閉鎖循環と半閉鎖循環式吸入麻酔、低流量麻酔

 

   *4〜6 l/分の流量で半閉鎖循環式を維持するのはなぜか。

   *現在閉鎖循環吸入麻酔が行われていないのはなぜか。

   *低流量麻酔の利点と欠点

   *適正な流量とは

 

 循環式の呼吸回路を用いる吸入麻酔法では、呼気の再吸入が起こる。その際供給される新鮮ガスの流量によって、患者の吸入するガスの組成が変化する。

1 80%笑気と20%酸素を与えて、肺胞内酸素濃度を20%以下に低下させず、かつ炭酸ガスの蓄積を起こさないためには笑気毎分6 l,酸素毎分2 lを必要とする。 

2 半閉鎖式での回路内ガス組成を測定すると、麻酔器から供給されるガス濃度と回路内濃度は異なる。それは患者の呼気によって回路内ガス中の笑気濃度は上昇し、酸素濃度は低下し揮発性麻酔薬は希釈される。送入ガス量が少ないほどその影響は大きい。

その結果、患者が吸入しているガス濃度と供給濃度との差が大きいと麻酔深度判定が困難になるということから、できるだけ両者の濃度差を小さくするために総流量を少なくとも3 l以上にするのが常識となっていた。ガスモニタが普及した現在、回路内ガス濃度を直接知ることができるのでこの問題は解消した。

 吸気中ガス分圧を一定にして不活性ガスを吸入せしめた場合、肺胞ガス濃度は曲線を描く。initial rise は肺の洗い出しが優勢、tail は不活性ガスによって組織が次第に飽和されていく過程である。前者は血液/ガス分配係数、後者では組織/血液分配係数が、それぞれ大きな役割を果たしている。(最新麻酔科学 上p647)血液/ガス分配係数が0であれば、initial riseのみでtailは欠如する。逆に血中への溶解度が高い場合はinitial rise が欠如し、ほとんどすべてがtail に占められる。しかしこの意見には反論がある。(吸入麻酔薬の体内摂取に関する正しい考え方、臨床麻酔、1996、Vol.20、11)

3 笑気の低流量麻酔では、笑気と酸素の分時流量の和が小さいと徐々に吸気内の酸素濃度が低下する傾向にある。その理由は

 笑気濃度は50%、揮発性麻酔薬は1から2〜3%であるから、second gas effect 、concentrating effect の理論(導入時しかも高流量が条件)とは逆に、笑気血中濃度が平衡に達してからは肺胞壁からの酸素取り込み量よりも笑気の取り込み量が少ないことから、送入ガス量が少ないほど笑気濃度は次第に高くなる。また揮発性麻酔薬は低濃度で使用することとその溶解度係数が大きいことから、血中への取り込み量に対する供給量が少ないと、逆に吸気中濃度が低くなる。

4  50%以上の笑気を併用する閉鎖循環では、体内の窒素が数時間後になっても排出されているので回路内に窒素が蓄積され、その濃度が高くなり(20%にも達する)酸素欠乏の危険性が高まり麻酔を維持できなくなる。また、総流量のうち酸素は毎分約200〜250mlが必要であり、笑気は同量とすると総流量450〜500ml 、その結果閉鎖式は不可能になる。したがって間欠投与法になるので、現在ほとんど行われていない。

5 低流量法の利点は

  a 環境汚染の防止 b 経済性 c 回路内湿度の維持

 欠点は  

  a 導入時や麻酔深度変更時には大流量にしなければならない

  b 操作が煩雑

  c 回路内ガスの汚染の可能性 

  d ソーダライムとの化学反応   

6 低流量麻酔で留意するべき問題点

 a 低酸素症   笑気濃度が高くなる

 b 流量計および気化器の表示と回路内濃度が異なる

 c 麻酔深度の調節  うっかりすると麻酔が浅くなる

 d ventirator 使用時、機種によって回路内ガス濃度が変動する

 

7 吸入麻酔法の今後

 吸入麻酔法でのガス流量をどのようにするべきか。一部の人たちは関心を寄せているが低流量あるいは閉鎖式が一般化する状況とは見受けられない。

 適正なガス流量の基準として従来4〜6 l /分を全ての患者に投与してきた。どのような患者にも同じ流量つまり4〜6 l /分を用いるのが、どこの施設でも見られる。少なくとも成人も小児も同じ流量で維持することに矛盾を感じないのだろうか。 Nobember 1998