医師の守秘義務

 

 小渕総理が緊急入院された。その数日後には新しく森内閣が誕生した。

 424日、衆院予算委員会での質疑の中で元総理の病状についての質問があった。その際元総理の入院後の病状について主治医の説明を求める意見が出された。主治医を国会に参考人として喚問するよう要請したところ、「医師には守秘義務があり、プライバシーに関わる問題があるので小渕氏の病状を説明することは難しい」主旨の答弁があった。

 医師に科せられた「守秘義務」とは何であろうか。

 医師が診療上知り得たことは何事も全て漏らしてはならないのではなく、守秘義務の対象となるのは「他人の耳に広めてはならないこと」である。

 医師の守秘義務は法律によって規定されているものではなく、これを守らなくても法によって罰せられることもない。あくまでも医師としての基本的道徳律なのである。

All that may come to my knowledge in the exercise of my profession or outside of my profession or in daily commerce with men, which ought not to be spread abroad, I will keep secret and will never reveal. 

・・・私の仕事を通じて、あるいは仕事以外のときに、また日常の生活の中で知り得たことで他人の耳に広めてはならないことは、秘密を守り口外することは決してありません。・・・    Hippocratic Oath より抜粋」

 

 総理大臣は私人ではなく日本国の運命を左右する重要な地位であり、公人である。したがって一国の総理大臣の生命に関わる病状を説明する事は「他人、すなわち国民に知らせてはならないこと(which ought not to be spread abroad )」ではないどころか、総理大臣の主治医である医師には国民に対して積極的に説明する義務があると考えるべき事柄ではないか。それを「医師の守秘義務とプライバシー」を理由に医師でもない閣僚が難色を示すのでは、なにか裏があるのではと勘ぐられることにもなりかねない。

 医療に携わる我々は、日頃の診療のなかで正しく守秘義務を全うしているだろうか。反省しよう。                      

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