真夜中図書館・所蔵図書試用版
異邦人
水木 しのぶ
真夜中に目が覚めたとき、ベットの横に人が立っている。
そのときは、それが誰だか解るけど、翌朝目が覚めると思い出せない。
そんなことが彼女にはよくあった。
〜☆〜
何年前からだったのか定かではないが、村のはずれの廃屋に一人の女が住み着いていた。
かつては教会だったその廃屋にやってきたその女は、無口で暗く、性格はひねくれ、顔もそんなに美人じゃかった。
女はいつもぞろぞろとした黒い布きれを頭からすっぽりとかぶり、薬草や鉱石を収集して暮らしていた。いつの間にそこに住み着き、いつからそうしていたのか、はっきりとしたことは村人の記憶にはない。ただ、気が付いたらそこで、そうやって暮らしていたのだ。
村人はそんな彼女を幾分冷たい目で見、特に関わり合いを持たないようにしていた。
しかしその無口で無愛想な女は、子供達にとって好奇心の格好の対象となった。
あの女は、ただの浮浪者じゃないぞ。きっとどこか遠い国の偉い人に違いない。いやいや、きっと魔女なんだ。それもとびきり邪悪な。それとも、もしかすると凶悪な犯罪者かもしれないぞ。
そんな噂をしながら、子供達は何かとその女と、彼女の廃屋を調べようとした。女は子供達の相手はしなかったが、邪魔にもしなかった。彼女のすみかに忍び込んで、大事な薬草をだめにしたときすら相手にしなかった。
廃屋は子供達の恰好の遊び場となったのだ。
しかし大人達はそれを心良しとはしなかった。
そして、女のところへ唯一遊びに行かなかった村長の娘の周りで、いくつかの事件が起こるようになった時、よそ者である彼女が真っ先に疑われたのは当然のことであった。
つづく
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