湖だ。だから水深は比較的浅い。このコモ湖には周囲に遊歩道と車道があるが歩いて1周するには距離がある。最も低い所にコモ湖があって、向い側は一段高くなっている。樹木は殆どみな落葉樹で黄色く色づいて美しい。
  湖畔でお弁当を広げた。お弁当といっても、サンドイッチと水筒に入れたお茶だ。芝生の上で頬ばるサンドイッチは格別美味い。チャオは「暑い暑い」としきりに言うので、ママが両腕をたく上げてやる。「写真を撮るぞ」と言ってカメラを向けると、たくし上げた腕を組んで仁王立ちになった。湖面には水鳥がゆったりと水を切って泳いでいる。白いペリカンが5羽一団となって、目の前の水面をゆっくりと進む。
「ペリカンは温かい地方の鳥でないのかな」
寒い冬がやって来る前の、のどかな秋の一日である。湖のほとりに白い大きな建物が建っていて、夏の間は簡単なレストランになっているが、今は閉まっていて人気が無い。湖に向かってテラスが出ていて、今は貸しボートがロープに繋がれてそろそろ冬支度である。帰りは、来た道を引き返すしか方法が無かったが、チャオが元気なだけに楽しい一日だった。
  このコモ・パークには色々な施設があってその後もよく訪れた。その中で特に素晴らしいところといえば、『コンサーバトリー』と名づけられた温室がある。1913年に建てられたアルミのフレームにガラスをはめ込んだビクトリア・スタイルの白い大温室は小型のクリスタル・パレスのようで優雅でさえある。熱帯・亜熱帯の植物が整然と植えられている様子は見飽きない。
  それから、ここには動物園がある。もっと大きな動物園は別の場所にあるのだが、ここの動物園は子供向け専用で、飼っている動物はウサギとか、ロバのように触れられる動物が殆どで、海の動物にはアシカのようなものがいて、プールでは時々アシカのショーをやっていた。ミネソタは東京よりも自然が豊かだが、やはり触れる動物というのは貴重で、チャオなども興奮気味で動物と戯れていた。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。