恐るべし、フランス女

〜ロスト・チルドレン〜

 

 すべてが濃厚に、えぐみさえ感じさせる濃度で迫ってくる映画。それはたとえば、パリのショコラティエでホット・ショコラにリキュール入りチョコレート・ボンボンを食べているまわりを、いまだ現役!とばかりに着飾ったもと・パリジェンヌ、元・マダムたちに囲まれて、香水の香りにくらくらするような。いや、この映画はそんなものじゃない。この映画は、そんなショコラティエの店先で、血みどろでグラン・ギニョルめいた戦いの結果倒れているテロリストを、意地のわるい子どもたちが棒でつついたり、つま先で小突いたりしているような。

 そんなこの映画の濃厚さ加減は、登場人物のフリークスめいた造形や、げっぷが出る直前まで盛られたCG、「ドクター・モローの島」と「時計仕掛けのオレンジ」、江戸川乱歩の「黒蜥蜴」とを掛け合わせて子供じみた悪夢をぶち込んだような、そんないろいろででできあがっている。
 しかし、どんな濃厚なお汁粉にもひとつまみの塩が必要なように、この映画にも、自身はくどくはないものの、まわりを引き立たせる要素が介在する。それは、主人公の少女・ミェットの冷ややかさである。

 ミェットはくすりとも笑わない。子どもが泣くように泣きもしないし、騒ぎもしない。ただいつも冷ややかな目でスクリーンのなかを見下ろしているだけである。
 このふてぶてしさスレスレのふるまいは、今では記号化された「フランス女」のそれだ。しかし、いくら記号化されていて、そしてミェットを演ずる少女が、そうした記号を具体化するのが職業の女優であるからとはいえ、このプロのフランス女っぷりには怖ろしいものがある。物語のクライマックス、少女が好きな男のために命がけで闘う場面などは、まるで往年の名女優・マレーネ・ディートリッヒが『砂塵』で演じた高飛車女の最期の場面さえ思い起こさせるほど。そして、あるいは、ジュデイット・ビッテの演じるフランス女っぷりは、彼の地で生まれた女子ならば、女優でなくとも、ものごころついた時から備わっているのかとさえ勘ぐるほどに。

 なにもかも、その世界の断片が夢に表れそうなほどくどく、怖ろしいこの映画で、ミェット役の女優、ジュディット・ビッテの演技は、異界から射出された黒曜石の矢尻のように、映画に深く食い込み、光を放っている。

Mme chevre

 

映画『ロスト・チルドレン』データ

原題:La Cite des Enfants Perdus、'95年フランス映画

監督:ジャン・ピエール・ジュネ&マルク・キャロ

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