編集長部 御近所情報 「ういろう」


 編集部のすぐそばに写真の建物がある。国道一号線で小田原をいくと、必ず目に入る建物だ。これが小田原城だと思っていた、とぼけたやつがいたが、いくらなにんでもここまで本物は小さくない。
   
これは、「和菓子店 + 薬局」なのだ。小田原名物である。どうして和菓子と薬局が一緒になってるの? 説明すると、なんだか長くなるが、要するに元は室町時代からの薬屋。

「とうちんこう」という薬を製造販売していたのだ。それの口直しに作ったのが「ういろう」という和菓子なのだ。(ここらへんは異説もあって、良く分からん?)

今でも、店にいくと、薬販売の部分と、和菓子販売部門がある。さらに喫茶店まであって、観光バスが年中寄っている。

編集長の通勤路に近く、ほとんど毎日目にして行き来している。なんだか高いので、薬もお菓子も購入した事ないが、そろそろ試してみようかとは思っている。由緒正しき店という事だろうか、なんとなく「気位」が高い雰囲気がある。

五時になると、ぴたりと閉まってしまう。老舗中の老舗という所だ。編集長の家に来るなら、これを目標にくれば良い。ここまで、歩いて三分、自転車なら一分で来られる。


 【外郎売り】
 さて、ういろうで有名なものと言えば、「外郎売の台詞」だ。亨保3年(1718)に、二代目市川団十郎が「ういらう」で持病が治った返礼に、「ういらう売り」に扮して、早口で効能をまくしたて、江戸でも評判になり日本中に広まった。店にいくと、これが印刷されたパンフが置いてある。

歌舞伎役者、その他、「喋り」を芸とする人達の基本訓練として用いられてきた。今でも、劇団、アナウンサー等の卵達が、暗記させられて、練習する重要課題となっている。これを暗記して、最後まで言える人間は多分一万人に一人程度ではないだろうか。それほど難しい。

ミクロコスモス放送局のアナウンサーなので、昔からなんとか暗記して、言えるようにしようと願っていたのだか、いくら練習しても、そのたびにくじけていた。まあ、折角由緒ある「ういろう売り」の近くに住んでいるので、練習してみようと思っているのだか、なかなか困難が予想される。

みなさんも、これ、練習してみませんか。先生とか、人の前で話す仕事の人は、必修かも。出来るようになれば、確かに口が回る事は確かだ。

近くに、名物は多いので、またご紹介します。

て、有名な口上だが、以下がその台詞

最初を読むと、来歴が良く分かる。 口がこんがらがる早口言葉は、第二段落あたりから始まる。

  書写山の社僧正、粉米のなまがみ、粉米のなまがみ、
    こん、粉米のこなまがみ

  武具・馬具・武具・馬具・三武具馬具、
     合わせて武具馬具・六武具馬具、

  菊・栗・菊・栗・三菊栗、合わせて菊・栗・六菊栗、

  麦・ごみ・麦・ごみ・三麦ごみ・合わせて麦・ごみ・六麦ごみ、

あたりだけでも、言えたら偉い。数千回練習して、姿勢を直して、体全体の骨と筋肉を鍛え直し、運動性言語野の脳細胞がシナプスを増やして初めて読めるようになるとのこと。

  外郎売の台詞

  拙者親方と申すは、お立ち会いの中に、御存じのお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪いたして、円斉と名乗りまする。元朝より大晦まで、お手に入れまする此の薬は、昔ちんの国の唐人、外郎という人わが朝へ来たり、帝へ参内の折から、此の薬を深く籠め置き、用ゆる時は一粒づつ冠の隙間より取出す。依って其名を、帝より「頂透香」とたまわる。即ち文字には、「いただき、すく、におい」と書いて「とうちんこう」と申す。只今は此の薬、殊の外世上に弘まり、方々に似看板を出し、イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと色々に申せども、平仮名を以て「ういろう」と記せしは親方円斉ばかり、もしやお立ち会いの内に、熱海か塔ノ沢へ湯治にお出でなさるか、又は伊勢参宮の折からは、必ず門違いなされまするな。お登りならば右の方、お下りならば左側、八方が八つ棟、おもてが三つ棟玉堂造、破風には菊に桐のとうの御紋を御赦免有って、系図正しき薬でござる。イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、御存知ない方には正身の胡椒の丸呑、白河夜船、さらば一粒食べかけて、其の気味合をお目にかけましょう。

