〜ロスト・チルドレン〜
すべてが濃厚に、えぐみさえ感じさせる濃度で迫ってくる映画。それはたとえば、パリのショコラティエでホット・ショコラにリキュール入りチョコレート・ボンボンを食べているまわりを、いまだ現役!とばかりに着飾ったもと・パリジェンヌ、元・マダムたちに囲まれて、香水の香りにくらくらするような。いや、この映画はそんなものじゃない。この映画は、そんなショコラティエの店先で、血みどろでグラン・ギニョルめいた戦いの結果倒れているテロリストを、意地のわるい子どもたちが棒でつついたり、つま先で小突いたりしているような。 そんなこの映画の濃厚さ加減は、登場人物のフリークスめいた造形や、げっぷが出る直前まで盛られたCG、「ドクター・モローの島」と「時計仕掛けのオレンジ」、江戸川乱歩の「黒蜥蜴」とを掛け合わせて子供じみた悪夢をぶち込んだような、そんないろいろででできあがっている。 ミェットはくすりとも笑わない。子どもが泣くように泣きもしないし、騒ぎもしない。ただいつも冷ややかな目でスクリーンのなかを見下ろしているだけである。 なにもかも、その世界の断片が夢に表れそうなほどくどく、怖ろしいこの映画で、ミェット役の女優、ジュディット・ビッテの演技は、異界から射出された黒曜石の矢尻のように、映画に深く食い込み、光を放っている。
原題:La Cite des Enfants
Perdus、'95年フランス映画 監督:ジャン・ピエール・ジュネ&マルク・キャロ 中野翠似のシャム双生児の極悪ミンチン女史ぶりは必見の価値あり |