しあわせものがたり 沙風吟

 

ええー、
と、きみは不服そうな声をあげた。
あたしが主人公かと思ってたのに。

その小さい部屋で、
君の言葉に、皆が笑った。
僕も笑った。
きみは少しだけがっかりしたみたいに、でも一緒になって笑った。

きみは小さくて、
生意気で元気で可愛くて、
多分自分でも気づかずに、少しだけ傷ついていた。

誰も世界の主人公なんかじゃない。そういう話だった。
生まれた時から自分は自分の人生の主人公だけど、
他の人だってそうだから、
世界には主人公がいない。
そういう話だった。

きみは小さくて、
生意気で元気で可愛くて、
照れたみたいに笑いながら、少しだけがっかりしていた。

僕はきみを抱きしめた。
笑いながら、できるだけさり気なく。
でも思い切り抱きしめた。
ねえ、だけど、俺の物語の主人公はきみなんだよ。
口には出さなかったけれど、そう思って、
くすぐったそうに笑うきみを、
強く強く抱きしめた。

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