真夜中図書館・所蔵図書試用版


 

音色の行方

しじま

 

 雑音混じりのラジオが、深夜二時を告げた。
 男は日に焼けた節くれだった手をハンドルから離し、チューナーのつまみをいじった。
 どうも最近、入りが悪い。どこを回しても雑音は消えなかった。軽く溜め息をつくと、男はラジオを切った。
 静寂が訪れた。
 聞こえるものといったら、時折横を通りすぎていく大型トラックの低い唸りくらいだ。この時間に高速道路を走っているのは、主に男が運転しているような配達用トラックだ。といっても季節柄、まだちらほらツアーバスも見かけたりする。きっとバスの中は、スキー好きの呑気な学生たちでひしめき合っているのだろう。
 他に見かけるものといったら、危なっかしい運転をする目障りなバイク集団だ。単なる物好きなのか、エネルギーがあり余っているのか、いちいち派手なパフォーマンスを披露していく。
 たった今も、一際大きなエンジン音を残して、脇スレスレを駆け抜けていった。何故か郷愁を誘う、パラリラパラリラというラッパ音が耳に残った。見る間に赤いテールランプが小さくなっていく。
 深夜の高速道路は男にとって、もうすっかりお馴染みのものだった。この単調で真っ直な道路は彼の生活そのものだった。
 規則的な間隔をおいて続いている、オレンジにも白にも見える灯り……男には、もうこの生活がいつから始まったのか、俄かには思い出せなかった。
 深夜のドライバーという職に就く前は、コロコロと職場を変えていた。給料のいいところを目指し、しかし飽きてはすぐ辞めた。その繰り返しだった。やりたいことが何か見つからなかったのだ。
 あるとき男は自分に問いかけた。
 オレは、何が好きなんだろう……。
 しばらく考えていると、答えがゆっくりと浮かび上がってきた。
 車―そうだ、オレは車が好きだ。
 的が絞られてくると、探すのは簡単だった。
 男は配達人という仕事を得た。
 なかなか給料もよく、苦にならない。今のところ一番長続きしている。
 最近、はっきりと意識してきたことだが、男には密かな夢があった。
 それは、インドに行くことだ。

つづく



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