  まずこの薬を、かように一粒舌の上にのせまして、腹内へ納めますると、イヤどうも言えぬは、胃、心、肺、肝がすこやかに成って、薫風喉より来り、口中微涼を生ずるが如し、魚鳥、きのこ、麺類の食合わせ、其他、万病速効あること神の如し。さて、この薬、第一の奇妙には、舌のまわることが銭ゴマが裸足で逃げる、ひょっと舌が回りだすと、矢も楯もたまらぬじゃ。そりゃそりゃ、そらそりゃ、廻ってきたは、廻ってくるは、あわや喉、サタラナ舌に、カ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重、開口さわやかに、アカサタナハマヤラワ、オコソトノホモヨロヲ、一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、盆まめ、盆米、盆ごぼう、摘蓼、つみ豆、つみ山椒、書写山の社僧正、粉米のなまがみ、粉米のなまがみ、こん、粉米のこなまがみ、繻子、ひじゅす、繻子、繻珍、親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親嘉兵衛、子嘉兵衛、子嘉兵衛、親嘉兵衛、古栗の木の古切口、雨合羽か番合羽か、貴様の脚絆も皮脚絆、我らが脚絆も皮脚絆、しっかは袴のしっぽころびを、三針はりなかにちょと縫うて、ぬうてちょとぶんだぜ、かわら撫子、野石竹、のら如来、のら如来、三のら如来に六のら如来、一寸先のお小仏に、おけつまづきやるな、細溝にどじょ、にょろり、京の生鱈、奈良生学鰹、ちょと四五貫目、お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ茶立ちょ、青竹茶筅で、お茶ちゃと立ちゃ、

  来るわ来るわ何が来る、高野の山のおこけら小僧、狸百匹、箸百膳、天目百杯、棒八百本。武具・馬具・武具・馬具・三武具馬具、合わせて武具馬具・六武具馬具、菊・栗・菊・栗・三菊栗、合わせて菊・栗・六菊栗、麦・ごみ・麦・ごみ・三麦ごみ・合わせて麦・ごみ・六麦ごみ、あの長押の長薙刀は誰が長薙刀ぞ、向こうの胡麻殻は、荏の胡麻殻か・真胡麻殻か、あれこそほんの真胡麻殻、がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきゃがれ小法師、ゆんべもこぼして又こぼした、たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、たっぽたっぽ一丁だこ、落ちたら煮て食お、煮ても焼いても食われぬ物は、五徳・鉄球・かな熊・童子に・石熊・石持・虎熊・虎きす、中にも東寺の羅生門には、茨木童子がうで栗五合つかんでおむしゃる、かの頼光の膝元去らず、鮒・きんかん・椎茸・定めて後段な・そば切り・そうめん・うどんか・愚鈍な小新発地、小棚の、小下の、小桶に、こ味噌が、こ有るぞ、こ杓子、こもって、こすくって、こよこせ、おっと、がてんだ、心得たんぼの、川崎、神奈川、程ヶ谷、戸塚は、走って行けば、やいとを摺りむく、三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯がしや小磯の宿を、七つ起きして、早天そうそう相州小田原とうちん香、隠れござらぬ貴賤群衆の、花のお江戸の花ういろう、あれあの花を見て、お心をおやはらぎゃという、産子・這う子に至るまで、此のういろうの御評判、御存知ないとは申されまいまいつぶり、角出せ、棒出せ、ぼうぼうまゆに、臼、杵、すり鉢、ばちばちぐわらぐわらぐわらと、羽目を外して今日お出でのいづれもさまに、上げねばならぬ、売らねばならぬと、息せい引っぱり、東方世界の薬の元締、薬師如来も照覧あれと、ホホ敬って、ういろうは、いらっしゃりませぬか。