夏の夜の夢

折笠由利子


やさしい、やさしい風が吹き
そっと頬をなでたので
グロリアーナは目を覚ましました

夜でした
ほう、ほう、ほう
子守歌が聞こえます
涼しい緑のベッドから跳ね起きて
歌が聞こえる方へ行ってみましょう


見上げると
繁って揺れる枝葉に隠れて
月が恥ずかしそうに俯いています

子守歌は月とグロリアーナとの間から
ほう、ほう、ほう
聞こえてきます
そして真下に来たグロリアーナを
あたたかく逞しい誰かが迎えました


その人はじっと黙って
まだらな緑の地面に足を投げ出し
まるで眠っているかのようです

だけれど
投げ出された足を枕にして耳をあてると
緊張と安堵、濁流と清流、叫びとささやき
めくるめく旋律さえも伴って
まるで踊っているかのような鼓動が聞こえます


その鼓動する足を腕で包むようにして
グロリアーナは眠ります
「わたしのお父様、わたしの子、わたしの恋人」

グロリアーナがすっかり眠ってしまうまで
子守歌は聞こえていました
瑞々しい、あたたかな膝枕は
子守歌に合わせるように鼓動を繰り返し
グロリアーナの愛らしい寝息を聞いていました




目を覚ましてみると
グロリアーナは美しい青年期の森の中
微かにゆらめく蔭に包まれ
大きな木の根元に身を投げ出していました


子守歌は鈴の音にかわり
木はいとおしげに見下ろしていました

 

 

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