秋ではないけれどつるべ落としに暗くなっていくなかで、左右に「皇国の興滅この一戦にあり」「日の本世界統一連盟」の垂れ幕のかかる、日比谷野音の舞台正面一杯に張られたスクリーンに、前回のライブチラシに使われた、襟元から上の、ハイル・ヒットラー式に右腕をまっすぐ肩の上に振り上げた、モノクロの鳥肌実の顔が映し出される。 あぁ、これはどこかで見たことがある、そうか、80年代の丸尾末広描くところの帝國軍人そっくりだ、などと思いながら見ていると、その写真がすこしずつ大きくなっていき、気づいたときにはスクリーンいっぱいに鳥肌実の顔が拡がっている。と、思うまもなく今度はその顔がすこしずつ色づいてきた。 最初は肌色を加味しているのかと思って見ていたが、色は鳥肌実のおそらくは空高く掲揚された日本の国旗を凝視める、いささかイッっちゃっている三白眼の白目を残して、だんだんとどす黒いような紫がかった赤へと進む。と、突然そのどす赤い鳥肌実の顔が中心から膨張し始め、上映前、「731部隊」「山崎パン杉並工場」「日本船舶振興協会」などののぼりが立っていた観客席がざわめくなか、丸く変形した鳥肌実の顔は、日本国旗の日の丸へ。お見事。 しかしながらネタ自体はすでにウェブ発言集に載せられているもののおさらいに近く、また2chなどのアングラ掲示板における政治・宗教・ネズミ講などの発言をきわめて洗練された形で再構成しているかのようなものが多かったように思う。ちがう言い方をすれば民衆の合意をスマートにまとめ上げてあおり立てるナチスのやり口のパロディともいえようか。 だがわたしにとっては、むしろネタとネタの間にスクリーンに映し出される、街宣活動をする鳥肌実の映像のほうが興味深かった。ちりとりを持たずに箒をパートナーとして、ダンスのように駅前清掃する動きなどには、鳥肌実のオリジナルな身体表現が見られたように思う。その意味では最後のネタで、自分が脚で漕ぐことで進む、竹槍戦車に乗って登場した鳥肌実の姿には素直に笑えた。 とはいえ舞台芸人の芸というのはなまものなので、今回のみでわたしの鳥肌実に対する評価を決めるのはやめておこうと思う。続けて観察し、個々の舞台での芸人の芸を連続体としてとらえることによって、はじめて舞台芸人の全容がほの見えて来ると思うからである。 それにしても、沖縄サミット開催中で警戒下の日比谷公園での右翼ネタ披露という、それ自体が舞台装置としてすばらしい。鳥肌実はネタというよりその舞台まわりでの存在のあり方から楽しませてくれる、ひさびさに面白いと言える芸人である。また外見に関しては、痩せ型もしくは小柄な男性好きで、大川総裁および及川光博ファンのわたしにとっては、たまらない状態であった。
追記: Mme chevre http://www.torihada.com/torihada.html ファンサイトのひとつのそのまた一ページ: |