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 ミクロコスモス総合版2004年7月12日「ネムノキ」
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             発行 ミクロコスモス出版
 
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  森案内 2 「ネムノキ」
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本日は、森の科学的な説明とともに、森の文化や文芸も解説いたしましょう。
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   季節の花「ネムノキ」
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        ネムノキ  小田原 荻窪の山で 7月10日

 梅雨の季節、小田原付近の山は「生い茂れる」という表現がぴったりする程、葉でおおわれます。山は緑一色の塊になってしまい、遠目にはどれが何の木やら分かりません。そんな梅雨の森でも目立つのが「合歓木」(ネムノキ)です。緑一色の山を歩いて、ふっと紅色のものが眼に入ると、大抵はネムノキです。こんな句があります。

  どの谷も合歓のあかりや雨の中
               角川源義

雨の森林にぽつんぽつんと紅色の明さが灯されている景色を良く詠んでいます。

マメ科で、オジギソウと近縁です。Albizia julibrissin 。中国名「合歓木」は葉が手を合わせるように閉じる事からの命名。日本名は 眠る木→ネムノキ とつけられたと言います。ご存知のとおり夕方になると、対生する複葉を閉じてしまう珍しい樹木です。

葉の基部にある葉枕という組織内の運動細胞の膨圧の変化による就眠運動です。なんのために葉を閉じるのか・・夜の間に虫に食われにくくなる事は確かです。
  
花の方は逆に夜になると開きます。毛のように見えるのはおしべです。花本体は、8ミリほどの漏斗状で目立ちません。英名は「Silk tree(絹の木)」、これも楽しい命名です。

ネムノキの花は、なんだかぼわっとしていて、童話的です。葉っぱが眠るので、花も夢見るのでしょうか。

  合歓散れり夢のつづきを地にうつし 

             長倉閑山

アスファルトに落花しては可愛そうですが、林床に落ちて眠り続けている花とは、なんとも童話的です。

    
 あおぞらに昼はゆめみる合歓の花    

            石原 船月

ネムノキは、森の所々にぼつんと独立して生育している事が多いようです。あまり群生しているのを見たことがありません。

ネムノキは二次林(人の手の入った森林)に生育する事が普通です。斜面下部のような、土壌の厚い場所に生育し、乾燥地には適しません。根はゴボウ根で、太い直根が地中深く伸び、地表面近くには吸収根はほとんどありません。水が集まり、砂礫が蓄積するような場所に生育しやすいのです。

        写真では見えるでしょうか。中央にネムノキが咲いています。こんな葉の繁茂した緑一色の森で、遠目にも良く目立ちます。

万葉集では 夜にひっそりと 寄り添う葉にたくした恋の歌が有名です。

  昼は咲き夜は恋寝る合歓の花
       君のみ見めや戯奴さへに見よ

          紀女郎 (いらつめ) 巻八 1461 

  昼者咲 夜者恋宿 合歓木花  君耳将見哉 和気佐倍尓見代
 
ネムの木は、昼に咲いて、夜には恋しい想いを抱いて寝ると言いますけど、私だけで見させないで、君もここに来て見ましょうよ。

紀女郎(きのいらつめ)が、大伴家持(おおとものやかもち)に贈った歌です。

紀女郎は、年上の人妻。戯奴(わけ)、というのは目下の人への言葉です。若い大伴家持をからかったんでしょうか。もっとも返歌ではふられてしまうのですが。

   吾妹子が 形見の合歓木は 花のみに 
        咲きてけだしく 実にならじかも

              家持 巻八 1463

花のみ咲いて、実がならないかもと、そっけないのですが、まあその後も仲は続くようですが・・二人のやりとりの続きは万葉集をご覧ください。

実際にはマメ科ですから、フジやアカシヤなどと同じくマメの鞘をつけて実をつけます。良く実のなる方だと思うのですが・・。

目立つ花なのか、古今東西、ネムノキをうたう文芸は多いようです。有名なのは、芭蕉の奥の細道の作品

  象潟や 雨に西施や ねぶの花

雨に濡れる ネムノキを 古代中国の美女 西施に見立てています。象潟は、秋田県の地。昔は海に島が点在していましたが、地震で隆起して陸地になっています。花を美人の目に見立てたという説がありましたが、なんだかツケマツゲを連想してしまいます。

町に植えられる事も多くて、公園でもみかけますが、やっぱり森の中で見つけるネムノキが綺麗です。

   遠目にて みつけしネムに 目のさめて
       近くよりても  愛らし童話

なんだか分からない歌なので、解説すると、森で遠くの方に紅色の樹木がみえて、はっとして、なんだろうと近づいてみると、ネムノキだった。近づいてみると、可愛らしい童話のような花が咲いている。・・

・・・解説しないといけないような駄作ですみません。編集長の即席作です。なんだか言葉が選ばれていないなあ・・・・まあ、今の所はこんなもので、そのうちちゃんと直します。

本当は大暑あたりの季語なのですが、今年は季節が早いので、そろそろ咲き終わりそうです。まあ、まだ見られます。森で探してください。

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      今日はここまで ではまた。
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【お知らせ】

 森にばっかり出掛けていて、ちっとも記事ができずに申し訳ありません。早く連載ものの続きを編集しなくては・・・・
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ミクロコスモス出版  ミクロコスモス編集部
   編集長  森谷 昭一   

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