カナリアの歌

折笠由利子


今 あの木の深い蔭の中で
一枚の葉が風に煽られ舞うのを見たのです
ひらひら きらきら ひらひら きらきら…


そう言ってその鳥はしゃくり上げるのです
だからグロリアーナはこう言います


それならば
あなたも一緒に舞ってみればいいでしょう
その上あなたは翼を持っているから
自由気ままに閃くことができるはずです


鳥はその細い首を震わせ
なおも泣きながら言うのです


舞う葉はあの美しい木の子供
私はついさっきまで小さな籠の中に飼われていた鳥
一緒に舞い踊ろうとは思いません


それならどうして泣くのでしょう


木が私にこう言ったのです
『見ないでお行き 見ないでお行き
葉の舞う姿など見ないでお行き
そこでどれほど待っていても
またご注文どおりに葉を落とすわけにはいきません』


それなら
とグロリアーナはこう言います


いつ葉が舞うかはあの木にも分かりません
緑の葉は枯れ葉ほどは落ちないもの
一度だけ見せてくれた葉の舞いのお礼に
あなたの美しい歌を聴かせておあげなさい


そうしたらいつかは


けれど葉の舞いは葉が葉として行うもの
木が木として見送るもの
あなたがじっと待っていても
何をどうするいわれもありません


しばらく黙っていた鳥はその木に近づき
枝の間をかい潜ったりし始めました
ルルル ルルル
ルル ルルルルル
あの枝この枝擦り抜けながら
持ち前の愛らしい声で歌うのです
ルルル ルルル
ルル ルルルルル


その拍子に、
細い枝がぽきりと折れて、
瑞々しい葉も一緒に落ちて、
舞う間もなく地面に落ちて、


それでは満足できないと言って、
鳥はまたも歌を忘れて泣きじゃくるのでした…

 

 

もどる