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          真夜中図書館・所蔵図書試用版 
         
           
         
         
         
         しじまの6回転する万華鏡
         
           
         
         しじま 
         
           
         
           
         
          ▲ベルトコンベアーは夢を乗せて▼ 
         
           現在私は、とあるパン粉工場で働いている。いちど工場という所で働いてみたかったのだ。パン粉であったのは偶然だ。 
          そこで何をしているかというと、流れてくるベルトコンベアーに食パンをちぎって一個一個乗っけてったり、パンの耳を切り落としたり(これはまだやらせてもらえてない)、二キロの粉になってドサァと落ちてくるのを袋詰めにしたりしている。白い上下の作業着を着たおばさんたちが、みな黙々と働いているのである。 
          私はまだ入ってから一ヶ月にも満たない新人だ。他にもう一人、新人の加藤さんという人がいる。私達はいつもペアを組んでやっていた。 
          あるとき加藤さんが風邪で休んだ。エライ女の人が私に言った。 
         「今日はパン乗せね」 
          パン乗せ―すなわちベルトコンベアーにひたすらパンを 
         乗せていく仕事である。単に乗せるだけじゃなく、種類の違うパンを三対一の割合で乗せていく。 
          はじめ私は、何も考えなくていいし、こりゃあ楽でいいやと思っていた。だが、それは大きな落とし穴であった。 
          その日、なんと私は一日中(九時〜五時)パン乗せをやらされたのだ。ジェットコースターのはじまりのようにゆっくりと登っていくもめん豆腐そっくりの白パンたち、それが頂上で一気に突き落とされ粉砕されていく……目で追っていくうちに、当然の成りゆきかも知れないが、目まいがしてきた。ついでに頭痛と、イヤ〜なモヤモヤ感。 
          まずいっ! このままいったら吐くことになるっっ! 
          決して決してベルトコンベアーを見続けてはいけなかったのだ。脳裏に、工場を出てからもボルト締めの動作を続けるチャップリンの姿が浮かんだ(『モダンタイムズ』だったっけ?)。 
          長時間の単純作業は、人格破壊を引き起こす原因になりうると何かの本に書いてあった。納得……。 
          このままではイカンと、私は懸命に気を逸らそうとした。 
          まず、絶対ベルトコンベアーを見ないようにした。手だけ動かしながら、頭だけ夢幻の世界で遊ばすのだ。強く強く、私は念じた。 
          その努力はすぐ報われた。目は半開きになったが、私は容易に夢幻の世界に迷い込むことができたのだ。夢幻とはいえ、それは、リアルなリアルなアナザーワールドだった……。 
          場所はここ、とあるパン粉工場。 
          
         
         つづく 
         
          
         
          
         
         
         
          
         
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