真夜中図書館・所蔵図書試用版 


少女たちのおもちゃ

 

しじま

 

 

 ☆ 見て楽しむもの

 

 誕生日に、パパから星をもらった。
 「おめでとう」とにっこりすると、パパはゴソゴソとポケットをさぐってから、ハイと差し出したのだ。
 毎年、誕生日ごとにくれる、いつもの金平糖くずだと思っていたあたしは、もらうなり、かじろうとした。
「ああコラコラ、慌てないで。よく見てごらん……」
 そこであたしは初めて、手の平にのせられたものに目をおとした。
「うわぁ〜」
 それは金平糖くずとは似ても似つかないシロモノだった。
 まずボールのようにまん丸なのだ。おまけに、手の平スレスレに宙に浮かんでいる。それは、凄い速さで回転しながら、きれいな青白い光を発していた。
 ヒュンヒュン ヒュンヒュン
 目の高さまで持っていくと、顔に小さな風がかかるのが分かる。
「なぁに? これ。食べられる物なの」
 パパからの誕生日プレゼントで、いままで食べ物以外をもらったことがなかったのだ。口の中でパチパチ弾ける流星群、トローリと甘い天の川、香ばしい小惑星……。
 かつてのプレゼントたちがザッと頭の中を過ぎ去っていく。「いいや、これはこうして手にのせて、じっと観察するものなんだ。見て楽しむものなんだよ」
 パパ自身もうっとりと目を細めて、回るボールを見ている。そのひげもじゃの顔が、青白く染まっている。
「おまえも、もうそろそろ大人に近づいてきたからな。これは、その特別なプレゼントだよ」
「大人って……まだあたし、二兆歳になったばかりよ?」
「二兆歳といったらもう一人前だよ。パパなんてその頃には働いていた」
「ふぅん。……ねっじゃあ、これどうしたらいいの? 何か世話が必要? 見ないときはどこに置いておけばいいの?」
 パパはにっこり笑うと言った。
「特に世話は必要ないよ。ただそっと静かにしておいて、あまり乱暴にしないことが大切」

 

 それから時が過ぎて、誕生日がくるごとに、パパは星をプレゼントしてくれた。この回転するボールたちが星であると知ったのは、少し後になってからだ。
 それひとつで完全な星、というものを、あたしはいままで見たことがなかった。星というものは、一握りほどのつまらない砂粒の集まりだとばかり思っていたのだ。「見て楽しむ」星もあるのだと、あたしは初めて知った。
 星は全部で五つになっていた。あたしの一番のお気に入りは、最初にもらった青白い星だった。もらってしばらくしてから、あたしはそれに名前を付けた。
「青くてまん丸。だから、あんたは『あおまる』ね」

つづく

 

 
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