013

ブリムホール小学校

  ファイフィールドに越してきてから、この周辺を散歩しているときにも、気になることは、チャオの幼稚園さがしであった。コモ通りに沿って坂をくだっていくと、ガルフのスタンドとスーパーレットのある交差点がある。そこから先はコモ通りが登り坂になる。暫く行くと左手にセント・アンソニー小学校というのがある。ここでセントポールの小学校のことを聞いてみた。対応に出てくれたのは年配の痩せた女性で、親切に教えてくれた。
「ファイフィールドにお住いなら、学区が違います。この学校は近いのですがね。しかし、ローズヴィルという地区にブリムホール・スクール(Brimhall School)というのがありますから、そちらに行って手続きをとって下さい」
  チャオが喋れる英語といえば、『マイ・ネーム・イズ・チャオ』と、どこで覚えたのか『駄目だ』とか『いやだ』とかを表現するのに『イト・イズ・ノット』と叫ぶことくらいだ。言葉のせいで学校嫌いにならないかが不安であった。
  ローズヴィルまでは歩いて行けないので、仕方なくキャシーに電話して相談する。ところで、電話だが、引っ越して直ぐに、キャシーに頼んで電話会社に連絡してもらい、電話をとりつけてもらった。いろいろ選択肢があって、一番安いのがパーティー・ラインといって共同で電話線を使うシステムだ。だから、受話器をとると時々老婆の話し声が聞こえる。いって見れば、『お話し中』だから、しばらくしてからかけ直す。この時は、相手の声からして老婆とパーティー・ラインを共有していたようだ。取付料に35ドルかかった。
  翌日、キャシーが車で駆け付けてくれた。車が無いとどこにも行けず、バスは決まった路線しか走らないからあてにならない。ローズヴィルといえば、前にキャシーが連れていってくれたスーパーのターゲットがある地区だ。ブリムホール小学校はターゲットの直ぐ近くにあった。平屋の赤レンガ建ての小学校に入ると、年配の女性の事務員と足の悪い校長先生が出迎えてくれた。名前と生年月日と住所と電話番号を訊かれる。
「今からクラスに行く?」
年配の女性がチャオにきいている。何でも簡単、民主的で、形式張らないところがとてもいいのだが、こちらも心の準備と覚悟が出来ていない。
「明日からにします」
といって帰ることにした。バス通学なのだが、付属の幼稚園は午前の部と午後の部が毎日交互にあるので時間に注意するようにと、コモンウェルズ・テラスの乗車場所を教えてもらって帰る。
「早く、明日にならないかなー」
帰ってくるとチャオはしきりにいっていたという。
  次の日は午後の部だった。ママの心配をよそに、チャオは楽しげにバスに乗っていった。学校でどうしているかママは心配だが、帰ってくるまでどうしようもない。とにかく、英語が喋れないので、意志の疎通も出来ないはずだ。アイロンがけも手につかずに時間を過している内に、いよいよチャオが帰ってきた。ニコニコ、うきうきで、まさにランランというところだが、帰ってくるなり興奮して言ったそうだ。
「すごく楽しかったよ。早く明日にならないかなー」
「言葉は通じたの?」
「うん、通じたよ」とけろっとしていたそうだ。
ママはこれで一安心だが、こんなにも早く新しい環境に適応できるものかなあ、と感心してしまったらしい。
  入学するのは簡単だが、一度歯医者に行って歯科検診をうけて来て下さいといわれた。歯科検診など、日本での小学校入学に必要だとは聞いていないが、アメリカでは必要なのだろうか。とにかく、大学の歯科学部に問い合わせた。「小学校に入学にするのに、歯の検診を受けるようにいわれたのだが」というと、簡単に予約をとってくれた。
  アメリカの学校制度は州によって違うし、同じ州でも学校によって異なる。日本で戦後採用された6・3・3制は、アメリカの制度だというが、一体全体、どこの州の制度で誰が持ち込んだのだろうか。ここミネソタでも幼稚園が公立の小学校に付属しているし、私学などでは12年生の制度もある。変わった所ではオープンスクールなどというのもある。一度、オープンスクール方式をとり入れている学校を、以前に先生をしていたという女性と一緒に見学に行ったことがある。校舎はクラスの壁がとり払われ、クラスのあった所に教壇というかセンターというか生徒が困った時に集まる場所がある。学年は年齢に応じて決まるのではなく、その子の進み具合で決まる。生徒は自主的に勉強することが求められる。イタリアのモンテソリーという教育者が唱えた教育方法を踏襲して行っているのだが、日本ではまづ普及しなだろう。


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”遠い夏に想いを”- Click here(ヴィオさんの旅行ブログ) も一読ください。
ミネソタ大学留学のあと、パリ大学の夏期講座に妻が受講するためパリへ飛び、3ヶ月滞在したときの思い出を探してのブログ手記です。