耳で視るタンゴ

〜ヨーヨー・プレイズ・ピアソラ〜

 タンゴの名曲をチェロの名手が弾く、というコンセプトに、おそるおそるCDをセット。というのも、もともと楽器の中でも官能的な音を出す弦楽器が多く加わっている、タンゴ、というジャンルに、さらにチェロが加わったらいったいどうなってしまうのか、という思いがあったからだ。

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 こちらが辟易するような甘さか、それとも聴くものがついていけないほどの激しさというようなものに対してのおそれを、しかし、ヨーヨー・マはすっかり吹き飛ばしてくれた。バンドネオンとチェロが、あるいはチェロとピアノが、タンゴのダンサーのように互いに寄り添い、かつ離れ、する演奏で。

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 このCDに収められたのは、時には、見ているうちに、こちらのからだが火照ってきそうなほどに密着して踊る、タンゴのペアのようであり、また時には離れて踊っているのに刺激しあうふたりのようでもある、スリリングなセッションだ。そしてこのスリリングさとは、未熟なタンゴのペア・ダンサーが踊るのをわたしたちが視るときの、どこかでターンが失敗して転びはしないか、というようなスリルではない。

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 これは、タンゴを踊るうちにそれを愛するあまり、自身のからだがタンゴそのものになってしまったダンサーが踊るのを視るときに、わたしたちが予想する次のステップ、次のターンを大きく裏切る美しさへのスリルなのだ。

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ヨーヨー・マの弾くピアソラ。これは耳で視るタンゴだ。

Mme chevre

CD『THE SOUL OF THE TANGO』データ

'YO-YO MA / SOUL OF THE TANGO / THE MUSIC OF ASTOR PIAZZOLLA'

'97年春、ブエノスアイレス、ボストンおよびロサンゼルスにて演奏・収録

発売元:SONY

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