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言葉について考える

  そこで、英語が少々わかるようになった頃、チャオに一度だけ教えた事がある。それは、英語の読み方だ。ローマ字に慣れていると、英語では発音方法と表記方法が少々違うことに気がつく。makeはローマ字式に読むと『マケ』となるが、英語では『メイク』と発音する。日本人は英字の細かい音の違いなど気にしないから、あえてこんなラフな方法で教えるのだ。平仮名は『読み書き算盤』の一つとして江戸時代から寺小屋などで教えていたくらいだ。漢字は大変だが、平仮名は五十音図で覚えてしまえば、後は実際に使える。アルファベットは平仮名とは違って、一字単位で音を表わし、同じ字でも英語では同じ音でない。初めて英語を習った時のことを思い出してみよう。ABC・・・の発音と実際の英語の発音には余り関連性がないように思えたし、なんでアルファベットを覚えるのか不思議でならなかった。Aでも発音は『ア』、『エ』、『エイ』などとさまざまである。母音は強弱で発音が異なる。子音についても、Cなどサ行とカ行の発音がある。特にヨーロッパ語族では英語の発音が難しい。
  チャオにとっては、耳から入って来た言葉と目からはいて来た言葉が一緒になれば、本から読みとる単語の語彙数が急激に増加する。makeの場合のように、基本的に、aの次の子音の後に母音が来たら、アとは発音しないで、エイと発音しなさい。aの次に子音が2つ重なったらその後に母音がきても、アと読みなさい。一見難しいようだが、チャオの場合、ある程度聞くことが出来るから、こうゆう法則を母音について教えるだけで効果は現れた。その後、何も教えなかったのだが、リーディングではクラスで2番目になったのだ。こうでもして、自信をつけるのが一番本人のためになる。自信が外国で生きて行くために、最も頼りになるのだ。
  読み方を家庭で教えるというのは、日本人(中国人や韓国人はどうかしらないが)の癖なのかもしれない。日本語は、仮名が表音文字でも、漢字は表意文字だから、文字と発音は一致しない。漢字は一字一字教えないと読めない。漢字を使っているのは中国と日本しかない。おまけに日本の漢字には音読み訓読みがあるし、同音異義語がやたらと多いから、中国人より大変だ。ヨーロッパ語ファミリーはアルファベットという細分化された最少単位の記号で言葉が出来ているから、アルファベット26文字(国によって違う)を覚え、実際に文字が読めるようになればそれ以上努力の必要ない。近所に住んでいた音楽学部の大学生でダンという男が、ある日、外で立ち話をしている時に訊いて来た。
「日本では、文字の読み方を中学でも教えるって聞いたけど、本当なの?」
「そんなことはないさ」
「そうだよね」
「日本ではね、高校の3年生まで、文字の読み方や書き方を教えるんだよ。だって、大学の入学試験に文字の読み方が出るんだからね」
「へー・・・」
後は声が出なかった。
「アメリカではいつまで教えるの?」
「アメリカではどんなに遅くとも、小学校の4年生までかな」
  意味を覚える努力が必要なのは英語も日本語も変わらない。読み方・書き方は桁違いに日本語が難しい。今の社会では、日本語が乱れているからといって、企業などで漢字のテストをして昇進を決めるという。大学入試どころか定年まで漢字のテストを受けなければならない。漢字検定のブームの影響だろうが、愚かしいことといわざるをえない。こんなのはただのクイズにしか過ぎないのに。
  日本では漢字を教えることイコール「国語」であると思っている。よりよい文章の書き方など、まともに教えない。漢字の羅列がよい文章だとする。子供が生まれて、名前をつける時、字(漢字)が全てで(かなでも受け付けられるが)、どう読むかは問題ではない。私の父の名前は「一」1字だが、読み方は「はじめ」や、「まこと」や、「いち」などとさまざまであった。現在の年金問題も突き詰めれば「どう読んでもかまわない」からきている。欧米の名前はキリスト教の天使か使徒か聖人に決まっているから数は少ない。これに反して日本語の名前は無数にあるように思えるが、読みにしてしまえばそんなに多くは無い。例えば「ひろこ」なら、コンピュータで変換しても10個の漢字が現れる。だが会話では「ひろこ」だけでつうじる。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。