静脈麻酔


 麻酔の臨床では、新人たちはなんの疑問も抱かずに日常的に静脈麻酔を使用しているが、この静脈麻酔はいつ頃から臨床に登場したのだろうか・・
 静脈麻酔には注射器が必要である。そのガラスの注射器と針は1853年、PravazとAlexander Woodによって発明された。つまり、1853年以前には静脈麻酔も局所麻酔もなかったのである。
 現在広く使用されている主な静脈麻酔薬はバルビツレートである。しかし、静脈麻酔のために最初に使用された薬物はchloral hydrate 抱水クロラールであった。Bordeaux の生理学の教授Oreが動物に静注したのが1872年のことであった。しかし,抱水クロラールはその作用がおそく,かつ麻酔量と致死量が近いために広く用いられなかった。次いで 1905年hedonal(ウレタンの誘導体)が Krawkow, 1909年chloroformとether がBruckhardtによって静脈内投与に用いられた。
 ところで、最初のバルビツレートは1882年に合成され、1903年 Emil FischerとVon Mering によって紹介されたdiethyl barbituric acid であった。
 バルビツレートの中で静脈麻酔薬として広く使われたものがhexobarubitone で、1932年 Kropp により合成されWeeseとScharpff によって臨床に使用された。そして、現在、最も広く使われているpentothal sodium (thiopentone )は 1932年にVolwiler によって合成され、Mayo Clinic のLundy が1934年はじめて臨床に応用した。
 このpentothal sodium (ラボナール)が我が国においては、いつ頃から使用されるようになったのだろうか。
 1945年日本の敗戦によって戦争は終結、その後平和条約の締結の結果日本と米国との国際関係が正常に回復した。学術交流も盛んになり、thiopentone は1952年ラボナールとして発売された。
 その後、ラボナール静脈麻酔は簡便な麻酔法として広く臨床に、特に産婦人科の処置に利用された。しかし、多くの患者が静脈麻酔の犠牲になった。現在では、静脈麻酔といえども呼吸管理の万全を期するため、吸入麻酔器を備えることは常識となっている。