HIPPOCRATIC OATH 
-医学研究の目的-
 医学の父祖と仰がれるヒポクラテスの時代(紀元前4世紀)、医学を修めた者は医神に誓詞を述べて医業につく習わしがあった。それは医師たるものは徳義を重んじて病者のために、誠をもってその安寧をはかることを強調している。この誓詞は現在でも米国有数の医科大学の卒業式における誓いの言葉に採用されている。その究極の精神は患者の病気を治すことにあるのは言うまでもなかろう。この誓詞の英文では、医業あるいは医学を「 this art 」という言葉で表している。医学あるいは医業は art であり、 art の究極の姿は芸術とよばれるものである。

 英語で歯科医師のことを Dentist、 歯学士を D.D.S.、Doctor of Dental Surgery というが、Dentistは歯科学の学位を受け、歯科の仕事に携わる者を意味している。

 外科は、日本語では本道に対する外道の意味からきた言葉であるが、ギリシャ語の cheir = hand  + ergon = work からきた言葉が Chirurgie , Surgeryである。

 歯科医学は外科の1分野であり、歯科医師は dental surgeon である。つまり歯科医師は職人、hand worker であり、歯科医師免許は職人免許なのである。そして、臨床家として完成の域に近い歯科医師は芸術家 artistであり、外科医 surgeon = scientific artist は科学に裏打ちされた職人なのである。医学は 「Art and Science」である。

 病める患者を癒すことを最大究極の目的として、臨床医は日夜努力している。その臨床医を支える人達が基礎医学の研究者達であり、パラメデイカルの人達である。臨床家も基礎医学者も、そしてパラメデイカルの人達も共に生涯を通じて研鑽を重ねているのは、病める患者を癒すためである。

 職人の存在しない社会は成り立たないし、人々の生活は職人によって支えられている。歯科医師は、職人としての宿命から逃れることは許されない。ただ、病める患者のために努力するのみである。

HIPPOCRATIC  OATH

 ”私は医神 Apollo、AEsculapius、Hygeia、Panaceaに誓って、そしてすべての神、女神を証人として、自分の能力と判断に従い、以下の誓いを守る事を宣言します。”
 ”この Art(医術) を教えてくれたわが師を両親と同様大切な人として敬い、彼と同じように生き、必要があれば私の物をさしあげ、彼の子供達を我が兄弟と思い、もし彼らが望むならばこの Art を無償で契約書もなく教えることを。そして、私の息子達、私に この Art を教えてくれた人の息子達、さらに望んで弟子となった者達で医師としての規範を守る者のみに、この指針と教えを伝えることを誓います。私は自分の能力と判断によって患者のために養生法を指示し、何びとにも害になることは指示しません。死を招く薬を処方することも、死をもたらすような助言も、たとえ望まれても何びとにも指示しません。また、婦人には堕胎のためのペッサリーを与えることもしません。私は自分の人生と医術の清廉性を守ります。
 私は結石症と確定診断された患者であっても、切石手術をすることはありません。専門家が行うべきこの種の手術には一切手を出すことなく、専門家に任せます。どの患家を訪ねる場合でも、患者のためのみにしか門をくぐらず、意図的なすべての不正や誘惑から身を離し、特に女性あるいは男性との愛の快楽から、相手が自由人であれ奴隷であれ、堅く身を守ります。私の仕事を通じて、あるいは仕事以外のときに、また日常の生活のなかで知り得たことで他人の耳に広めてはならないことは、秘密を守り口外することは決してありません。私がこの誓詞を忠実に守るならば、私は自分の人生を楽しみ、そして全ての人たちから常に尊敬されるこの仕事を続けることができるでしよう。しかし、誓詞に反しそれを犯せば逆の運命が私にふりかかることでしょう。
訳 大澤 昭義

 Apollo アポロン 詩歌、音楽、予言、医術などを司る太陽神
 Aesculapius エスカラピアス  Apolloの息子、医師
 Hygeia  ヒギエイア    Aesculapius の娘、健康の女神
 Panacea  パナーセアHygeia と姉妹、ギリシャ治療の女神
    因みにApollonia アポロニアは歯科の守護神、。最初に歯を折られ迫害され、  ついに AD 249年火あぶりに処せられたキリスト教の殉教者。彼女の祭りは 2月 9日。
 

医師倫理綱領宣誓要点

 1 自己が受けた教えは、全て他の人にも教え、共に医学研究に従事する
 2 患者の治療に誠をもって全力を尽くす
 3 安楽死を否定する
 4 堕胎を否定する
 5 医師としての清廉性を堅持する
 6 自分の専門分野を守る
 7 あらゆる社会的誘惑から身を守る
 8 職業上知り得たことは口外しない
 

"I swear by Apollo the physician, by Aesculapius, Hygeia, and Panacea, and I take to witness all the gods, all the goddesses, to keep according to my ability and my judgment the following Oath: "To consider dear to me as my parents him who taught me this art; to live in common with him and if necessary to share my goods with him; to look upon his children as my own brothers, to teach them this art if they so desire without fee or written promise; to impart in my sons and the sons of the master who taught me and the disciples who have enrolled themselves and have agreed to the rules of the profession, but to these alone, the precepts and the instruction. I will prescribe regimen for the good of my patients according to my ability and my judgment and never to harm to anyone. To please no one will I prescribe a deadly drug, nor give advice which may cause his death. Nor will I give a woman a pessary to procure abortion. But I will preserve the purity of my life and my art. I will not cut for stone, even for patients in whom the disease is manifest; I will leave this operation to be performed by practitioners ( specialists in art ). In every house where I come I will enter only for the good of my patients, keeping myself far from all intentional ill-doing and all seduction, and especially from the pleasures of love with women or with men, be they free or slaves. All that may come to my knowledge in the exercise of my profession or outside of my profession or in daily commerce with men, which ought not to be spread abroad, I will keep secret and will never reveal. If I keep this oath faithfully, may I enjoy my life and practice my art, respected by all men and in all times; but if I swerve from it or violate it, may the reverse be my lot.

June   1996