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ミクロコスモス総合版2004年7月24日「不思議に思うこと」
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発行 ミクロコスモス出版
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不思議に思うこと
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不思議
私は不思議でたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかってゐることが。
私は不思議でたまらない、
青い桑の葉たべてゐる、
蚕が白くなることが。
私は不思議でたまらない、
たれもいぢらぬ夕顔が、
ひとりでばらりと開くのが。
私は不思議でたまらない、
誰にきいても笑っていて、
あたりまへだ、といふことが。
金子 みすゞ
金子みすゞの詩を可愛らしいと、表面的に受け取ってはいけません。一見可愛らしい表現の裏に、世間の無理解によって殺されたとさえ言える自殺で、若くして亡くなったみすゞです。そこには周囲への厳しい批判や悲しみが込められています。
ひとりぬきんでた想像の力で、未知の世界へ羽ばたこうと、彼女はもがきました。その想いの深さとやさしさを理解せず、否定する人達への批判と悲しみが詩にあらわれます。彼女は天才でした。
子供の「どうして」にうまく答えられるのは天才だけだと言います。想像力ある者の不思議さに答えられるのは、同じく想像力のある者だけです。
赤い実を食べた鳥が赤くなる。
青い実を食べた鳥が青くなる。
そんなファンタジーを心に抱いてはじめて、現実の出来事が不思議で仕方なくなるのです。青い桑の葉を食べた蚕が、青くなっても良いではないですか。黄色なっても良いではないですか。想像の世界には無限の可能性があるのです。想像の幅が広い人だけが、多くの人が当たり前と決めつけてしまうことに対して、先鋭な不思議さを感じるのです。
想像力が広がるほど、当たり前の事、単純な事が不思議に思えてくるのです。そして、世界に感じた不思議さは、その不思議さを感じない人々に向かいます。
私は不思議でたまらない、
誰にきいても笑っていて、
あたりまへだ、といふことが。
真に創造性のある天才を社会が受けとめる事の困難さ、当たり前と言う言葉が禁句である社会を用意しなくてはならないのです。
【単純な不思議さ】
私は不思議でたまらない、
たれもいぢらぬ夕顔が、
ひとりでばらりと開くのが。
ニュートンはリンゴが落ちるのを見て引力の法則を思いついたと伝わっていますが、確かにリンゴが急に落ちるのは不思議なものです。普通の状況では、木の葉が散るのは風が吹いたからだとか、なにか原因が近接してあるものです。でも、リンゴの落下はいかにも突然で、落ちる事か独立していて、原因が探れないのです。
顕微鏡で見る昆虫の構造や、動く仕組みは実に精密複雑に出来ていて驚かされます。こんなミクロの世界の生物の精巧さを神の存在の証明にしようとしたりします。「こんな複雑なものが神の手なしに作られる筈がない・・」
でも科学者や工学者は、少し受けとめ方が違います。 彼らは、複雑なものも、精緻なものには、あまり不思議を感じません。それは、少数の原理を偶然に組み合わせる事で、どんな複雑なものも組み立てられる事を知っているからです。少数の部品を、理論に従い、組み合わせていけば、どんな精巧な機械も作る事は出来ると分かっているのです。
科学者が不思議に思うものは、けっして複雑精巧なものではなく、単純な事、当たり前の事なのです。「どうして、磁石は引き合うのか。」「どうして石は地面に落ちるのか。」そんな事こそ、神様の仕業とでも考えないと、解決できない疑問なのです。
そんな単純な事に対する疑問から始まって、相対性理論から量子力学、超弦理論まで発展してきました。でも結局、いまだに磁石が引き合う理由、石が落下する理由は分からずじまいなのです。
どうして、私はあるの。
どうして、どうしてと不思議に思うの ?
私が考えている。
これはどういうこと ?
海の波は止まらない。
海が鏡のようにつるつるになったら面白いのに。
どうして時間が過ぎていくの。時間って何 ?
分かるってどういうこと。どこまでいったらすべてが終わるの ?
単純なことこそ不思議なのです。それを考える時、人は遠い神秘の世界に旅立つのです。
どうして、朝顔が開くのか、みすゞさんに答えてあげてください。できますか ?
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今日はここまで ではまた。
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【編集長の御近所情報】
小田原の町は、ちょうちん祭の用意のため、お堀に子供達のちょうちん作品が並んでいます。今年の流行の図柄は何だろう。
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ミクロコスモス出版 ミクロコスモス編集部
編集長 森谷 昭一
★ 編集部宛メール micos@desk.email.ne.jp
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