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 ミクロコスモス総合版2004年8月26日「連短第3回」
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             発行 ミクロコスモス出版
           
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 連短 シリーズ「対話」第三回
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【連短について】

 連短は、連歌や連句のように、短いエッセイや小説を連作していく試みです。今は、「対話」をテーマとして続けています。第3回目をお楽しみください。今回は、3人の読者より原稿をいただきました。



【30年の夏】

 夏を惜しむツクツクボウシの声を聞くと蘇る場面がある。大学の後期が近づいた午後、僕は1年先輩の彼女と文芸部の入り口でばったり出会った。彼女とは特に親しかったわけではない。僕はどちらかと言えば、もうひとつ所属する山岳部のほうが性にあっていた。

挨拶がわりに彼女に話しかけていた。

 「ふえ〜、まだ暑いすね!。もう〜夏はコリゴリですね。」

彼女は僕に返した。消え入りそうな声で。

 「私は夏がすきよ。寂しさを忘れてさせてくれるから」


僕は、一瞬その言葉にたじろぎ、まばゆい光の中で彼女を見つめていた。夏は暑く冬は寒い。それだけの感覚しかない僕は、不思議な思いにとらわれた。気取って言ったのか? 控えめな感じだから、そうでもあるまい。

地味な服、薄い化粧、すらっとした身、ものうげな表情。自然に彼女を観察していた。静かな口調だが、それでいて芯の強さを感じた。もろいようで強いものがあっ た。

ベールに包まれ、近づけそうで、近づけない人だった。目立つ人ではなか ったが、男性の目はひいていた。いつのまにか、彼女に魅了される自分を感じていた。

 あれから30年。 こんな場面を思い出す自分がおかしくなる。琥珀色になった写真の場面のようだ。年月はどう彼女を変えたのだろうか? 僕の頭にも、白 いものが混じり、少しは人の悲しみも分かるようになったが、いまだに「寂しさを忘れさせてくれる」と言った真意は分からない。 彼女は蜻蛉のような人だった。

 相変わらず、ツクツクボウシが鳴いては、静かになる


【千年の対話】

 ある思想家がこのような事を言っています。未来の歴史家が21世紀の最大の出来事を挙げるとするなら、多分、東洋と西洋の対話の深まりであろうと。

 インド哲学・中国思想・仏教・・その深淵で複雑な心の世界。

 ギリシャ哲学・キリスト教思想 そしてその申し子の合理主義と科学思想

この二つ真の対話を始めていくのが21世紀であるといいます。もちろん、対話は16世紀にでさ始まっていました。しかし、それは対話とは呼べない不幸な文明の遭遇と言っても良いものでした。皮相的なシンクレティズムのような動きは、数知れずありました。でも、その深奥と深奥が対話するには、20世紀には機が熟していなかったのです。

 数千巻にも及ぶ仏典の数々、その現代語への再整理でさえ100年を要するかもしれないと言われています。キリスト教の文献の厚みも、生やさしいものではありません。それが学者達により整理され、真摯な哲学的研究によって比較研究されていく。それだけでも、どれほどの時間がかかるか予測もできません。でも、その仕事は、始まっています。

そして、その途上で、きっと人類は30世紀まで続く、新たな哲学を生み出す事でしょう。そして、その哲学が、学者達の手から、人々のもとに流れていく。直接の人々の文化交流の相俟って、多分新しい何かを生み出すでしょう。

 30世紀まで、人類は何を経験していくのでしょうか。その途上で、何度、人類は絶滅の危機に遭遇するのでしょうか。30世紀を考える射程をもつ知恵は、いまだにありません。

でも、文明と文明の対話という、大きな出来事のうちに、人類はすれすれのことで、生存のための哲学を生み出していくはずです。戦争と平和でさえも、壮大な対話の中にとりこまれていくでしょう。

 キリスト教と仏教の対話。そんな切り口からも、千年かかるかもしれない壮大な対話が、学問の世界の片隅で始まっています。いや学問だけでなく、文明を異にする人々の対話も始まっています。そんな、真摯な対話に少しでも参加できれば、21世紀を生きる者として、意義ある人生だと思います。


【100年を隔てた対話】

 植林の森へいくと百年を隔てて、過去の夢と汗と対話できます。百年前、このスギを植え、未来を思った人が確かにいたはずです。その夢に囲まれ、その木の家に住み、私たちは生きています。きっと、百年前の山の仕事人達は、私達よりずっと長い時間を手中に収める人だった気がします。

「ほれ、今日、ちょっと枝払っておいたから、後百年すりゃ、良い樹にるさ。」

そんな会話が聞こえてくる気がするのです。
今手入れされている杉の木。収穫時期は、50年後です。その時、どんな姿で、どんな思いで、この木を伐ってくれるのでしょうか。昨今、地球温暖化で、この先どうなる事か。
でも、まあ、余計な事考えずに、きちんとした仕事しておけば、きっと木が育ってくれるでしょう。


【編集長より】

 今日は、3人の執筆者の方から原稿をいただきました。それそれ、無記名とのご希望なので、ペンネームも無しで掲載させて頂きます。連短は、各回で、できるだけ違う世界が交錯すると良いと考えています。他の読者の方も、是非短文をお寄せください。

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      今日はここまで ではまた。
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【お知らせ】 
昨日、お願いしましたように、今月末も「ミクロコスモス購読継続希望」をお願いします。31日までです。
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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一   

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